下痢

 診察が終わって家に帰ってきた。内科の先生によると、ノロウィルスの時は菌を出し切るのが良いらしく、胃腸を保護する薬と解熱鎮痛剤を処方してくれたが、基本的に出せる薬はないらしい。


「ご主人も牡蠣を食べたんですよね? ご主人はノロウィルスの症状は出ていないですか?」

「出ていません。私だけです……」


 内科の先生が「えぇ……不思議ですねぇ……」と首を傾げていたので、主人の胃腸は鉄が何かでできていると強く確信したのだった。


「ぎ……ぎもぢわる……」


 ベッドで横になっていると、大量の唾液が込み上げてくる程の吐き気が襲ってきた。


 何があっても絶対に吐きたくない私は溢れてきた唾液を口に溜め、吐き気が治ってきた頃にゆっくりと胃に流し込むという動作を繰り返していた。


 吐き気が少しマシになった頃、吐き気がした時に唾液が大量に溢れてくるのはどうしてなんだろう? と無性に気になってしまった。


 私は気になったらどれだけ身体がしんどくても調べる性質の人間だ。スマホで調べてみると、嘔吐中枢の近くに唾液分泌中枢があるためだそうだ。


 ほうほう。よし、これでより良い小説を書く為の体験ができたぞ。神様、私に良い経験をさせてくれてありがとうオリゴ糖。


 こんな時にまで小説の事を考えながら横になっていると、今度はお腹がグルグルと鳴り始めた。


「ま、まさか……看護師さんが言ってた下痢!?」


 残念ながら、看護師さんの予言は当たってしまった。腸が便を押し出すような動きを感じた私は、トイレと自室を何度も往復する羽目になってしまった。


 真夜中、私は激しい腹痛に襲われた。食べ過ぎた時になる下痢なんて可愛いもので、ノロウィルスによる下痢は少しお腹に力を入れただけで、ピュッ……と排出されてしまうのだ。


 お尻を拭き過ぎて肛門が痛い。とてつもなくジンジンする。この状態のままでは、ぐっすりと寝れやしない。


「はぁ……はぁ……。お腹もお尻も痛い……。ハイター臭とトイレの臭いが混ざり合って……は、鼻がいかれる。ぎ、ぎもぢわる……」


 私は用を足す度にハイターを薄めた消毒液を使って便器を掃除をしていた。全ては主人に移さない為だ。これはどれだけしんどくても私がやらねばならない。けれど、私も限界だった。


「うぅ、もう無理だ……。熱も三十九度まで上がってる。お願いなので、そろそろ寝させて下さい……」


 なんとかトイレから脱出し、ベッドに横たわった瞬間、私の意識は飛んでしまった。


 完全にノロウィルスを舐めていた。健康でいられるって本当に幸せだって、今回の事でつくづく痛感したわ。神様、お願いです。早く治してぇぇぇぇ(切実)






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