病院
午後診が始まる十分前に病院へ到着した。既に三人の患者がベンチに座っており、皆がゲホゲホと軽く咳き込んでいる。
受付の看護師が私を見るなり、「大丈夫ですか?」と声をかけてきた。
「この病院は初めてですか?」
「はい……」
「熱はありますか?」
「はい、かなり高いです……」
ぐったりとした口調で答えると、看護師さんは「順番前後します!」と声を張り上げた。
「別室に移動しましょう。歩けますか?」
「はい、なんとか……」
私はゾンビのような足取りで看護師の後をついて別室へ向かった。パイプ椅子に座って欲しいと促され、体温計を差し出される。
「体温を測りながらで良いんで、軽く問診させて下さいね。熱の他に何か症状はありますか?」
「酷い吐き気があります……」
「前日に何か食べましたか?」
「前日じゃないですけど、牡蠣を食べました……」
それだけ聞くと、看護師さんは「あぁ〜」と納得したかのように何度も頷いた。「生牡蠣ですね?」と聞かれたので、軽く頷くと持っていたメモに何かを書き始めた。
「牡蠣美味しいですよねぇ。私もあたった事があるんで、お身体が辛いのすっごく分かります。ちなみにお腹はくだしてます?」
「えっと、まだそんなにですかね……?」
私が曖昧に答えると、看護師さんは気の毒そうな顔に変わった。
「じゃあ、
看護師さんの言葉に私は目が点になった。
ちょっと待て。これからって何!? こんなにも吐き気が酷くて辛いのに、これから激しい下痢が来ると!?
私は絶望した。主人が牡蠣にあたらなくて良かったと思いつつも、こんなに苦しい思いをするんだったら、生牡蠣なんて最初から買わなきゃ良かった! と思ってしまった。
がっくりと項垂れていると、ピピピと電子音が鳴る。体温計を取り出すと、三十八度をゆうに超えていた。
「牡蠣を食べてから体調が悪くなったという事ですので、コロナではないと思います。一旦、待合室に戻りましょう。立てますか?」
「はい。あ……」
看護師さんに促されて立ち上がったが、持っていた鞄を床に落としてしまった。財布や定期入れ、会社のIDカードが床に散乱する。
しかし、気分が悪すぎてしゃがむ事すらままならなかった私を見て、看護師さんは嫌な顔を一切せずに拾い集めてくれた。
私は申し訳なさ過ぎて涙が出そうになった。
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