第13話

 アルテは突き出された槍を最小限の移動で避け相手の左側面に回り込む。だが、槍野郎は避けられた事に気づくと同時に強く踏み込む事で、更にスピードを上げてその場を駆け抜けようとした。援護に槍を避けた先に魔女の風の魔法が来ていた。

風の魔法は基本的に不可視なうえに速いので避けることが難しい。だが、アルテはそれすら最小限の動きで回避したおかげで、俺は槍野郎に雷の魔法を叩き込むことに成功して落とすことが出来た。


 ここに来るまでに何回かキメラと戦った経験が上手く活かせて良かった。

 似た様な状況で魔法を放つのが遅れて仕留められなかった時のアルテの説教は厳しかった。

 アルテが納得するまで、自分の失敗としっかりと向き合った上に対処の仕方を考えながらずっと探索していた時間はマジで辛かった。


 (今のは良かったよ。次の行動を考えながら動くことはとても大切な事だからね)


 『分かったよ』


 魔女の姉ちゃんの怒鳴り声が聞こえて来た。


 「バッカじゃないの!何勝手に突っ走ってあっさり落とされてんのよ!」


 「うっせえ!お前の援護射撃も余裕で避けられていたじゃねーか!」


 「戦闘に集中しろ。近接戦に長けている上に避け辛い雷魔法の使い手だ。この距離でも安心して良い状況じゃないぞ!」 


 戦闘中のくせにあっちで盛り上がってやがる。その割にしっかりとアルテに魔法で攻撃をしてきているのは流石だ。


 俺は魔力の弾丸の連射を行っているが、盾の男の周りに近づくと全て弾かれてしまい意味がなかった。


 (盾の人の周りには魔力による壁が出来ているから、彼を攻略しないと後ろにいる彼女たちには攻撃が届かないよ)


 『あの魔力の感じはバリアだったんだ。凄い魔力の濃さと範囲なんだけど。あれ突破するの無理では?』


 (また諦めるの?)


 『っ、誰が諦めるって言ったよ。全力でやっていいんだろ?あれ使っても文句言うなよ』


 『死に絶えろ、凡愚ども。頭を垂れろ、戦士達。高貴な神々が見捨てたこの世界。最早救いなどありはしない。哀れで愚かなお前達に、始まりの冬すら越す事は能わず』


 この魔法を使ったら訓練もクソもなく一撃で終わるから使わない様に言われていた魔法だけど、全力で良いって言ったんだから文句言われる筋合いねーし。


 (まあ、それもありだね)


 アルテは俺の詠唱を聞きながら、子供を相手にするみたいに言ってきた。

 アルテの同意も貰えたし、心置きなく今俺が使える最強の魔法を披露しようか。

 憂さ晴らしに過剰に魔力を注いだせいで、若干制御が効かないけど知った事か。


 『凍えろ、ウィンドルヴェト』


 自分を中心に風刃と氷雪の混じった極寒の暴風が部屋中に広がり、こちらを警戒しながら撃っていた遠距離攻撃を全て吹き飛ばしつつ、冒険者チームを飲み込んだ。


 「ちっ、オールガード!」


 「天使の抱擁!」


 風魔法を消し飛ばしながら迫る吹雪に、盾野郎と僧侶の姉ちゃんが即座にチーム全体に魔法の守りを使い乗り切ろうとしてるけど意味がない。

 既に盾野郎に掛けた魔法による守護が破壊され、盾野郎による守護も破壊されそうになっている。

 さらに僧侶の姉ちゃんの攻撃魔法も、魔女の姉ちゃんの風魔法もオールガードと天使の抱擁の効果外に出た瞬間に消し飛ばされている。

 もし、槍野郎が居れば二人の守護が効いている間はアルテに攻撃できたかもしれない。けど視界の悪いこの状況で、更に術者にはこの魔法の効果は無いから簡単に避けて終わりだろう。

 全ての魔法とスキルを消し飛ばして冒険者チームの全員が転移したし、魔法を解除するか。


 (あまり良い内容では無かったけど、とりあえず合格だよ。よく頑張ったね)


 『最後はただの力押しだったからなぁ。魔法の制御も失敗したし』


 (そうだね。先ずは感情と魔法の制御から始めようか。

 ふふ、次は君一人でここの試験をすることになるから頑張ってね)


 『はぁ、楽しそうにしやがって』


 まあ、最後は楽しちゃったしな。次は頑張るか。

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