第12話

 「この扉を開けたら、最後の試練だよ」


 キメラを倒した後は、特筆すべきことも無くすべての薬草の採取を終え、ダンジョン最奥にある巨大な石の扉の前に来ていた。


 「さて、最後の試練はⅭランクの冒険者チームが相手だよ。この先の広間は、防御を破って生身の部分に攻撃が当たった場合、広間の端に転送されるようになっているんだ。だから戦いでは死ぬことはほぼ無いんだ。だから、全力で戦って良いよ」


 『分かった』


 「じゃあ、行ってみようか」


 アルテが門の前に立ち、手を翳すとゆっくりと扉が開いていく。扉の先は道中の洞窟と違い、上から光が差し、人工の石壁に囲まれた広間になっている。


 「おお、ここまで来るなんて凄いじゃねーか」


 槍を肩に乗せてこちらを面白そうに眺める青い髪をした男が、楽しそうに声をかけてきた。その隣には此方を厳しい目で見つめてくる、両手に盾を持つフルプレートの男がいる。他にはいかにも魔女といった姿の女性と神聖な気配のする法衣に身を包んだ女性が、アルテを見つけられず困惑していた。


 「気配が全くしない。目を離したら直ぐに見失ってしまうな」


 「扉が開いたのだからそこに居るんでしょうけど、私には見つけられないわね。リーンはどう?」


 「私も分かりません。すみませんが私達にもわかる様にして頂いてもよろしいでしょうか?」


 「これでいいか?」


 アルテは僧侶の頼みに応えてフードを取り、幽闇の衣の効果を切った。これで、彼女達にもアルテを認識出来る様になった。


 「おほー、こりゃスゲー女だな。仕事が終わった後、一緒に食事に行かねーか?」


 「おお」


 「凄いわね」


 「とても奇麗な方ですね」


 アルテの素顔を見た彼らはそれぞれ感嘆の声を上げている。だけどそんな中、槍の男はもう既にアルテに口説きに掛かっている。

 色々と凄いなこの男。


 「早く試験を始めてくれ」


 「はは、そうだな。さっさと仕事を終わらせて、心置きなく話したいよな」


 「どう見てもお前の相手をするのを迷惑がっているだろう。いい加減にしておけ」


 「すみません、彼は腕は確かですけど恋多き方なので。ですが、基本は良い人なので今後もよろしくお願いしますね」


 「そうか。試験はお互いが防御を突破された攻撃を被弾せずに、先に全滅させた方の勝ちで良かったな?」


 「ええ、そうです。試験はこの魔道具の音が鳴った瞬間に開始です。この魔道具は起動してから6秒以内にランダムのタイミングで音が出ます」


 「分かった。この試合ではこの魔道具を使わないで戦おう。では始めてくれ」


 アルテがローブを手で広げながら使わない事を宣言したおかげで、準備を整え布陣を終えていた相手の目つきが鋭くなりやがった。


 「はっ、凄い自信じゃねーか。でも良いのか?この試験は結果が全てだ。本気じゃなかったなんて言い訳はきかねーぞ」


 槍の男が無表情に言い放ってくる。

 飄々としていた奴が無表情になるとかなり迫力があり思わずビビってしまう。


 「構わない。これを使わなくても私が勝つ」


 「本当に凄い自信ね。遠慮なく全力で潰させてもらうわ」


 「あまり感情的になるな。冷静にいくぞ」


 だが、アルテは何ともない様に更に挑発していく。それを受けて相手方は更に戦意を高めていき、それに反比例するように俺の戦意が下がっていく。

 本当に勘弁してほしい。


 「では、起動しますね」


 僧侶はそんな俺たちの事など関係ないかの様に魔道具を起動させた。

 僧侶が魔道具を起動した事により、全員音が鳴った瞬間に行動を起せる様に構え、数秒後に開始の音が鳴り響いた。


 「死ね」


 開始直後に雷の範囲魔法を放ったが、槍の男が雷を切り裂きながら一瞬にして10メートル程の距離を詰めて、その勢いのまま槍を突き出してきた。

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