シャカシャカチキン

話し合いが終わった直後、蝶番が壊れそうな勢いで扉が開き「勝手に話を進めるな」と青年の厳しい声が部屋に響き渡った


握りしめた拳には憤りが滲み、彼の存在が部屋の空気を一変させる


「これ以上、問題を起こすつもりかね?

彼女はルールを破った、よって我々が処分しなければならない」


「いいや、許されるべきだ、私が保護者として引き受ける」


青年は男の反抗に眉を寄せ、暫し黙り込んだが、軽蔑の表情を浮かべながらも再度彼を押し退けようとした


「君には何の権利もないんだ…常々言い聞かせている事だし、適当な振る舞いや突然の行動についていく余裕はない

私の時間とエネルギーは、そんな君の気まぐれに振り回されるために使えないのだよ」


「その怒りはごもっともです、期待を裏切ってしまったかもしれませんが、わかってください、都市計画を軽視する意図はありませんでした」


「あのなぁ…ないなら、わざわざ口にすることはないんだよ

ああ、もう、むしゃくしゃしてきた!くそったれ!この馬鹿者め!その言葉そっくりそのまま返してやる!

わかるか!?おれの計画を無視して、やりたい放題か!?お前の勝手な判断が、いつか全てを台無しにするんだ!もしそうなったら責任が取れるとでも!?図に乗るな、ひとりで何ができると思ってやがるんだ!?」


雷鳴のように轟く激情が周囲の空気を圧倒した

が、しかし、空間ごと引き裂く風が彼の周りを巻き込み、壁へと叩きつける


「力ずくなら、どうにでも」


悲鳴が上がる

肩口が裂け、露出した青年の肌は陶器のように白く、筋肉のメリハリが彫刻に似た美しさを醸していた


これまで滅多に傷つけられることはなかったのだろう、それが従えた相手ともなれば以ての外だ


歯を剥いて男の顔面に爪を立て、大汗をかきながらも青年は気丈に怒鳴りたてる


「お前の力は認めるが、それが全てじゃないだろうが!思考力、戦略、重要なものの数々がどこに消えたって言うんだ!?

勝手をする前に報告しろ!相談なら受けるからさァ!!お前の行動が連鎖反応を引き起こし、すべてが破滅へと向かったらどうする!?リスクを考えろと言ったよな!!何度も!!」


「私は貴方の方針を尊重しています

ただ、今回ばかりはその場での状況判断が必要だったと信じています…私の行動が貴方の意図とは異なってしまったことを、深くお詫び申し上げますので、どうか、改めて許可を…」


「お願いだから話聞いてぇーーーッ!!!?」


いつの間にか男は背筋を正し、片手一本で青年を吊り上げている


「ああわかった!アジア人の女という時点で嫌な予感はしたんだよ実は!お前の軽やかなフットワークで察するべきだった!いやはや全くもって君の言う通りだ管理を徹底するようにィイイイイ!!!!」と、青年はゲロを吐き出した後のような焼けた喉で叫んだ


悲惨な扱いにも関わらず彼の声には嘲笑が含まれ、男性を侮辱するような響きがあった


しかし的となった相手は意に介さず、謙虚な態度も崩さず、ただ一言「承知致しました」と答える

彼は紀野の保護者として、その管理権をもぎ取った


青年は解放されるともつれた足でたたらを踏み、足跡代わりに怨念めいた言葉を間断なく吐き出して部屋を出ていく


「お前はただの利己的な愚か者だ!自分の能力に自惚れすぎて、全てを見失った愚か者ッッッ!お前の行動が果たして何をもたらすと思ってやがるんだ!?」


怒りによって次第に抑揚を失い、繰り返す声が途切れるまで、紀野は腕の中に押し込まれながら気まずい沈黙に包まれていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る