北風

男女のペアに連れられ、紀野は厳粛な雰囲気の部屋に連れて行かれた


そこには男女のペアのうち、女性が冷たい表情で座っている

一方、男性は穏やかな態度で彼女を見つめ、話すのを待っていた

「アンタはどうしてここにいるの?」と、女性が低い声で切り出した


その言葉の厳しさに、紀野は困惑しながらも正直に答えようと試みた


「別に、悪いことしにきたって訳じゃないんだ、わたしは姉を探…」


「違うでしょう」


女性は彼女の言葉を遮り、冷たく追求を続けた


「言い方を変えましょう、招待状がないのに何故ここに?

アンタは知ってる事をこの場で開示する義務がある、だってこれは、これはアタシたちの安全を脅かす危険な行為なのだから」


辛辣な指摘の中に活路を見出し、紀野はパッと顔を輝かせる

「いや、勘違いだ!」とポケットをまさぐって中身を見せつけた


「偽物ですよね」


彼女の眼差しは変わりなく、誰もが見下すような冷たさを秘めていた


「よく出来ていますが、匂いが違う

困るんですよね…最近多いんです、こういうの」


「娘よ、誰しも過ちは犯すものだろう?あまり厳しい物言いをするものじゃないよ…可哀想じゃないか」


「親父はさぁ…甘いよ、吐き気を催すほどに、だから皆付け上がるんです

なぁアンタ、他にも同乗した奴らが居たの覚えてるか?アレもそうだ、迎えの便の申請に、同じものを持ってきた…良い商売ですよね、いくら払ったんです?」


同じ女性同士でありながら、女が厳しい態度で容赦ない非難の言葉を書き連ねていくその一方で、男の態度は優しく、合間合間に自白を促すように尋ねている


彼の眼差しは正面から差し向けられているような怒りや侮蔑ではなく、少女が自らの過ちを受け入れられるように穏やかな支援の意を湛えていた

その対比が、まるで二つの異なる世界を見ているかのような印象を与えてくる


「すまないね、娘はかなり言い過ぎている、そう思うだろう?

だったら本当のことを教えて欲しい、私はあくまでも君を騙された被害者だと考えている…だから、その原因、偽の招待状の出所を知りたいだけなんだ」


「それじゃ足りない!!偽造は年々巧妙さを増しています

今後の運営も考えるとこの子だけでも司法に突き出して、公文書偽造、及びに入管法違反の罪人として見せしめにするべきです!二度と同じ轍を踏むことの無いように!」


彼の言葉に少し救いを感じた紀野は、彼に対して状況を説明しようと試みるがしかし、女が机越しに身を乗り出し、鼓膜を突く破るような怒声を上げて邪魔をする


それだけ感情を表出させているのに、何故だろうか、彼女は言葉を吐き出す毎に何か言いたげに唇を嚙んでいた


「はぁ、娘の非礼は父の責任だ、この場をもって謝罪しよう

いいかい、君は言いたいことを全て聞かせてくれればいいんだよ…なんて言ったって、ここまで委縮しちゃぁ無理な話か」


男は震える紀野の頭を撫でると、手を合わせて頭を下げ、紀野に対して尊重の意を示した


「でも、彼女の言葉には一理あると思うんだ…こちらも仕事だからね

よって、こうしよう!私たちはここで君を保護観察下におくことにする、君の姉を探すことも許可する。ただし、我々の監視下で規則を守ることが条件だ…これでもかなり譲歩はしているんだが、約束してくれるかな?」


その誠実な言葉に背中を押され、紀野は彼の提案に同意した

初めはおかしな人に思えたが、彼の穏やかな声と優しさに触れるうちに紀野の警戒心はほどけていく


「よかった、僕も手荒な真似はしたくなかったんだ、提案を受け入れてありがとう」


場の空気が緩まっていく中で、一際強く唇を噛む女だけが何かを我慢している様子だった

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