置いてきた便り
列車は鋭いカーブを曲がり、車内には揺れの振動が響き渡る
紀野は改札の場面を振り返り、ひとたび安堵のため息をついた
あの男は用が済んでも傍に居座り続けたが、その場を去っても追われる気配は無い
たまたま、あの席が気に入りなだけだったのか?
引っ掛かる、気持ちが悪い
疑問を振り切って落ち着くまで、蒸気機関車の中を探検することに決めて、足を早めた
狭い車両の中を進むたびに、明滅する明かりの輝きが淡い雰囲気を創り出していた
木製の内装が古き良き時代の情緒を漂わせ、窓からの風景がかすかに覗く
走る列車の騒音と、それに乗じて流れる音楽の調べが、汽車の内部を満たしていた
紀野は一つ一つの車室を覗き込みながら歩いた
それぞれの部屋には異なる雰囲気が漂っており、乗客たちの笑い声が幅広い表情を持つ車両内に溜まっていく
続いて、車両の端に位置する客室へ足を踏み入れた そこには後部のデッキから外の光景を見渡せるスペースがあり、頬を撫でる潮風が心地よい
紀野は手すりに寄りかかり、車輪に巻き上げられる水の飛沫を眺めながら深い考えにふける
蒸気機関車の内部を散策する毎に、姉からの手紙の内容が鮮明に思い出された
彼女は新たな冒険を始めたばかりであるが、この列車がたった1人の姉妹への旅路であることを強く確信している
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます