置いてきた便り

列車は鋭いカーブを曲がり、車内には揺れの振動が響き渡る


紀野は改札の場面を振り返り、ひとたび安堵のため息をついた


あの男は用が済んでも傍に居座り続けたが、その場を去っても追われる気配は無い


たまたま、あの席が気に入りなだけだったのか?


引っ掛かる、気持ちが悪い


疑問を振り切って落ち着くまで、蒸気機関車の中を探検することに決めて、足を早めた


狭い車両の中を進むたびに、明滅する明かりの輝きが淡い雰囲気を創り出していた


木製の内装が古き良き時代の情緒を漂わせ、窓からの風景がかすかに覗く


走る列車の騒音と、それに乗じて流れる音楽の調べが、汽車の内部を満たしていた


紀野は一つ一つの車室を覗き込みながら歩いた


それぞれの部屋には異なる雰囲気が漂っており、乗客たちの笑い声が幅広い表情を持つ車両内に溜まっていく


続いて、車両の端に位置する客室へ足を踏み入れた そこには後部のデッキから外の光景を見渡せるスペースがあり、頬を撫でる潮風が心地よい


紀野は手すりに寄りかかり、車輪に巻き上げられる水の飛沫を眺めながら深い考えにふける


蒸気機関車の内部を散策する毎に、姉からの手紙の内容が鮮明に思い出された


彼女は新たな冒険を始めたばかりであるが、この列車がたった1人の姉妹への旅路であることを強く確信している

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