第5話

 自宅に戻った俺は、とりあえず配信の準備を始めることにした。


 まずは告知しろと猿飛が言っていたので、今までやったこともない事前告知を行う。



「文面は……このあと21時から配信します、でいいか」



 投稿すると、通知が銃撃のように訪れる。


 ……これ、後で猿飛に通知の消し方を教えてもらわなきゃな。



【配信きちゃ】

【実在したんだ】

【DM確認しろ~】

【こんにちは~。現実見てー^^】

【أنبانمان ذو أيديولوجية قوية، أكابانمان】



 わ、インプレッションゾンビだ。

 

 燃やせ!



【今日はダンジョン配信ですか?】



 ダンジョン配信ではない。そもそも国が封鎖しているのでダンジョンには入れません。


 ダンジョン配信ではなくて報告配信って感じです、と変身しておく。


 ここにもインプレッションゾンビが湧いてくるので全員をブロックしておく。慈悲はない。



「にしてもあと1時間か……」



 長いようで短いような……。とりあえず何かをしておいたほうがいいのかな?


 そんなことを思っていると、ふと一通のDMが届いた。


 気になって開いてみれば、そこには見知った名前が写っていて。


 FPS……銃を撃ち合うゲームにおける重鎮配信者――CHAKAさん。


 軽妙なトークと抜群のプレイスキル、老練な立ち振る舞いがユーザーから広く支持されているストリーマーだ。



「え、本人?」



 思わずアカウントを確認してしまうが、明らかに本人だ。


 フォローしているし、本人以外ありえない……っていうかフォロバされてないか?!


 うわマジか……え、憧れの人にフォロバされてるんだけど……。



「泣けるぜ……」



 何度も確認して、夢じゃないか嘘じゃないかって確認してみたけどマジっぽい。


 伝説的戦場之神にフォローされてる……。マジか……。


 っていうのを繰り返してたら、いつの間にか放送の時間になってた。



「落ち着け……こういう時は素数を数えて……12345……これ素数じゃないな」



 うん、ノリツッコミできるなら特に問題はなさそうだ。


 あとは……こう、なんか流れを掴む!


 配信待機所を見てイメトレするか。まず。



「……マジか」



 想像の1億2000万人がいてビビっている。流石に1億2000万人いるわけじゃないけどね。


 それでも体感だとそれくらい人がいる感じがする。幕張メッセで歌ってる人ってこんな気分なのかな。



「落ち着け俺、今ここにいる人間は全員水素原子、水素原子だと思え……」



【水素原子ってなんだよw】

【独特の落ち着き方過ぎて草】

【やあ^^】

【わこつ~】

【今日はダンジョンじゃないの?】

【ダンジョンじゃないらしい】

【説明とか?律儀だね】

【自宅っぽいな】



「……うわ、付いてたのか」



【うわってなんだようわってw】

【待ってたぜ~】

【思ったよりも若そうだな】

【なんでこの配信こんな伸びてんの?】

【そりゃ伸びるしかない配信だよ、こんなの】



 想像よりもコメントが流れる速度が速い……!


 流れ星みたいに一瞬で消えていく。


 夢みたいな光景だ……!


 はっ、だめだだめだ。今日は目的を果たすために配信をしてるんだ。



「皆さんこんばんは、EastチャンネルのEastです……」



【緊張してる?リラックスしてけ~】

【緊張してるeastくんかわいいね♡】

【やっぱ声が若いな。高校生くらいか?】

【CHAKAさんの配信から来ました。あなたがダンジョンでスマホを使ったって人ですか?】



「CHAKAさんの配信から……! あ、はい。その通りです」



【なんだこいつCHAKAファンボか】

【まぁCHAKA周辺の人間に憧れが無かったらわざわざTuttiで配信する意味ないしな】

【ダンジョンでスマホ使えるってそんなにすごいことなの?】

【現状電子機器は軒並みアウトとされている。なのにこの少年はスマホをダンジョン内で使ってのけたんだ】

【解説ニキたすかる】

【にしても、なぜこのタイミングで配信を?売名?】



 売名、という文字が見えてどきりとした。


 別にそんなつもりはなかったけど、はたから見たら事実が判明してから配信を始めた人間でしかない。


 これについてはきっちり説明をするように猿飛から言われている。



「皆さんは、俺がスライムを殴った映像を見たからいらっしゃったんですよね?」



【まぁ大体の人間はそうだろ】

【そりゃまあ】

【あれスライム殴ってたのか、画面ぶれっぶれで何が起こってたかわからなかったわ】

【やっぱあれスライムだったんだな】

【……という事は、あれスマホ持った手でスライム殴ったってことか】



「察しのいい方は気づかれているみたいで助かります。スマホを持った手でスライムを殴って、それで浸水しちゃって……」



【ああ~】

【ああ……】

【仕事してる時にスマホ排水溝に落としたの思い出して泣いちゃった】

【ワッ……!】

【ってことは、三日間空いたのはスマホを買いなおしたとか?】



「その通りです。まさか俺もこんなことになってるとは思ってなくて……。今日携帯ショップで初めて気づきました」



【まぁそら(いきなりフォロワーが1000倍以上も増えてたら)そうよ】

【最初のフォロワーって5人とか?今や1万こえてるもんな】

【超成長って感じだ】

【倍プッシュだ……ッ】

【ざわ……ざわ……ざわ……】

【まあ一旦Eastが悪いか】



「というわけで、報告程度の配信をさせてもらっています。枠自体もそう長くとるつもりはありません」



【なるほどね】

【もうちょいで30分なりそうだけど、そこ目途って感じか】

【いかないで……】

【わこつ、ここが今日本中が探してるっていう例のスマホボーイの配信ね】

【ここがあの男のハウスね……!】

【質問コーナーみたいなのやってみたらどうよ】



「あ、いいですね。話しやすそうだし……」



【理由が悲しい】

【まぁ過疎配信者あるあるよ】

【一旦俺らが悪いか】

【この配信が始まるまでの放送軽く見てみたけど、こいつガチでCHAKAのファンボやん】

【そういえばCHAKAがDM送ったって言ってたけど見たん?】



「はい! 見ました見ました! めっちゃうれしかったです!」



【よかったね】

【ここまで喜んでくれるならCHAKAもほっこりかもな】

【それで内容は?】



 内容。内容。……内容?


 あっ。



【確認してませんって書いてるな、表情に】

【憧れのCHAKAからのDMに喜びまくって確認しそこねるとかウケる、撮っとこ】

【今確認してみ】



「はい、確認してみます。……コラボ?!」



【いきなりCHAKAとコラボまで行っちゃうか~w】

【とんだラッキーだな】

【どっかのご当地さんも「このご時世配信者として伸びるなら有名な人と絡む必要がある」って言ってたしな】

【つまりeast君はここからもっと伸びる……ってコト?!】

【伸びるだろ。ただダンジョン配信が当分なさそうなのが残念だけど……】



 そういえばそうだ。この人たちは俺がダンジョン内でスマホを使えることを聞きつけてやってきたのだ。


 つまり彼らが求めているのは、ダンジョン内の様子の撮影。しかしそれは今不可能だ。


 何故かって? 今は国が閉鎖しているからだ。


 さて、どうしたものか……と考えていると、ふとSNSのDMに一通の連絡が入った。



「なんかDMが来たので確認しますね……って、防衛省?」



【ファ~~~~~~~~~~~~~~wwwwwwwwwww】

【官公庁からDMってマジかよw】

【CHAKAコラボに官公庁コラボってマジ?】

【てか顔面フルオープンで大丈夫SO? 視聴者3万超えてるけど】



「え?」



 言われて確認すれば、そこには30000を超えてさらに伸び続けている来場者数カウンター。


 こんな数字見たこともないし、なんかここまでくると恐ろしくなってくるというか……!


 

「とりあえず……3万人ありがとうございます……こんな経験初めてでどんな顔したら……いやそれだと笑えって話になるな」



【セルフで突っ込みするなかれ、なかれ……】

【笑えよ】

【でもまぁ、ダンジョン配信やればこれより絶対人来るけどな】

【ちなみに防衛省からはなんて?】



 コメントに促された文面を読む。


 するとそこには、願ったりかなったりの内容が書いてあった。



「防衛省バックアップの元、ダンジョン内の探索を行う打診が届きました……」



【エグwwwwwwwwwwwwwwww】

【エグモンやん、そんなの】

【エグモント序曲】

【Tutti初の官公庁コラボがこんなぽっと出の新人か~w】

【ちなぽっと出ではない。彼は4年前から配信している】

【4年配信して登録者5人マ?!?!?!?!?!w】



「うるさ……」



【怒らないで;;】

【でもマジで4年続けて5人は異常だろ。意図的に隠されてたレベル】

【Tutti運営はまさかこれを見込んで……?!】

【バカ、Tutti運営がそんな賢いことするわけないだろ!】

【こんにちは~。現実見て~^^】

【てかそれはなして大丈夫なんか……?】



「あっ……」



【ダメなんかい!】

【あーあ、次は豚箱配信かぁ】

【豚箱で配信できるわけないだろ】

【でも社会には奉仕できるしぃ……】

【未成年に奉仕なんて言葉使うな!!!! エロいだろうが】

【は?】

【は?】

【は?】

【は?】



「あ、別に配信で話してもよかったらしいです。……受けてくれたら、の話だそうですが」



【ま、しゃーなし】

【受けてこ受けてこ】

【国ぐるみでダンジョンのことをどうにかするつもりなんだな】

【それにしてもeastくんは未成年だよな?労働基準法とか大丈夫なのか?】

【ンなこと気にしてる暇あったら、ブラック企業を取り締まれよな^^】

【それは、そう】



「なので、ダンジョン配信は日程が決まり次第って感じですね」



【おけおけおー】

【楽しみにしとるよ】

【よろしく^^】



「えっと、他に質問はありますか……?」



 これで大体の興味については満たせたかな……と思ったけど、そうではなかったらしい。


 いろいろな質問が飛んでくる。



【east君に彼女はいますか】

【彼氏の存在も聞け】

【多様性ってことやね】

【多様性ってエロいよな】

【は?】

【は?】

【は?】

【そういえばジョブがあるって聞いたけど、eastくんのジョブって何ですか?】



「それが……わからないんですよね。なんか自動的に就いちゃったみたいで」



【なるほどね】

【じゃあそれも次のダンジョン配信でわかるってことか】

【これでニートとかだったらウケるな】

【人間電波塔かもしれない】

【案外ストリーマーみたいな職業だったりするかもな】

【いや、職業は多様性で行こう】

【職業多様性って何? メタ○ンか何か?】



「……次回までのお楽しみという事で!」



【おけ!】

【おけまる水産】

【あい】



「……じゃあ、ここあたりで配信を終わっておきます」



 最後のあいさつに入る前に視聴者数カウンターを見れば、そこには4万に届きそうな数字が。


 ……本当に信じられないほどの数字だ。びっくりして腰が抜けそう。



「それでは皆さん、次の放送でお会い出来たらうれしいです」


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黎明のダンジョンストリーマー~万年視聴者0の俺は、世界唯一のユニークジョブ:ストリーマーとなって配信業界の頂点に君臨します。古参ヅラをするのは、もう遅い~ おいぬ @daqen_admiral

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