【第1章】最終話

 

 グリンは屋敷に帰ってきた後、まずはレンジャー隊での活動報告をする為、祖父であるノーザン村長の部屋へと真っ直ぐに向かった。

 コンコンコン──と軽く扉をノックすると「グリンか?…入りなさい」と中から声が返ってくる。


「ただいま、じいちゃん」

「おかえり、…どうだった?」

「とりあえず潜んでたゴブリンは殲滅出来た…と思うよ」

「そうか、ご苦労だった」

「炭鉱にあった祭壇も魔方陣も、全部破壊しておいたよ。ま!既に荒らされてたけどね?ハハハ」


 炭鉱に残っていた匂いから、ジューロが暴れた形跡であろうことは推測できた。

「フフ、そうか。…グリンも今日は疲れたろう、もう休みなさい」

「うん、そうする。その前に…実は相談があってさ」


「…どうした?」

「僕さ、王都に行こうと思ってるんだ」


「……まだ、王国の兵士になりたいのか?」

 グリンがまだ小さい頃。父親の仕事に憧れて、いつかは王都の兵士になりたいと思っていた。


 父親が亡くなってからは、村を守る為にレンジャー隊に入り、治安維持に励んで村を守ることに心血を注いできたし、口に出すことはなかったが。

 …祖父はその事を憶えていたらしい。


 今回の一件でゴブリンの脅威は無くなり、少しずつではあるが、村の外にも出掛けやすくなるだろう。

 これはグリンにとって転機だと思えた───


「もちろん、それもあるけどさ…」

 あとはソラの悩み。これに気付いてやれなかった事がグリンの心に引っ掛かっているのもあって、これも何か出来ないかと考えていた。


「ソラの親についても調べてあげたいな、って思ったんだ」

「ふむ、ソラの……」


「集落の人達がコザラ谷から逃げたなら。王都に向かったんじゃないかって思ってて、他に行くところもないからね…。だから王都に行けば、彼らの足跡も分かるかもしれないし、ソラの代わりに探してあげたいんだ」


 グリンの言葉に耳を傾けてはいるものの、ノーザン村長は腕を組み唸っている。

「正直に言うと、兵士になるのは反対だが…」

「そうかぁ…」


「…だがまぁ、ゴブリンの件は片付いたし。一度くらいお前自身の目で、王都を見てくるのはいいかもしれん」


 祖父は渋い顔をしているが、王都に行くことを許してくれるようだ。

「じゃあ!」

「…行くのは自由だ。ただ、一つだけ覚えておいてくれ」

「なんだい?」

「村に帰りたくなったら、いつでも戻って来なさい。それは恥ではないからな…」


 グリンは祖父の忠告に違和感を感じた。

「それは僕が…音をあげる、って思われてる?」

「…フフ、そうじゃないさ。どちらかと言えば、音をあげない事が心配だな。お前の場合」

「…?よく分からないけど、覚えておくよ」


「ピィスには話したのか?隊長には?」

「そりゃまだだよ、じいちゃんに先に許可を貰わないとだろ?」

「それもそうだな。で、いつ行くつもりだ?」


「ジューロさん達と一緒に行くつもりだよ。ま!これも彼らに訊いてみないとだけど」

「ふむ…、一緒に行くことになったら迷惑は掛けるなよ?」

「わかってるって」


 ノーザン村長は彼らの事を思い返した───


 本当に短い付き合い…いや、付き合いという程も一緒にはいないが。彼らは少なくとも悪人ではないのは分かったし。

 グリンにとっても一人で行くよりは寂しくないだろうと、ノーザンにはそう思えた。


「…おっと、忘れるところだった。彼らの話で思い出したが、お前の服をジューロさんに貸したぞ」

「ジューロさんに?」


「着替えがなかったみたいでな?」

「そっか、オッケー分かった。さてと…じゃあ僕はそろそろ寝るとするよ。明日もあるしさ?」


「ああ、そうだな…。おやすみグリン」

「うん、おやすみ」


 グリンが部屋から出るのを見送ると、一人残されたノーザンは、窓を開けて夜空を見上げた。

 寄り添うように月明かりが二つ並んでいる…。


 息子が兵士を辞めて、王都から帰ってきた時もこのような夜だっただろうか?

 …約十年前、まだ赤子同然だったピィスと、幼かったグリンを連れて帰ってきた時は驚いたものだ。


 母親を病気で亡くし、男手だけで育てることが難しいから帰ってきた…と、息子はそう言ってはいたが…。


 ───いや、考えても仕方がない。


 あれから随分と経っているのだ、王都の状況も変わっているかもしれないし、何より…これからはグリンが自分のその目で見て判断していくのだ。


「グリンももうすぐ二十歳になるからな…」

 自分の孫なのだ、間違った道には行くまい。そう信じることにする。


 窓から入る夜風は、いつもより澄んだ匂いを感じた。

 この匂い、しばらくは良い天気が続くだろう…と、他愛ない事を考えることにして。ノーザン村長は寝所についた───



 翌朝、グリンとレンジャー隊はゴブリンの死体を後始末する為、再び集落へと脚を運ぶことになった。


 後始末するのは、流行り病を防ぐ為でもあるらしいが。焼け落ちて人が居ないとはいえ、集落に死体を放置するのは気分が良くない。

 そういうことで、死体は処理すべきという判断に至ったのだ。


 グリンが集落に出発する前、ジューロも手伝ってくれるとの事で、一緒に向かうことになった。

 最初、グリンは遠慮したのだが。


「詰所を貸して頂いた皆さんにも、お礼を言いたかったでござんすし。あまり借りを作りっぱなしにしたくねぇんで」

「借りって…それって僕らの方じゃないか?ピィス達も助けてくれたし」


「あれは一宿一飯の恩義ってヤツで。あっしが役に立てたかも、微妙でござんすし…。あっしも助けられやしたからね」

「そうかなぁ?御互い様でいいんじゃないかな?」


「グリンさんは人が良いでござんすなぁ…。というか、何もしないってのも、あっしが落ち着きやせんので」

「う~ん…そっか!いや、でも助かるよ」


 ジューロも譲らなかったので、グリンもその厚意を受けることにしたのだった。



 ───森へ到着すると、既に数人のレンジャー隊の皆が穴を掘り始めていた。


 ゴブリンの死体は多く、それに見合った穴を掘るのも一苦労で、レンジャー隊も丸一日掛かりの作業を覚悟していたのだが…。

 ジューロが手伝ってくれたのが大きかったのだろう。


 とんでもない勢いで掘り進め、想定よりも早く、夕刻には全てのゴブリンを埋め終わることが出来たのだった───



「ジューロさん、お疲れ!助かったよ」

 グリンが労いの言葉を掛けてくる。


「いや、これくらいはお安いご用でござんす。皆さんも、お疲れ様でござんした」

 周囲のレンジャー隊も、昨日の今日でこの作業だったこともあり、皆へばっていた。

 それは十郎も例外ではなく、汗だくになっており、グリンに借りた着物も泥で汚れている。


 そんな中、レンジャー隊の一人が口を開いた。

「なぁ、思ったより早く終わったし。皆で温泉でもいかないか?」


 グリンもその提案には賛成のようで、持ってきていた荷台に土木作業用の道具を片付けながら、隊長に訊ねる。

「いいですね、…隊長どうします?」


「だなぁ。ゴブリンもいなくなったし、温泉も解禁されるだろうからなぁ…。先に俺たちが行っておくか?」

 隊長と呼ばれた獣人がそう答えると、レンジャー隊も少しだけ元気を取り戻したようだ。


「おっしゃ!隊長の許可も出たし、着替え持って行くかぁ!」

「俺は酒も持ってくる、疲れにはこれっすよ」


「ジューロさん、酒はいけるかい?」

「いやぁ、申し出は嬉しいんですが。あっしは酒は飲まねぇんで…申し訳ねぇ」

「そうか、苦手な人もいるしな!わっはは!」

 レンジャー隊がワイワイと騒ぎ始めるが、隊員が盛り上がっている彼らに対し、冷や水のような一言を発する。


「さぁて、そうだな…。いったん村に戻るし!ついでに掃除用具も持ってこようか。まずは全員で温泉の清掃だ!しばらくまともに使ってなかったからなー?」


「「「えぇええぇー!?」」」

「疲れたっすよ隊長~」

「それ明日で良くないか?」

「温泉、浸かるだけにしましょうよ~」

 レンジャー隊の面子が隊長に異議を申し立てている。

 グリンも流石に疲労が溜まっているようで、隊長に対して露骨に嫌な顔をしてみせていた。


「ちゃんと余計な仕事の分も給料に加えておくから、頑張ろうか!どうせ俺たちがやることになるんだよ。さっさと終わらせるぞ、ほら返事ィ!」


「「「レンジャー!!!!」」」


 隊長の一喝により、レンジャー隊の全員が不思議な返事をすると、キビキビと後片付けを終わらせた。


 そんな中、十郎は片付けが終わるとゴブリンを埋め立てた場所に一人視線を向ける。


(閻魔様。ゴブリンとかいう魑魅魍魎は、地獄に押し留めておいておくんなさい…。あっしもいずれは地獄にお世話になる身ですし、頼めた立場じゃねぇのは承知の上でござんすが、魑魅魍魎の類いはあっしの手におえねぇんで…どうか。ラサダ村の人達が安心して暮らせるよう、お願い致しやす)

 手を合わせることはしなかったが、十郎は閻魔様に対し、心で祈っていた。


「ジューロさん、どうかしたのかい?」

 目を瞑っている十郎を不思議に思ったのか、グリンが声を掛けてくる。


「いや…。ようやく終わったなと、考えてただけでござんす」

「そっか、ま!僕らはこれから掃除だけどね?ハハハハ!…はぁ」


「うむ?あっしも手伝いやすから、頑張りやしょう!」

「いやぁ、そこまではいいよ。僕らは仕事だしさ?…ひとまず帰ろうか。着替えも持ってこないと」


「そうでござんすな、あっしの着物も乾いてると思いやすし…。グリンさん、着替えを貸して頂きありがとうござんした」

「いいって、いいって!」


「おーい!二人とも置いてくぞー?」

 荷車を引くレンジャー隊に声を掛けられ、グリンと共にその場を後にした。



 村に戻り、村長宅の敷地内───


 そこには、リンカと子供達が集まっていた。

 ソラ以外にも魔法が使えそうな子もいたようで、その子ども達にも魔法を教えているらしい。

 それと魔法に興味がある子たちも見学として集まっているようだ。


「あっ!ジューロさん、グリンさんお帰りなさい!」

 リンカがこちらに気付き挨拶をすると、子供達も同じように「おかえりなさ~い!」と、元気よく挨拶をしてきた。


「みんな、ただいま!」

「ただいま戻りやした。リンカさん?ひょっとして…、朝からずっと魔法を教えてたのでござんすか?」


「朝からじゃないですよ~。お昼からです!」

「似たようなもんじゃありやせんか、もう日が暮れやすけど…」

「え?…もうこんな時間っ!?」

 どうやら教える事に夢中だったようで日が暮れ始めていることに気付いていなかったようだ。


「みんなー、今日はここまでにしましょう!」

「はーい!!」

 リンカの掛け声で魔法の勉強会は終わり、子供達はそれぞれ家路についた。


 子供達を見送った後。

 グリンがリンカとソラに、今日の用事は済んだのか訊ねられると、もう一仕事残っていることと、もうすぐ温泉に誰でも行けるようになるだろうことを伝えた。


「というワケで、もうひと頑張りしてくるよ!楽しみにしてて」

「私たちも温泉に行けるんですか?!」

 温泉が使えると聞いて、リンカは目を輝かせている。


「その予定だよ?…ま!念のため、レンジャー隊の送り迎えが必要になるだろうけどね?」


 それを聞いてリンカとソラが喜ぶ中、十郎はピィスが居ないことが少し気になっていた。

 いつもならソラや子供達と一緒にいるからだ。

「そういえば、ピィスさんの姿が見えやせんね?」


「あー…ピィスなら、じいちゃんと一緒だね」

「村長さんと?」

 十郎が首をかしげると、グリンが肩を組んできてリンカ達と距離を開け、二人に聞こえないように、ヒソヒソ話をしてきた。


「ソラが魔法使えるようになったのは知ってるよね…」

「うむ、あっしも見てやしたからね」


「うん、なんでもソラにさ…?あの後。『私が魔法でピィスくんを守ってあげる!』…って言われたらしくてね?」


「うわぁ…そいつぁ、キツイでござんすな…」

「だろ?だからじいちゃんに鍛えてもらうんだって張り切ってて…」


 十郎とグリンが内緒話をしているのが気になったようで、リンカが不思議そうに声を掛けてきた。

「どうしたんですか?二人とも」


「いや、なんでもござんせんよ!」

「そうそう、大したことじゃないから。あ!…そうだ、あのさ?二人とも王都に向かうんだよね?」

 グリンが話を切り替える。


「はい!そうですよ」

「うむ、…何かありやしたかい?」


「実は二人に頼みがあって…。僕も王都に行こうと思ってるんだけど。到着するまでで良いからさ、一緒に行っていいかな?」

 この突拍子もない申し出に、十郎とリンカは互いに視線を合わせる。


 その場に居合わせたソラもこれには驚いていた。

「あのっ、グリンさん!村から出て行っちゃうんですか!?」

「ああ、ソラにはまだ話してなかったね。ま!僕も色々考えての事だから…。後で改めて話をするよ」


 グリンとソラのやり取りを見て、リンカは少し動揺を隠せないようだった。

「ジューロさん、ど…どうしましょう?」


「あっしとしては、正直いって助かりやす。道中なにがあるか分かりやせんし、グリンさんが一緒に来てくれるなら、頼もしい限りでござんすが…」

 個人的には有難い申し出だった。


 道中グリンが居てくれるだけで、匂いで危険を察知してくれるだろうし、彼自身もかなりの手練れということもあり、安全が確保されると思う。

 それに十郎は女性と二人旅というのは──こう、どうしていいのか分からないのだ。

 そういう意味でも、グリンが来てくれるなら助かる。


「ん…。でもグリンさん、ちゃんと村長さんやピィスさんには伝えてるんですか?」

「ああ、それはもちろん!…ピィスはもう少し寂しがってくれると思ってたんだけどな、意外とサッパリしてたよ」


「そ、そうなんですか。あの、私たちで良ければ…いいですよ?一緒に行きましょうか」

「む!決まりでござんすかね?」


「本当かい!?ありがとう二人とも!改めて宜しく」

 グリンが手を差し出し、十郎もそれに応じて握手する。


「はいっ!こちらこそ」

「あっしも宜しくお願いしやす、グリンさん」


「ジューロさん、僕の事はグリンでいいよ。もうしばらくの付き合いだろうけどさ、その間くらい気軽に呼んで欲しいかな」


「うむ?ならあっしも…え~と、ジューロで良ござんすよ!」

 この国に流れ着いて以降。十郎は名前を間違われ続けていたが、いっそ愛称みたいなものとして受け入れようと思った。


「ありがとうジューロ!そうだ、一緒に行くと決まったことだし、これ受け取ってくれないか?」

 グリンが二人に、笛を差し出してくる。


 それには十郎も見覚えがあった、確かゴブリンとの戦いの時、ノーザン村長が咥えていたものとほとんど同じで、一つ違うとすれば、首に掛けれるように紐が通してあるくらいか?


「笛でござんすか?」

「うん、僕らウル族にしか聞こえない笛なんだけど、ちょっとした御守りみたいなものだからさ。二人に受け取って欲しいなって」

「わぁ…、いいんですか?ありがとうございます!」

 リンカはそれを受け取ると、大事そうに首に掛ける。


「ありがとうござんす、あっしも大切にしやすよ」

 十郎もそれに倣い、首に笛を掛けた。



 その後は、十郎はグリンと共に温泉に向かい、温泉の掃除を手伝うことにした。


 十郎としては借りを返す為にと手伝ったのだが、タダ働きは良くないと言われ。レンジャー隊から少しの賃金を渡された。


 ラサダ村から出発するのは、グリンとも相談し二日後にすると決め、空いた一日を、おのおの自由に過ごした。


 リンカはというと、ソラの家事を手伝ったり、魔法を教えていたりと、彼女は忙しく過ごしていた。

 ただでさえ休んでいないように見えるのに、破れた道中合羽も繕い、補修してくれていたりと、十郎はどう恩を返していいのか分からず、隊員に貰っていた賃金をリンカに差し出そうとしたのだが…。


「あの、ジューロさん?──どういうつもりですか?」

「いや、礼をと思いやして…」

「ジューロ、それは僕もどうかと思うよ?」


「しかし、世話になりっぱなしなんで…。あっしも何か返さねばと…」

「はぁ~、もー!そんなのどうでもいいですから…。子供達の相手でもしておいて下さい」


 ───と、リンカに呆れ気味に怒られたこともあり。

 十郎は、グリンが別れの挨拶に回っている中、子供達の相手…というよりも。こちらの国の遊びを、逆に子供達に教わることになりながら過ごしていた。


 昼過ぎには温泉も無事開放する許可が出たようで、村の人達も喜んでいた。

 リンカは温泉が本当に楽しみだったようで、ソラ達と一緒に温泉を満喫してきて、その時には機嫌を直してくれていて十郎は助かった。

 リンカが気を利かせて水に流してくれただけかも知れないが…。


 思い返せばほんの数日だったが、ラサダ村に来て色んなことがあったように思う。

 そして出立する日の朝になり、グリンを見送りに色んな人が集まって来てくれていた。


「皆さん、本当にお世話になりやした」

 ジューロとリンカは深々と頭を下げる。


「こちらこそ、色々と助かったよ。また寄ることがあったら、いつでもワシの所に来るといい」

「…ありがとうござんす」

 出会った時とは違い、村長からは張り詰めた雰囲気が消えていた。


「リンカちゃん、ジューロさんもありがとう!また、来て下さいね」

「ソラちゃんも元気で!いつか遊びに来るから」

「うん、楽しみにしてる!」


 ソラとリンカがやり取りしている中、グリンも集まって来てくれていた人達と、一言二言交わし、挨拶を終えていた。

「…じゃあ皆、見送りありがとう。落ち着いたら伝書鳥を飛ばすからさ」


「グリン、気をつけてな」

「兄さん、行ってらっしゃい!帰ってくる時は…お土産宜しくね!」

「おいおい、そっちが本命じゃないだろうな?」

「へへへ、どうかな?ジューロさんもまたね!」

「ピィスさんにも世話になりやした、お達者で」

「ま!いいや、ピィスも…強くなれるように頑張れよ?」

「もちろん!兄さんよりも強くなるよ」

「ハハハ!言うじゃないか」

 グリンはピィスと笑いあった後。ラサダ村の人々、その様子を目に焼き付けるように、ゆっくりと村を見回した。


「さてと…そろそろ行くとするよ。じゃあ皆、元気で!」


 別れの挨拶も程々に、グリンは十郎達と共に歩きだす。

 十郎とリンカはグリンを迎え、ラサダ村から笑顔で見送られることとなった。


 行き先は、王都ビアンド───


 目的は、そこで故郷の手掛かりを探し、帰る手段を見付けることだ。

 しかし、十郎はこの時。リンカとグリンの二人と、長い付き合いになるとは、まるで思ってもみなかったのである。


 それはまた、別の御話────

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風来の奇譚録 ZIPA @ZIPA

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