【第1章】第11話

 

 十郎は、ゴブリンが言葉を発すると思ってもいなかった。


 考えてみれば連中も人の形をしているし、喋ることだってあるのかもしれないが…。

 しかし、今まで見てきた物狂のような姿からは想像もしないことだった。


 この首魁のゴブリンが特殊なのか、それとも他の連中も喋れるのかは分からないが、十郎はこれに驚いた。


 チラリとピィス達を見ると、彼らも同じく驚いたといった表情を見せている。

 二人の反応から察するに、どうやらヤツが特殊なだけのようだ。


「…オヤ?どうやらコトバが分からないようダ…」

 こちらが黙していると、再び首魁のゴブリンが喋り出す。


「聞こえてはおりやすが…、何の用でござんすかい?」


「…ワレラは平和的な解決を望んでいル、ソコにいる…ラト族のメスを渡してくれれバ、二人には手出しヲしないこと、約束しよウ」


「…ん?」

 一瞬、ラト族とは何だろう?と思ったが、女性はソラしかいないし、それが彼女の事であろう事は…なんとなく想像できた。


 それにしても、平和的な解決と来たか。


 そもそも、連中がソラを拐わなければ良かっただけの話だし。それに対して十郎は、ゴブリンを数匹始末し、あの場で嫌がらせをする事で応えていた。


 それを知っていて平和的な解決?何を考えている──


 そんな風に思考を巡らせていると、ソラが十郎達の前に進み出て来た。

「あの…、私が残れば二人は帰してくれるんですか…?」


「もちろんダ。なに、怖がる必要はなイ…用が終われバ君も帰れることヲ約束しよウ」


「だっ、ダメだよ!」

 ピィスがソラの手を掴んで制止する。


「ごめん、ピィスくん…。私が勝手に森に入ったのが原因だし…これは私の責任だから」

 ソラが手を振りほどこうとするが、ピィスは頑として離さなかった。

「ピィスくん…」

「ダメだ!」


 十郎は、そんな二人の問答にそっと割り込むように、また、ゴブリン連中に聞こえないように、声を抑えて話し掛けた。

「あっしも、ピィスさんと同意見でござんすよ…」


「でも、私のせいで…」

「その話は後にしやしょう」

 時を浪費するほど不利になると思う。


 今のところ背後にある坑道から気配はないが、もしゴブリンが追ってきて挟み撃ちになれば…それこそ打つ手が無くなる。


「どうするか二人と相談しやす!しばし御待ちを!」


 首魁のゴブリンに向かって叫んだ後、十郎はゴブリンへ意識だけは向けたまま警戒しつつ、ピィスとソラに視線を合わせて話し始めた。


「簡潔に言いやす、ソラさん、連中の言う事は信用しねぇこって…」

「でも、言うことを聞けば…せめて二人は助かるんじゃ…」


「それはありやせんね」

 キッパリと言い切った。


 十郎は、同じ渡世人だけでなく、火付け盗賊とも何度かやりあった事がある。

 だからだろうか?直感的にゴブリンの連中から、自分やそいつらに近いような、何かを感じ取っていた。


 …集落が焼き払われた痕跡を見た事、そしてグリンに温泉で聞いた話が、そう思わせたのかもしれない。

 ああいう手合いは信用に値しない。


「あっしの憶測に過ぎねぇが、連中はソラさんを生きたまま捕らえる事が目的でござんす。その目的を達すれば、その時点で…あっしとピィスさんを殺しに掛かるでしょうね」


「でも、約束するって…」

 ソラの言葉に対して、十郎は静かに首を振った。


「安全にソラさんを手に入れたいが為の方便…と、見た方がよござんす。情けない話だが、今こうやって連中が手出しせず、話せる猶予があるのは恐らく…連中にとって価値のある、ソラさんが一緒に居るからでござんすよ」


「なら、私を盾にして下さい!そうすれば…」

「なっ!?ダメだよ!」


 なるほど確かに、その手段は一考の価値があるのかも知れないが…。


「…ソラさん、その提案もお断り致しやす」

「ど、どうしてですか?」


「どうにも、そういう駆け引きってヤツは苦手でござんしてね。ひとえに、あっしの頭が悪いせいですが」

 十郎は身に付けていた道中合羽を外すと、ピィスとソラの二人に被せる。


「ジューロさん…?」

 ピィスが少し困惑した表情を見せる。


「…頭が足りないなりに考えた事でござんすが。あっしが連中を引き付けやすんで、二人は手薄になった所を見付けて…、なんとか逃げておくんなさい。そいつを被っていれば連中も狙いが定まり難くなると思いやす、それなら投石も迂闊に出来ねぇでしょうし…。いざとなりゃ、そいつを投げれば…目眩ましくらいの役には立つでしょう」


「…でも、ジューロさんは?」

 ソラも心配そうな顔を見せる。


「大丈夫でござんすよ、だから自分の心配を第一にしておくんなさい。…さて、あっしはそろそろ仕掛けやすが、良ござんすかい?」


 十郎は二人に目配せすると笑って見せた。十郎流の強がりだが、少しは余裕があるように見せられただろうか?

 安心させられただろうか?


 わずかに降っていた雨が上がり、少しだけ射し込んだ日の光がピィスとソラを照らした。


 十郎のぎこちない笑顔を見て、ピィスとソラは互いに顔を見合わせて頷く。

「わかった、ジューロさん…気を付けて」

「どうか、ご無事で…」


「あぁ、ピィスさんもソラさんも、抜かりねぇよう」

 十郎はピィスとソラに背を向け、首魁のゴブリンに向き直ると相手の方へと歩み寄る。



「相談とやらハ、終わったカ?ならバ早速、ラト族のメスを引き渡──」

 首魁のゴブリンが何か言葉を発しているが、十郎はそれを無視して足元に転がっていた石を思い切り投げつけた。


 しかし…、やはりと言うべきか。


 投石は首魁に届くことはなく、──ガンッ!という音と共に、見えない壁のようなものに弾かれる。


 ヤツに樽を投げた時と同じ現象だった。


 これは場所のせいではなく、首魁のゴブリンを基点として、その周囲に壁のようなものがあると…そう確信した。

 弾かれた位置は、首魁から約二間(※3.6m)程か。


 迂闊に踏み込んでも、十郎自身が見えない壁にぶつかるだけかもしれない。

 こいつと戦うには、少しやり口を考えるべきだろうが…。まずやるべきは、注意を引き付けることだ。


 長脇差を抜き、首魁に向かって真っ直ぐ突っ走り、一気に距離を詰めるが。これに対し、首魁を含めたゴブリン連中は薄ら笑いを浮かべながら静観しているだけだった。


 ある程度の距離まで詰め、十郎は見えない壁があるであろう場所におおよその見当をつけて長脇差を振るう。

 すると、──ガキィン!という金属音と共に、振るった刃が空中で止まった。

 だが手応えはある、ひょっとしたらこの見えない壁は壊せるモノかもしれない。


「…どうやラ、交渉は決裂のようダ」


 見えない壁越しに、首魁のゴブリンと目が合う。

 そのゴブリンからはニヤケ面が消えていて、ドスの効いた声で十郎を威嚇してきた。


「交渉?…元からそういうつもりはねぇでしょう」


 十郎は吐き捨てるように言い放つと、体をグルリと回しながら長脇差を振り回す。

 背後を取ろうとしていたゴブリンに刃が当たるが、致命傷を負わすまでにはいかなかった。


 囲もうとするゴブリンを牽制しつつ、首魁から狙いを外さないようにする。

 しかし、それに感付いたのか、首魁のゴブリンが指示を出すと、周囲のゴブリン連中が守るように立ち塞がっていく。


 首魁に手出し出来なくなったのは厄介だが、それはそれで…有難い。

 奴らがこちらに気を回せば回すほど、ピィス達が逃げ出せる隙が出来るハズ。


 取り囲んでくるゴブリンに応戦しながら、そう考えた時だった。

 首魁のゴブリンがまた、例の気味の悪い念仏を唱え始めたのだ───


 それに何の意味がある?…無駄な行動だと思う一方で、胸騒ぎを覚えたその刹那。足元が少し蠢いたのを感じ取った。

 その嫌な胸騒ぎに従い、地面を蹴って十郎はその場から飛び退く。


 飛び退いた勢いのまま地面を転がり、立っていた場所へ視線を向けると、そこに、顔の無い蛇のような…、黒い触手が数本、ズルリと現れたのだ。

 一本一本が、腕の倍くらいの太さくらいはあるか?


「ぬあ!?」

 想定していない物怪の出現に十郎も狼狽える。

 あれが一体何なのかと、考えを巡らせる余裕もなかった。数本ある触手がしなり、凪払うように叩きつけてきたからだ。


 十郎は長脇差を振るい、触手の二本をかろうじて切り落とすが、残りの触手が腕と脇腹に直撃する。

「ぐっ…!」


 それは、ゴブリンもろともを巻き込んでの一撃だった。

 ゴブリンがいくらか密集していたお陰で、勢いが殺されたこともあり、そこまでの傷を負わずに済んだが、痛いものは痛い。


 触手の数は多くなく、今切り落とした二本も動く様子がなくなった。…このまま切り落としていけば何とかなるか?


 しかし、その触手の一本が、攻撃に巻き込んで殺したゴブリンの一匹に巻き付いて、雑巾を絞るように…その血を地面に染み込ませると、そこから新たな触手がズルリと出てくる。


(こいつぁ…、キツイでござんすな…)


 ゴブリンを絞る触手を見ていて、森の中にあった捻り切られた動物の死骸を思い出した。

 どうやら、この触手の仕業であることは間違いないようだ。


 この触手はただの生き物なのか、それとも…首魁のゴブリンに関係しているのか。


 …恐らくは後者だろう。

 巻き込みでゴブリンもろとも攻撃してきたとは言え、あれは明確に十郎を狙った一撃だったからだ。


 十郎は、跳ねて、身をよじり躱して、不様に逃げつつも、隙を見ては触手を斬っていく。

 しかし、一人でやるには限界があり、ついに足元を絡めつかれてしまう。


「ぬがっ!?」

 移動を封じられ、あっという間に捕縛されてしまい、空中へと吊られるように持ち上げられる。


 思っていたより、ゴブリン連中を引き付けることも、ピィス達が逃げる時間を稼ぐことも出来なかった…。


 ピィスとソラはどうなっただろうか?

 無事に逃げ切ってくれていることを祈りながら、吊られながらも、二人の姿を探してみると…。


 ──十郎が視線で追った先に、二人はいた。


 包囲網は何とか抜け出せたようだが…、十郎が見た時には、ゴブリンが追い付こうとしている直前であった。

 ピィスもソラも、坑道から抜け出した時には既に、緊張と疲労が蓄積していたのだろう。

 逃げる動きが鈍く感じる。


(──助けなければ)


 ミシミシと、体を締め付けてくる触手に対して、十郎は全身の力を込め抵抗し、抜け出そうと抗う。


(最期まで手向かえッ!子供をみすみす殺させるような真似は…させるな!)


 十郎は触手にかぶり付くと、ブチブチと触手を噛み千切りながら、益々の力を全身に込めた。

「ぬぅう!!ぐぎぎぎぎぎ!!!」


 少しずつだが、触手が千切れ始めた。

 しかし───


 残りの触手がギュルリと、更に重ねて十郎に巻き付いてくる。


(ちきしょう…!頼む、逃げ切ってくれ!)

 ピィスとソラから視線を逸らせず、もはや祈るように見守るしかない。十郎は情けなく、悔しい気持ちで塗り潰された。


 その時だった、「うぅおぉぉーっ!」という声、…まるで犬の遠吠えにも似た叫び声が聞こえてきた。


 十郎がその遠吠えの方を見ると、小さな人影が見え、見覚えのある姿に驚かされる。


 ──それは、ラサダ村にいた子供達だった。


 数人の子供達がピィスとソラを助けようと、ゴブリンに果敢に飛び掛かる。

 不意を突かれたゴブリンが昏倒し倒されるものの、次から次へとゴブリンが湧いて出るように、子供達の方へと押し寄せてくる。


 これを見た十郎は後悔した。


 グリン達が会議をしていた部屋から出る時、あの子供達がいた事には気付いていた。

 …子供の行動力を甘く見ていた、友達を助けようと追ってくる可能性を完全に見落としていたのだ。


 今は何とか子供達でも戦えているが、押し返されるのは時間の問題だろう。

 十郎も全力で触手に抗ってはいるものの、先ほどとは逆にミシミシと音を立てて骨と内臓が痛め付けられ、徐々に潰されていく。


 渡世人という生き方を選んだ以上、ロクな死に方はしないと覚悟はしていたが。襲われる子供達を目の前にして、何も出来ないまま終わるのは…最も情けなく、恥じるべき死に様だろう。


(すまねぇ…あっしが強ければ、せめて…頭が良ければこんな事には…)


 十郎が死ぬのが先か、子供達が目の前で殺される様を見せられるのが先か…。そんな最悪の状況で再び、声が聞こえてきた。


「ヴォオオオォォーッ!」

 いや、声というよりも怒号だ。


 まるで狼が遠吠えするような…そんな怒号が響いてきたのだ。

 同時に、子供達を取り囲もうとしていたゴブリン連中に向かって、矢が五月雨のように降り注ぐ。


 矢に貫かれたゴブリンが悲鳴を上げると、子供達に肉薄していたゴブリンがそれに気付いて、何事かと周囲を見渡す。


 だが、その時には既に、先陣を切って飛び出して来ていたグリンとレンジャー隊…そして、ノーザン村長や村人と思われる獣人達までが一斉に押し寄せ、ゴブリンの眼前に迫っていた。


 グリン達は短剣を持ち、村人は農具を使い、子供達を襲っていたゴブリンを八つ裂きにする。


 …まるで百姓一揆を見ているようだ。


 しかし、その動きは統率が取れていて、数の不利をものともしない勢いを見せている。

 特にノーザン村長は人間離れした動きを見せており、老人とは思えない勢いでゴブリンを引き裂いてゆく。


 この突然の来訪者に、首魁の顔色が変わった。

 明らかに焦りが見える。


 十郎を捕縛していた触手の一本が離れると、八つ裂きにされたゴブリンを次々と搾り、その血を地面に染み込ませていく。


 ズルリ…ズルリと触手が増えていくのが見えた…。


 触手が少し離れたことにより、若干ではあるが十郎への締め付けが弱まった。


 抜け出して加勢しなければ…!

 そう思い、再び力を入れるがビクともしない。


「ジューロさん!!」

 グリンの声が下から響いてきた瞬間、十郎は触手から解放された。

 グリンが触手を切り落としたのだ。


 十郎は空中から地面に落下し、しこたま背中を打ち付ける。

「がはっ、はっ…ゲホッ…!」

「すっ、すまない!」


「いや、助かりやした…。ありがとうござんす!」

 血を吐き出し、よろめきながら体を起こす。

 身体中が悲鳴を上げているが、まだ動くことは出来そうだ。


 取り囲んでいたゴブリンの数は、駆け付けてきた獣人達によって半分近く始末されていたが、それに比例するように触手の本数が増えている。


 ゴブリンを圧倒していた獣人達だったが、触手が増えていくほど押されているのが目に見えて分かった。


 その原因の一つは、子供達を守りながら立ち回っているからだろう。

 十郎とグリンも合流し、触手を斬り伏せていくが焼け石に水のように思えた。


「ぬうっ!ラチが明きやせんね…、こいつぁ…」


 グリンやレンジャー隊、村長や村人達と一緒に、かろうじて触手からの攻撃をいなしているが、怪我を負った者も増え出してジリ貧である。


 子供達だけでも逃がしてやりたいが、既に周囲には触手が壁のように塞がり、蠢いていてその隙もなかった。


「ジューロさん、もうしばらく堪えてくれ!リンカさんが魔法で障壁を張るらしいんだ!」

 グリンが十郎の隣に並び立つ。


「む!?リンカさんもいるので!?」

 …どうやら彼女も来ていて、何かをしようとしているらしい。


 来るならグリンと一緒に…という約束を守ってくれたみたいだが、こんな状況で来られていたのは正直、複雑な心境である。


「うん、来てるよ。必ず反撃の機会が来るから…その時は、力を貸して欲しい」


 十郎に出来ることなど限られているが、グリンが言う反撃の機会とやらが来るのであれば、それに乗らない手はない。

 それに、この状況を打破する為には一人でも多くの人手がいた方が良いのも確かだろう。


 十郎はこれに頷いて返すと、このやり取りをした直後にリンカの声が聞こえてきた。

「…出来ました!これで…っ!」


 リンカは子供達の前に立ち塞がるように立っていて、持っていた杖をカツンと地面に突き立てる。


 するとリンカを中心に青白い光が広がり、羽衣のようなものが形成されていくのが見え、子供達を包み込むように球状に広がっていく。

 それが何らかの魔法であることは十郎にも理解できた。


 子供達を狙っていた触手が襲い掛かってきたが、球状の羽衣に触れると、バチリという音を上げて弾かれる。


「皆さん、少しの間は大丈夫です!戦えない人は障壁の中に避難して下さい!」


 怪我を負った村人は障壁の中へと避難すると、それを見届けたレンジャー隊やノーザン村長はゴブリン連中の方へと突っ走っていく。


 これまで防戦一方であったが、これを機として一気にケリを付けるつもりなのだ。

「骨の装飾をしたゴブリンだ、ヤツを狙え!」


 ノーザン村長の怒号が聞こえた。

「ヤツさえ倒せば、この半端な召還は消え失せる!殺れ!殺るのだ!!」


 十郎はノーザン村長の発した言葉の意味すべては理解出来なかったが、あの首魁を始末すれば事態が好転するだろうことは理解した。


 そのノーザンは指示を出した後、笛を咥えて吹き始める。 

 十郎には笛の音が聞こえなかったが、レンジャー隊は再び統率の取れた動きを見せ、首魁のゴブリンに向かい矢を構えた。


「村長さん!ヤツの前には見えねぇ壁が…!」

「…なに!?」

 十郎の言葉は村長に届いたようだったが、その時にはレンジャー隊が一斉に矢を放っていた。

 放たれた矢は首魁に到達することはなく、見えない壁に全て阻まれ、弾かれ地面に散らばる。


「…そうか、ヤツも魔法障壁を張っておったか…!」

 それを確認したノーザンが短剣を構えると首魁に向かって走り出す。


「問題はない!あれは衝撃を与え続ければ打ち破れるものだ!」

 村長の言葉を聞いて十郎はハッとし、思わずリンカの方へ視線を向けた。


(ヤツも?…それは打ち破れる──?)


 リンカの張った魔法障壁で、確かに触手の攻撃は弾かれているが…、それでも執拗にリンカ達が狙われ続けているのを見た。

 そしてリンカは、杖を握り締め…苦しそうに歯をくいしばっている。


 時間はあまりないと感じた。

 村長に続いて十郎とグリン、そしてレンジャー隊もゴブリンの障壁を打ち破る為、動き出す。


 だが首魁もただ見ているだけではない。

 ノーザン村長に対しては特に警戒していたのか、凄まじい数の触手をもって、彼の行く手を阻んでいた。


 レンジャー隊が手練れなのが分かるが、ノーザンはその比ではないほどの八面六臂の動きを見せていたからだろう。


 しかし、ノーザンに足止めを集中させているせいか、ほんの僅かだが…十郎や他のレンジャー隊へ回している触手は少なくなっていた。


「ジューロさん!」

 グリンの声がした。

 言わんとしていることは、何となくだが理解出来た。

 好機は、この瞬間しか無いのだ…ということが。


 十郎は首魁のゴブリンを討つべく。グリンと共に、前へ!前へと駆け出した。

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