『怪物迷宮』
魔族が王都へと迫る。
その渦中で、真っ先に動いたのはアネットだ。
アネットが手のひらを上に向けると、14面でできた物体が出現する。
透き通った青色の14面体は手のひらから少し離れた宙に浮き、その中心には牛と人が合わさった異形の姿を模った像が見えた。
「おお! それがアネットの神器じゃな!」
「その通りです。女神様より授かった神器――『怪物迷宮』。使わせていただきますわ」
アネットの言葉とともに14面体が青白い光を放つ。
光はどんどんと拡大していき、ついには広い王都をすっぽりと覆うようなドーム状に展開された。
そしてなおも、光は広がっていく。
王都の外まで拡大された光が、警戒するように身構える魔族すら呑み込み――止まる。
「魔族、すべて捕捉しましたわ!」
「うむ、よくやった! あとは手筈通りに頼むのじゃ!」
「ええ、心得てます! お任せくださいな!」
14面体の輝きが増していく。
「『
光に包まれた王都。
その中にいたあらゆる存在が、一斉に転移する――
「さて、あとは魔族を逃さず、それでいて犠牲も出さないよう……なんとか上手くやらないとですわね」
アネットは手の中の14面体に意識を向けながら呟く。
その隣には、さっきまでいたエレアの姿はない。
アネットの神器『怪物の迷宮』に宿る能力のひとつ、『
より正確に言うと、14面体から放たれる光の影響下に置いた空間を細かく分割しアネットの意思によってでたらめに継ぎ接いだり、内部の人や物をある程度自由に動かしたりということができる。
この神器の影響下に置かれた空間では、侵入者は決して目的地には辿り着くことはできず、脱出することも叶わない。
拠点防衛においてこれ以上はないと言えるほどの神器だ。
この空間に捕らえた魔族は、もう二度と外に出ることはないだろう。
今この王都には『竜王女』エレアや『山割』スターを筆頭に、イブにメルナにドークといった大戦力がいる。
加えて、ドレイク塾でレヴィによって鍛えられた100を超える生徒たちも魔族と戦うべく待機していた。
アネットの神器と、用意されたこの戦力で閉じ込めた魔族たちを1体たりとも残さず全滅させる。
それが、王都防衛の根幹となる作戦であった。
「魔族の戦力は……おそらく公爵級が3体、侯爵級が20体ですわね。それに、伯爵級が50体で子爵級以下が200体ほど」
王都を含めた周囲の空間はすべてアネットの支配下。
その内部にいる魔族の魔力を推し量ることくらいは簡単にできることだ。
そうしてアネットは、暫定的な魔族の戦力評価を行う。
「……学園襲撃のときを超える大戦力ですわ。現実逃避してしまいたいけど、国境の方に現れた魔族の数と比べたら全然大したことがなく思えてしまうからおかしいですわ」
王都に現れた魔族の大戦力に、アネットは気が遠くなりそうだった。
しかし、通信の魔道具でフロプトと情報を常に交換しているアネットは、国境で相対している魔族の大軍勢のことを聞いていた。
そっちと比べてしまうと、王都に現れた魔族ははるかにマシな数に思えてしまう。
向こうには公爵級が8体。侯爵級は80体くらい。
それ以下の魔族は合計で10000を超える数が現れたとかなんとか。
一応、レヴィが伯爵級以下をまとめて倒したと聞いているが、それにしたってとんでもない数だ。
というか、レヴィが10000の魔族をまとめて倒したとか言っていることがよくわからなくて、アネットは思わずフロプトに聞き返してしまった。
ある意味、魔族の数や戦力以上に衝撃的な情報であった。
「ですが、向こうと比べてかなり少ないとはいえこちらも決して油断できる敵の数ではない……ええ、問題はありませんわ。そのための私ですもの」
アネットは14面体の神器を操作する。
「……殿下のところに公爵級を3体と侯爵級を10体。イブさんたちには、それぞれ侯爵級を1体ずつ。学園のみなさんには、伯爵級以下を戦力を見つつ振り分けて……ひとまず、これでいいですわね。残りの魔族はまとめて閉じ込めておきましょう」
『
戦力が足りず手が回らないと判断した魔族は、とりあえず今は隔離しておく。
第一陣となる魔族の討伐を終えてから、その後まだ戦う余裕がある者に再度振り分けて倒してもらう算段だ。
「グランデ様は王城の守護から動かさないようにということでしたが……さっきの話からして、おそらく地下にある
王都の空間の調整と魔族の振り分けを終わらせれば、ひとまずアネットの仕事は休憩だ。
このあとは状況を見つつ負けてしまいそうな人を補助したり、フロプトとの情報共有をしていくのが主になる。
「……それにしても、殿下は『公爵級は全部、侯爵級も半分くらいわらわに投げてくれてよいぞ!』なんて自信満々に言ってましたけど、本当に大丈夫ですの?」
王国最強にして人類最強の『竜王女』。
そうは言っても、さすがに不安になってしまう魔族の戦力である。
実際にエレアの戦いを見たことがないアネットは、一抹の不安を抱いてしまうのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます