メリーネ、飛ばす
周囲を暗くする影に顔を上げると、そこにいたのはやはり巨大化したジードロイド。
その手には、サグネアブローマも乗っていた。
骨折をしつつもわりとピンピンしているメリーネを見て、ジードロイドは困惑した顔で言った。
「テメェ、なんで生きてんだよ」
「なんでって、がんばって耐えたんですよ! 人を足蹴にして、許しませんからねっ!」
「いや、普通死ぬだろ。どんだけぶっ飛んだと思ってんだ。まぁいい。生きてんなら、さっさと殺すか」
「来ますか!」
メリーネは折れた手足から伝わる痛みを無視して立ち上がり、剣を構える。
石ころのように蹴り飛ばされて骨は折れてしまったが、なんとか剣は手放していなかったので問題なく戦える。
ただし問題は――
「――ああ、もちろん君は動いちゃダメだよ。そのまま何もせず、ジードロイドに殺されてね」
「うぐ、体が動かない〜!」
またも、メリーネはサグネアブローマの権能に動きを止められてしまった。
こうなってしまえば、もうジードロイドからの攻撃をただ待つことしかできない。
「チッ、また余計なことを。まぁ、調子に乗った俺をナメた報いだ。そのまま無様にぶっ殺してやるぜ」
「うぐぐぐぐぐぐっ!」
ジードロイドが拳を振りかぶる。
その拳の大きさは、メリーネよりもはるかにでかい。
さっきはかなりの距離を蹴っ飛ばされたが、今度は頭上から振り下ろされるパンチだ。
まともに当たったら、ぺちゃんこである。
「うぐぐぐぐぐぐぐぐっ!!!」
「はぁ、はぁ……グッ、っうう! ち、ちからつよ!? 君、本当に人間の女の子!? 抵抗が、やばすぎる! ジ、ジードロイド! 早くやってくれ!」
「うぐぐぐぐぐぐっ!! う、ご、け〜〜!!!」
全身に力を込めて、全力で静止する体を動かそうとするメリーネ。顔を真っ青にし、脂汗を流しながら権能の維持を必死にするサグネアブローマ。
「お、おう。わかった」
サグネアブローマのあまりにも必死な様子に、協力に否定的だったジードロイドも思わずといった様子で頷く。
ついに振り下ろされる巨人の拳。
目の前に迫る拳を前にして、それでもなんとか体を動かそうと抵抗するメリーネ。
「そんじゃま、死ね!」
「うぐぐぐぐぐぐぐぐっ!! ――あ、いけそうです!」
ふいに、体が動くようになる。
なんとギリギリの土壇場で、メリーネは体の自由を取り戻したのだ。
力技で無理矢理サグネアブローマの権能を打ち破ったメリーネは、目と鼻の先に迫る巨人の拳へと右手を突き出した。
「うりゃあああ!!! 『
「!? な、なんだこのパワー!? お、俺が押し負けるのか!? ふざけやがって、サイズ差考えろやあああ!!!!」
「そりゃあ!」
――大地が巨大な音を立てて揺れる。
メリーネがジードロイドとの力比べに打ち勝ち、巨人の体は木々を薙ぎ倒しながらひっくり返ったのだった。
「このタイミングで『
「うおろろろろろろろろ。あ、ありえない……僕の権能が力技で破られるとか、意味わかんない。こ、こんなことがありえていいの? うそでしょ…………?」
「あなたは危険ですから、さっさと倒しちゃいますね!」
「あ、待って待って、うえっぷ。し、死に際がゲロまみれなんて、い、嫌すぎる。こんな魔族、多分、僕だけだ……おじ、お慈悲を……」
「問答無用っ!」
メリーネに権能を破られた反動か、あるいはジードロイドと一緒になってひっくり返った影響か。
思いっきり吐いてゲロまみれとなっていたサグネアブローマに、メリーネはさっさととどめを刺した。
「これであとはあなただけですね!」
「む、むちゃくちゃしやがって。ありえないだろ、なんだお前。本当に人間か?」
「むっ! 正真正銘、普通の人間の女の子ですよっ!」
「いや、そのパワーで普通の人間の女の子は無理があるだろ…………」
ジードロイドの言葉に少し機嫌を損ねたメリーネは、起き上がった巨人を見上げ睨みつける。
「まぁいい……いや、よくはないけど。ともかく、力で負けたならもっと力を上げりゃいいだけだ!」
「ま、まだ大きくなるのですか!?」
メリーネは驚愕する。
なんと、すでにものすごい大きさだったジードロイドの体がさらに巨大化していくのである。
大きさは50メートルくらいはありそうだ。
このレベルの大きさになると、もはや地上からは顔が見えない。
「――! ――――!」
「な、何言ってるかわかりません!」
顔も見えないし声も聞こえない。
まさしく山を動かすような、あまりにも大きな巨人であった。
「うわわ!」
巨人が足を踏み出す。
大きすぎるゆえか緩慢な動きだ。メリーネからしたら止まっているかのような遅さ。
しかし、さすがにこの大きさになると威圧感があって、メリーネはちょっと怖かった。
ふと、頭上の影が大きくなる。
「の、のしかかりですか!? 単純ですけど、その大きさだと理不尽ですよっ!!」
超巨大な巨人が倒れ込んでくる。
シンプルな攻撃方法だったが、空から自分めがけて大きな城が降ってくるようなものだ。
恐怖である。
「は、離れないと――っ!?」
おそらく、偶然のことだろう。
メリーネがのしかかりを回避しようとした矢先、目の前に降ってくるこれまた巨大なジードロイドの手。
踏み出そうとしたところで強制的に動きを止めざるを得なかったメリーネは、つんのめりそうになりながらなんとか耐える。
しかし、そのせいで逃げ遅れてしまった。
「! ぶ、ぶつかる――」
メリーネはとっさに両手を頭上に掲げて受け止める。
「う、うぎぎぎぎ!! さすがに重すぎです……!!」
「――――! ――――!!」
ジードロイドが何か言っている。
しかし、そんなことに気を配る余裕など今のメリーネにはなかった。
「うぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!!」
なんとか潰れないで済んでいるが、全身が悲鳴を上げるようなあまりの重さ。
メリーネは気合いで受け止めているが、彼女が立っている地面はめりこみ陥没を始めていた。
骨折した左腕と右脚がめちゃくちゃ痛くなり、そうでなくとも全身が軋むように痛みをうったえる。
「うぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!!!!!」
それでもなんとか耐えて、耐えて耐えて、気合いでひたすらに耐えて――やがて、少し押し返した。
「あ、いけるかもですっ!! ――『
「――――! ――――!?!??」
――ありえないだろ!
メリーネは、そんなジードロイドの幻聴が聞こえた気がしたけど、やっぱり何を言っているのかわからないので気のせいだと思った。
少しずつ、少しずつ、メリーネは巨人の体を押し返していく。
「13倍……14倍…………15倍ですっ!!!!」
「――!!?!!!???!??!?」
ついに至った『
現在のメリーネの肉体が耐えられる正真正銘最高の出力が発揮され、山のような巨人がひっくり返された。
「はぁ、はぁ……どうですか! レヴィさまの護衛であるわたしはあなたなんかには負けないんですよっ! これが剣聖パワーですっ!!!」
――いや、剣聖はそういうのじゃない。
そんな幻聴が聞こえてきた気がしたメリーネだが、やはり気のせいである。
「――! ――――!!!! ――!?!?」
「だから、何言ってるかわからないんですって! あなたには手こずらされました。骨折もしちゃったし、もしかしたら死んじゃうかもって思っちゃったし!」
メリーネは黄金の剣――神器『雷王の剛剣』を両手で構えて目の前に倒れるジードロイドを見据えた。
「お返しです! あなたくらい大きいと、どれだけ斬っても意味なさそうですから一撃で終わりにしますっ!」
黄金の剣が光をまとい、雷轟が響く。
メリーネに宿る爆発的な力が雷光を伴って放出され、物理的な圧力となって迸る。
これこそ、メリーネの奥義。
あらゆるものをねじ伏せる、雷鳴轟く裁きの剣。
――『
「終わりですっ!!!!!!」
雷火が、落ちる。
それは周囲のすべてを吹き飛ばし、消し飛ばし、大地を揺らして空気を引き裂く、衝撃。
「よし、わたしの勝ちです!」
森であったはずのそこには、草木の姿も巨人の姿もありはせず。
ただ、巨大なクレーターの中心に立つメリーネだけがそこにいた。
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