メリーネ、飛ぶ

 レヴィの指示によって飛び出したメリーネは、2体の公爵級魔族を目標に定め突撃する。

 太い尻尾が生えた筋肉ムキムキの大柄な男。

 正反対に細身で角の生えた男。


「公爵級魔族ですね? あなたたちの相手はわたしです!」


 メリーネは剣を突きつけ宣言する。

 すると、大柄な男が不快そうに顔を歪めて吐き捨てた。


「あ? 人間の女、ナメてんのか? 俺らを同時に相手するとか、ふざけたこと抜かすなや。コイツはどうでもいいが、オレとはタイマンで戦え」


「ふざけてないですよ。そっちがどう思うかとか、関係ないです。わたしは構わず攻撃するので、死にたくなければ応戦してください」


「ジードロイド、協力しよう。この人間、かなり強いよ」


「チッ、ムカつくなあ」


 怒りに震える筋肉の魔族とそれをなだめる細身の魔族。

 目の前の2体の様子に構わず、メリーネは2本の剣を構えた。


「公爵級、ジードロイドだ。後悔して死ね」


「僕は、公爵級魔族サグネアブローマ。ジードロイドは不服そうだけど、君強いよね。そっちがその気なら、僕らはありがたく2体1でやらせてもらうよ」


「『二代目剣聖』メリーネ・コースキー・リンスロット。勝たせてもらいますっ!」


 メリーネは魔族の名乗りに返すと、先手必勝とばかりに地を蹴った。

 『剛力の雷衣メギンギョルズ』の倍率が10倍となっている今のメリーネは、力の化身。

 その足は音速に迫る速度を発揮し、その腕はあらゆる存在を圧倒的な力でねじ伏せる。


 2体の公爵級魔族目掛けて駆け出したメリーネは、一瞬にして接近し敵を斬り刻む――はずだった。


「え、あれ? 体が止まってる……?」


 駆け出したメリーネの体が突如として静止する。

 もちろん彼女の意思によるものではなく、姿勢的にもあまりに不自然な形で動きが止まっていた。


「これ、権能ですか?」


「そ、そうだよ。僕の権能。敵の動きを静止させる力なんだけど……グッ、き、君なんてパワーなんだよ。なんとか止められたけど、ち、力が強すぎる!」


「動きを止める権能……うぐぐぐぐぐぐっ!」


「う、おお!? 抵抗するのやめてくれ、無駄だから!」


「…………無駄には見えないですけど」


 顔から大量の汗を流し、必死な形相で権能によってメリーネを静止させるサグネアブローマ。

 どうやら静止させる対象の力によって、権能を発動させる本人に負荷がかかる仕様らしい。


 ――もう少し力を込めたら無理矢理破れそうかも。

 なんてメリーネは思ったが、その考えを実行に移す前に危機が迫る。

 この場には、公爵級魔族がもう1人いるのだ。


「よおし、そのまま動きを止めとけ。俺がぶっ飛ばしてやるよ!!」


 ふいに、影が差す。


「……わあ、びっくりです」


 メリーネはあぜんとして呟いた。

 急に現れた影の正体は、見上げるほどに大きくなったジードロイドによるものだったのである。

 その背丈は、20メートルくらいはありそうだ。


「これが俺の権能。山すら動かす巨人となる力だ。当然、パワーはちっぽけな人間なんかとは格が違う。俺をナメたこと、死んでから後悔しろや!」


 ジードロイドが、脚を引く。

 その動作を見た瞬間、これから何が起こるのか察したメリーネは頬を引き攣らせるが、しかし体は動かない。


「――ぶっ飛べ!」


 とんでもない威力の蹴りがメリーネを襲う。

 その一撃によってメリーネの体はまるで石ころのように宙を舞い、ものすごい距離を吹っ飛ばされる。


 何度も地面に叩きつけられ、何本もの木を巻き込み破壊して。やっと止まったのはどこかの森の中であった。


「……あう、痛いなあ」


 今まで受けたダメージの中で間違いなく1番。

 体は動かなかったが闘気を動かすことはできたので、それでなんとか防御したが、それにしてもすごい威力。


「うう、骨折れちゃってるかも。エリクサーもないし……飛ばされてる間にどっかいっちゃったかな? あとでスラミィにもらわなきゃ」


 メリーネは体の調子を確認する。

 見た感じ左腕と、右脚の骨が折れていた。他は一応無事だが、擦り傷や打撲が多数。あと全身が痛い。


「だけど、動けないことはないかな? 折れた部分は闘気で固定して応急処置ってことにして。うん、痛みを我慢すれば問題なさそうだね」


 たしかに、痛いことは痛い。

 だけどメリーネはレヴィとともにこなしてきた、とんでもなく厳しい鍛錬の日々のおかげで痛みに耐性があった。

 痛みの耐性はレヴィほどではないが、骨折2箇所とたくさんの擦り傷と打撲程度ならなんとか耐えられる。


 折れた部位を無理矢理動かすのはとても痛いけど、気合いで耐える。そうすれば、戦えないことはない。


「――絶対、やり返すっ!」


 と、気合を入れるメリーネだったが――その頭上に影が差した。

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