重さと光
「あんた、魔法使いでしょ。それなら、接近戦ですり潰しちゃえば終わりじゃん」
ベルリアリテットが巨大な斧を持って一気に距離を詰めてくる。
さすが近接タイプの公爵級魔族。
その速度はかなりのもので、悠長に術式を構築している余裕もない。
だが、問題はない。
「『魔力波』」
「うわぁ!?」
瞬時に発動する無魔法によってベルリアリテットを吹き飛ばし、油断せずに次の魔法を俺は構築する。
視界の先に、光の矢を
「『竜炎装衣』」
「『光矢』」
ロートクレイドールの放った光の弓が、寸分違わず俺の心臓を狙い撃つ。
しかし、俺に命中する直前に炎の自動防御魔法がそれを阻む。
「こっちの番だ――『劫火炎槍』」
炎の槍を同時に100本出現させ、ロートクレイドールへとすべてをぶつける。
それと同時に、俺は『並列魔法』によって炎の剣を右手に作り出した。
「『光輝』」
「ま、防がれるよな」
ロートクレイドールの周囲へと光が集まり、結界のようなものを形成すると俺の『劫火炎槍』を防いでみせた。
「うちを忘れるな!」
「別に忘れてないさ」
ベルリアリテットが、頭上から異常な速度で
『竜炎装衣』による迎撃を風圧で吹き散らし、振り下ろされる巨大な斧。
俺は体に闘気を回し、上昇した身体能力で地を強く蹴ることで飛び跳ねるようにその場を離れた。
直後、俺の立っていた位置に斧を叩きつけるベルリアリテット。
――大地が揺れた。
あまりの威力にクレーターが形成され、石礫が飛散する。
「メリーネほどじゃないが、呆れた威力だな」
「は!? なんで魔法使いが避けてるし!」
「さてな」
炎剣を手にベルリアリテットに斬りかかる。
斬り結ぶ炎剣と巨斧。
ベルリアリテットの身体能力は高いが、まったく追いすがれないと言うほどではない。
実は俺もこの日に備えて『重量付加』の魔道具を使い、身体能力の強化を行ってきた。
闘気の扱いも、本業の戦士には及ばないが『闘気解放』くらいならできるようになっている。
そのおかげで、身体能力ではなんとかベルリアリテットに少し劣るくらいの水準で戦えているな。
だが、それ以上に――
「厄介だな。お前の権能」
「あは! そりゃそーでしょ! 魔王様から与えられたうちだけの力だし!」
振るわれる斧をかいくぐり。
その体を斬りつけようとすると、まるで木の葉のようにひらりと避けられる。
斧が来ると身構えれば急激に遅くなりタイミングを外され、逆に速くなって俺の防御が間に合わなくなる。
「あーでも、暑いし!」
「ちっ、炎に巻かれながらよくやるよ」
発動した『竜炎装衣』は今も続いている。
さっきは風圧に吹き散らされたが、この距離であればさすがに正常に作動する。
ベルリアリテットに巻き付くようにして、常に炎が彼女の身を焼いているのだ。
しかし、火傷を負いながらもベルリアリテットは止まらない。
効いていないわけではないはずだ。
だが『竜炎装衣』では決定打にはならない。
それを良いことにベルリアリテットは、巻き付く炎を根性で耐えて斧を振るい続けているのだ。
こうなるとジリ貧なのは俺の方だ。
『竜炎装衣』も込みで近接戦闘をそれなりにできてはいるが、やはり近接型の公爵級魔族と相手の土俵で戦い続けるのはダメだな。
「仕切り直しといこう――『魔力波』」
「それはもう効かな――っ!?」
さっき放ったものよりも10倍以上の魔力を込めた『魔力波』が、ベルリアリテットを吹き飛ばして強制的に距離を取らせた。
潔く吹き飛んでくれ。
「解決法が強引すぎだって! 魔力お化けかよー!」
「これが取り柄なんでな」
再び距離を取って対峙する俺たち。
ベルリアリテット、ロートクレイドール。
この2体の公爵級魔族は『エレイン王国物語』に敵として登場した魔族だ。
どうやらその権能は、どちらもゲームに登場したものとまったく同じものらしい。
「お前たちのは、自身と手に触れた物の重量を自在に変化させる権能と、周囲の光を集める権能だな」
ベルリアリテットは重量変化の権能。
自身の重量を重くさせることで超威力の落下攻撃を行い、軽くすることで敵の攻撃で発生する風圧を利用して木の葉のようにひらりと攻撃を交わす。
さらに斧の重量を操作することで攻撃速度に変化を持たせ、こちらの間合いを崩してきたのだ。
ロートクレイドールは光の集積。
光を集めることで攻撃に転用したり、光の盾を作り出すことができる権能だ。
光魔法を操るジークの天敵と言える魔族で、ゲームではかなりの苦戦を強いられる相手だった。
「あーあ、ぜ〜んぶバレちゃってるじゃん」
「仕方ないことでしょう。逆に、こちらもレヴィ・ドレイクの神器についても予想ができます。魔法使いでありながら、闘気を纏いベルリアリテットと斬り結ぶ近接能力。もしくは、魔王様すらはるかに凌駕する人の身ではありえない魔力量。あるいは、そのどちらもですね」
「おー。あんた、天才じゃん」
失笑を我慢する。
どうやら俺の神器についての情報共有はされていないらしい。
オールヴァンスが『変態』に扮している時期に模擬戦を行ってしまったことから、彼が魔族全体に伝えていると思ったが…………そうじゃないらしいな。
いや、あの用意周到なオールヴァンスが危険視していた俺の力を魔族の間に流していないわけがない。
おそらく仲間意識が皆無なこいつらだから、オールヴァンスから与えられた情報を忘れたか無視したか。
人間と比べて種族的に圧倒的な個の力を持つにも関わらず、こんな弱点があるんだから魔族というのはどうしようもない。
もしくは隔絶した強さがあるからこその驕りかもな。
どちらにせよ都合が良い。
油断してくれている間にさっさと倒してしまうか。
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