交戦

 居並ぶ魔族たちの視線が一斉に俺へと向けられる。

 その眼差しには明確な敵意。


「死ね、人間!」


「お前が死ね――『劫火炎槍』」


 先走って向かってくる侯爵級を、10発同時に放つ炎の槍で跡形もなく消し飛ばす。

 だが、公爵級魔族の1体がその影に隠れて迫る――


「レヴィ殿に負けてはいられない!」


「っ!」


 迫る公爵級魔族へとユーディがタックルをして吹き飛ばし、そのまま戦闘へと入っていく。


「ワシの相手は貴様としようか、魔族の剣士」


 ロータスが剣を持つ公爵級魔族へと突っ込む。


「ぼ、僕もレヴィさんのために……!」


 突っ込んでいくロータスのその横から、複数のアンデッドが魔族の元へと飛び込んでいった。

 ネロの支配下にあるとくに強力な個体――ワン太のようなワンオフアンデッドたちだ。


「キャプテン・メアリの力を見せつけてやるのだ!」


 巨大な水竜が現れ魔族を狙う。

 それと同時に、体に力がみなぎるような感覚。どちらもメアリの神器の力だ。


「よし、行くよ!」


「あのときのリベンジ! あたしはもう魔族になんか負けないから!」


「僕は魔族なんかには負けない!」


「久しぶりの戦場ね。子供たちが頑張ってるんだから、私も存分にやらせてもらうわよ」


「私だって、先生なんだから!」


 ロータスの突撃とネロのアンデッドにメアリの魔法で魔族の群れを乱し、そこにジークたちが乗り込んでいく。

 魔族側も、それに対応するように動きだした。


 俺がやるべきことは、戦況を変え得る強力な敵である公爵級魔族の排除。

 この場でもっとも強い近接戦闘力を持つメリーネも同じくだ。


「メリーネ、公爵級を2体いけるか?」


「オールヴァンスほど強いのはいないみたいですし、レヴィさまの騎士として2対1くらいこなしてみせますよ!」


「良い返事だ。俺が2体、メリーネが2体。ユーディとロータス様が1体ずつ。公爵級はこれで方がつく。あとは侯爵級だが、スラミィは全体を見つつ適宜みんなの援護と回復を。ネロはそのままアンデッドで侯爵級魔族の相手を頼む」


「わかりましたっ!」


「スラミィもがんばるよ〜!」


「ま、任せてください……!」


 仲間たちに指示を出す。

 頼もしい返事が返ってくると、さっそくとばかりにメリーネが2体の公爵級魔族へと突っ込んでいった。


 残った2体の公爵級が俺の敵だ。


「――『劫火炎槍』」


 魔法で100の炎の槍を出現させ、公爵級2体へと目掛けてぶっ放す。


 威力も数も多いが単純な攻撃魔法。

 2体の魔族はそれぞれ防御し、回避し、その体にほとんどダメージを与えることはできなかった。

 だけど問題ない。

 これはあくまで敵を釣り出すための攻撃だ。


 2体の公爵級魔族が俺の前へとやってくる。


「うちらの敵はあんたってわけね」


「さっきの大魔法を放った魔法使いですね。今まで見たことのないほどの膨大な魔力量。あなたがこの場にいる人間で、1番強いと見て良さそうです」


 褐色の肌をした女の魔族と、フード付きのローブを着た男の魔族の2体だ。

 小さな羽根や角といった人外の特徴を持つが、人間に限りなく近い容姿をしたこいつらはまごうことなき公爵級。


「うち、知ってるかも。前にオールヴァンスが言ってたやつでしょ。危険な人間だって。あいつ死んだけどさ」


「ああ、そういえば。竜王女、ジーク・ロンド、レヴィ・ドレイクの3人が人類でもっとも警戒すべき存在……と、オールヴァンスが忠告してきましたね」


「あいつごちゃごちゃうるさかったの。うちらは同格だってのに指図してこようとするし。同格のやつらはみんな嫌ってたでしょ。んで、結局あいつについて行ったのは格下だけ。それでちょっかい出してまとめて死んだんだからお笑いね。せいせいしたわ。やたらと魔王様に徴用されてるのもうざかったし」


「オールヴァンスは魔族のために殉じた仲間ですよ。あまりそういうことを言うべきではありません」


「うっさいなぁ、あんただってあいつのこと仲間だなんて思ってないくせに。魔族に仲間意識なんてないでしょ。たしかにあいつは魔族のために働いてたけど、味方だとは思っても仲間だなんて考えないわ」


「まぁ、否定はしませんよ。僕たちは魔族ですからね」


 オールヴァンス、だいぶ嫌われてたんだな。

 たしかに思い返してみると学園襲撃では、オールヴァンス以外の公爵級はいなかった。


 『エレイン王国物語』を知るオールヴァンスが、主人公であるジークの命をとるための千載一遇のチャンスに全力を尽くさないわけがない。

 実際、あの場に他の公爵級がいたら厳しかったかもしれないし。

 つまり、魔族による学園襲撃ではあの戦力がオールヴァンスが引っ張ってこれた最大だったというわけだ。


 人間の世界でだってしがらみやプライドで非協力的になる人間はいるし、人をまとめるというのは本当に難しい。

 魔族には共感性やら仲間意識やらといった、人間の持ついくつかの感情がないのだから尚更だ。


 あいつ苦労してたんだな。

 まったく同情はしないけど。ざまあないね。


「それであなたは、ジーク・ロンドですか? それとも、レヴィ・ドレイク? まさか竜王女ということはありませんよね」


「レヴィ・ドレイクだよ。七竜伯――『白銀』。お前たちを殺す人間の名前だ。今際の際まで覚えておけ」


「へぇ、威勢がいいじゃん。あたしは公爵級魔族、ベルリアリテット。悪いけどあんたの名前、この先何千年も覚えてられないと思うよ」


「同じく公爵級魔族、ロートクレイドール。来たる魔族の世界、その礎にあなたの亡骸を飾らせてもらいます」



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