接敵
遠くの空を飛ぶ魔族たち。
小さな影の1つが、ふっとその場から消えた気がした。
「――! レヴィさま!」
次の瞬間。
突如として俺の目の前に現れた魔族の攻撃を、メリーネが庇うように前に出て防いだ。
「あ? なんで気づかれた?」
「メリーネ、助かった」
「えへへ、わたしはレヴィさまの騎士ですからねっ!」
驚いた様子の魔族を後目にメリーネに礼を言う。
動きが完全に見えなかったな。
転移か高速移動か。メリーネが反応できたことから、おそらく高速移動の方かな。
これだけの距離を瞬時に詰めてくる超高速移動、音速くらいは出ていそうだな。
後頭部から角を生やした男の魔族……『エレイン王国物語』では見なかったが、おそらく公爵級だろう。
「チッ、無視すんじゃねェ!!」
魔族の姿が目の前から消える。
直後、俺の死角から突き込まれる凶刃――それを難なく防いでみせるメリーネ。
「!? 俺に反応できる速度、何者だテメェ!」
「レヴィさまの騎士ですよ!」
「――ぐっ!」
メリーネが魔族の首を掴んで地面に叩きつけた。
これだけの速度を持つ敵だと、拘束して何もさせないのが1番有効な対処法だ。
「は、な、せ……!」
「レヴィさまを狙ったのが運の尽きでしたね」
力も速度も両立するメリーネと違ってこの魔族は速度一辺倒らしく、彼女の拘束を抜け出す力はなさそうだ。
メリーネはそのまま手に力を込め、魔族の首を躊躇なくへし折ってあっさりと倒してしまった。
「よくやった。さすがだな」
「事前にウォーミングアップしておいたので、かなり速かったですけどなんとかなりました!」
「やっぱり、『
メリーネはさっきまでロータスと模擬戦をしていた。
スラミィがいれば回復できるから、とロータスはわりと殺す気で戦っていたのでメリーネが少し不憫だったけど。
そのおかげで『
戦闘が長引けば長引くほど強くなるメリーネの神器の力だが、立ち上がりの倍率は2倍。
メリーネの実力を考えれば2倍でもだいぶ強いが、万全を期して直前まで馴らしをしていたのだ。
10倍まで強化されたメリーネは、単体の戦力としてもうどうしようもないくらい強い。
俺が敵だったら匙を投げると思う。
だけど、味方としてなら本当に頼もしすぎる戦力だ。
「この魔族、狙いはレヴィさまに集中してましたね」
「俺の攻撃を中断させるためだろうな。その目論見自体はまんまと達成されてしまったわけだ」
遠くの空にいた魔族たちだが、すでに顔を目視できるくらいの距離まで接近していた。
おそらく、さっきの魔族の目的は時間稼ぎ。
最も速く動ける戦力を投入して、俺を殺すか魔法を撃てない状況にもっていこうとしたのだ。
実際、あれだけの距離があれば『
もう一方的に殴れるボーナスステージは終わりだな。
「こうして見ると、まだ数が多いな」
残った魔族の数は80体くらいか。
そのすべてが侯爵級か公爵級。これほどになると、さすがに圧倒的な戦力だ。
たしか、『エレイン王国物語』で語られた設定上の公爵級魔族の数は13体だったはず。
そのうちすでに倒したのはオールヴァンス、王都に潜伏していた魔族、消滅の魔族、音速の魔族。
だから残りは9体ということになる。
「……公爵級が全員いるわけではなさそうだな」
魔族の顔ぶれの中に、ゲームで登場した公爵級魔族の姿が何体かいないことを確認する。
見た感じここにいるのは6体くらいか。
となれば残りの3体は王都に攻め入ったと考えられる。
まぁ向こうにはエレアがいるし、都市防衛ではアネットの神器が圧倒的に強い。
向こうは心配はしなくていいだろう。
6体の公爵級と、70ほどの侯爵級。
公爵級の相手は俺とメリーネにロータス、ユーディでするとして、いざとなればフロプトの助勢を求めることだってできる。
ここにいる個別指導組の中でもとくに強いジークなら、公爵級を倒すこともできるかもしれない。
侯爵級は数がかなり多いが、ネロと個別指導組で相手して持ち堪えてもらえばいい。
回復と戦闘を両方こなせるスラミィをこっちに当てれば万が一のこともなくせる。
もし不利な戦況になったとしても、公爵級を倒した後に俺たちが加勢すればどうとでもなるしな。
「問題は、魔王がいつ出てくるかだな」
目の前に並ぶ魔族たちの中に魔王の姿はない。
どこかに隠れているか、あるいは王都の方へ魔王自ら向かったか。
魔王を倒すにはジークの力がいる。
戦闘能力としてはかつて戦ったオールヴァンスと互角かそれよりも劣ると考えられる魔王だが、奴は特殊な存在なんだ。
その特殊性ゆえに
だからできればこっちの戦場に出てきて欲しいのだが。
……まぁ、今は目の前の敵に集中するべきか。
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