それはさすがにやばすぎる
ジークたちがダンジョンを攻略し、目的を達成したとなれば他のやつらも奮起する。
もともと、個別指導組は実力に大きな差がない。
それから程なくして、クライ、メルナ、ターナ先生のパーティも続く。
そしてメアリとイブもブレア先生をパーティに加え、入学してから3ヶ月ほどの速さでダンジョンを攻略して見せた。
「みんな、よくやってくれた」
いつも使っている演習場に集まる10人。
こいつらは見事に俺が与えた目標を達成し、神器を手に入れたのだ。
10人の神器持ちの特級戦力。
こうして前に立つと、圧巻だな。それぞれの強さを肌で感じるくらいだ。
「師匠のおかげです!」
「そうそう! オレたちの努力もあるけど、やっぱりレヴィとメリーネさんの指導が良かったよ!」
「こんなに強くなれたなんて我ながら信じられないけど、感謝してるわ」
「さすがあたしの副船長と戦闘員なのだ!」
イブ、ジーク、ブレア先生、メアリ。
彼らがそう言うと、同意するように他のやつらも頷いた。
こいつらは俺やメリーネのおかげと思っているようだが、俺はきっかけを与えただけだ。
もともと優れた才能があって、本人の努力があって。
俺はそこに少しだけ手を加えたに過ぎない。
まぁでも、こうして完璧と言えるほどの結果が出てくれると嬉しいものだ。
「それで、レヴィ。オレたちはこれから、どうすればいいんだ?」
「女神からの神命があったと思うが、俺の予想ではもうすぐ魔族との決戦が始まる。お前たちは、手に入れた力で人類を守るんだ」
「魔族との決戦……!」
「だが、まだ足りない。神器を手に入れただけじゃ高位の魔族に勝つには不足だ」
今のこいつらの実力だと、侯爵級魔族と互角に戦えるくらいかそれより少し下くらいだろう。
神器はただ持っているだけではなく、使いこなさないと意味がない。
手に入れた神器を使いこなすことができれば、侯爵級魔族に一方的に勝利できるくらいに強くなれるはずだ。
だから、次の目標はそこだ。
「これからは、神器の習熟が課題だ。完璧に使いこなし、高位魔族を倒すほどの実力を身につけて決戦の日を迎えられるようになってくれ」
「がんばるです! 師匠にお役に立ってみせるです!」
イブがぐっと拳を握ってやる気を見せる。
他のやつらも、やってやるぞといった雰囲気の良い顔をしていた。
「良い返事だ。そんなわけで、個別指導は今日で終わりにする。もうお前たちに教えることはないからな。あとは各自で鍛えるように」
それぞれの神器の鍛錬に俺が口を出せることはない。
魔法については全員が並列魔法を習得したし、他に教えなきゃいけないこともなくなった。
メリーネの教えていた戦士組も似たようなものだろう。
とりあえず、これで一段落だな。
ジークたちが全員、ダンジョンの攻略を果たしてからしばらくが経ったある日。
俺はネロとともにフロプトに呼び出された。
「来たか」
校長室に入ると、俺たちを出迎えるフロプトとなぜか『山割』のスターがいた。
いつもより真剣な様子と、重苦しい雰囲気。
それらを見て、俺とネロを呼びよせたことを踏まえた上で、だいたいのことを察する。
「……魔族が動きましたか?」
「何も言わずとも察するとは、さすがはドレイクだな。その通りだ。先ほど、王都より報せが届いてのう」
「それでスターが?」
「ああ。オレ様が走った方が早馬なんかより早いからな」
ついに、か。
この日が来るのを覚悟はしていたが、いざこうなると少し体が強張ってしまうのを感じる。
だが、焦りや不安はない。
この日のために俺は今までやってきたんだ。
1つ深呼吸をして、俺はフロプトたちに尋ねた。
「魔族は帝国と組んでいたはずです。となると、北の国境に動きがあったということですね」
「ああ、そのようだ。帝国で軍勢が起こされ、国境近くの街に集まってきているという密偵の情報が入った。軍勢の数は報せが届いた時点で約10万。すでにその数はもっと膨れ上がっていると見るべきだろう。そしてその中には人とかけ離れた異形――魔族の姿ありと」
「……10万ですか」
かなりの大軍勢だ。
大国である帝国といえど、これほどの軍を起こすのは簡単なことではない。
間違いなく、本格的な戦争を想定した軍勢。
その中に確認された魔族の姿。
帝国と魔族の総力が、これから王国に攻め入ってくる。
「すぐに剣聖の爺さんとユーディが先行して国境に向かった。陛下も各貴族に呼びかけて軍の編成を始めたが、数日はかかるだろうな。エンデ辺境伯と爺さんたちで、なんとか持ち堪えるしかねえ現状だ」
「ロータス様とユーディがいるなら、すぐにどうこうなることはないと思いたいが……」
相手には魔族がいるからな。
公爵級や侯爵級が複数出てきたら厳しい。
「レ、レヴィさん、北方に配置しているネクロラビットを、国境に動かしますか? た、多分10000くらいは集まりますよ……!」
「ああ、頼む。10000のネクロラビットがいれば、帝国の軍勢の方はどうとでもなりそうだ。ネロがいてくれて良かったよ」
「う、うへへ、レヴィさんのお役に立てて、嬉しいです!」
「いやあ、味方ってわかってても恐ろしいぜ」
いかつい顔を崩したスターが苦笑する。
ネクロラビットだけでは侯爵級以上の魔族には勝てないだろうが、伯爵級以下の魔族なら倒せる。
帝国の軍勢も、七竜伯クラスの人間が紛れ込んでいないのであれば10万でも20万でもなんとかできるかな。
「後は、学園生のアネットを頼りましょう」
「ふむ、『空間魔法』の使い手だな。たしかお前が鍛えているという話だったが、北方までの長距離転移ができるのか? 相当な魔力を使うことになるだろうが」
「はい。ここから辺境伯領まで、問題なく。魔力を増強させて、神器も獲得させたのでかなり頼りになりますよ」
「…………ん?」
俺の言葉に、フロプトは固まった。
「……すまん、ドレイク。もう一度言ってくれ」
「? アネットなら、ここから辺境伯領まで長距離転移を問題なく行使可能です」
「いや、そこじゃなく。その後」
「魔力を増強して、神器も獲得させました」
さっき言ったのと同じことを再び口にすると、フロプトは目をかっぴらいて慌ただしく立ち上がった。
「――じ、神器を獲得させたぁ!? ドレイク! それは本当なのか!!?!?!?」
「本当ですよ。実力も、七竜伯と同等とはいかないまでもそれに準ずるくらいの強さになってます」
「お、お前! やばすぎるだろ!!!! そういうことは予め言っておいてくれ!!!! なんでそんなやばいやつが、いつの間にか我の学園生の中に生えてきてるんだ!!!?!?」
報告とかした方がよかったのか。
しまったな、たしかに言われてみるとその通りである。
なら、ちゃんと報告するか。
決戦が始まる直前の今ならまだ遅くないだろうし。
「では、遅ればせながら報告です。俺が指導した生徒――ジーク・ロンド、アネット・エンデ、エミリー・ミューリン、ブレア先生、ターナ先生、クライ・リンスロット、メルナ・エムード、ドーク・モルドー、イブ・リース、メアリ・フラン。以上、10名がダンジョンを攻略し、神器をその手に収めました」
「!!!?!!?!?!!?!? ――――」
フロプトは、ものすごい衝撃を受けたようなやばすぎる形相で何も言わずに硬直した。
ん?
もしかして、気絶してる?
いや、まさかな。
というか早く何か言ってくれよ。俺の報告、気に触るようなことでもあったのだろうか。
硬直して動かないフロプト。
そんな彼の返事を待つ俺、遠方のネクロラビットに指示を出しているのかむむむと唸るネロ。
そんな静かな校長室で、スターの呟きが響いた。
「いや、レヴィ…………それはさすがにやばすぎるぜ」
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