お疲れさま会!
「順調にダンジョンの攻略が進んでて、良い調子だな! これも2人のおかげなのだ!」
「私たちって、良いパーティです!」
「そうね、すっごく良いパーティだわ。私たちならきっと、すぐにダンジョン攻略もできる」
学園都市にある料亭。
安く、量が多く、雑ではあるけど食べ応えがあって美味しい料理。
そんな素敵な料亭に集まったのは、学園の剣術教師であるブレアと新入生のメアリとイブの3人。
時刻は夜。
ダンジョンに潜って頑張った後のお疲れさま会をしているところであった。
「実際、階層もすでに第4階層まで攻略できた。ここまでかなりのペースで進んでいるし、すぐに他のパーティにも追いつけると思うわ」
「でも、ブレア先生には悪いことをしたです。元のパーティは、すでに第6階層に挑戦中だったのに」
「そうね、1からやり直すのは面倒よ」
「うぐっ、はっきり言うのだ」
「だけど、今はこっちに合流して良かったって思ってるわ。あなたたち強いし、素直で良い生徒だし」
前のパーティ――その単語を聞いて、ブレアの脳内に浮かぶのは1人の少女であった。
進んで仲間の前に出て……というより暴走気味に突出して魔物から攻撃を受けながら楽しげに笑う
それと比べて、新しくパーティを組むことになったメアリとイブの良い子ぶりといったらない。
勇ましく活発的なメアリはリーダー気質で仲間を引っ張っていく。
根は極めて善良で、常に元気いっぱいな姿は見てて癒される。
海賊に憧れているとかいう危険思想の持ち主だが、憧れている対象が義賊である黒髭なので一応はセーフか。
イブは年相応に純粋で、年不相応にしっかりしている。
ことあるごとに師匠であるレヴィを賞賛し、どこまでもまっすぐな愛を向ける様はちょっと心配。
だけどレヴィの弟子という看板に偽りはなく。
12歳にしてありえないほど強い危険人物だが、肩を並べて戦っている限りは頼もしすぎるのでセーフ。
「イブさんの超火力の魔法、接近戦でも中遠距離でも臨機応変に立ち回れるメアリさん。前衛の私、後衛のイブさん、遊撃のメアリさん。理想的な構成よね」
「最初はあたしとイブの2人でやるつもりだったけど、きっと2人だけだったらこんなに早く攻略は進まなかったのだ」
「ブレア先生のおかげで、安定感が出るです! やっぱり、師匠の判断は完璧だったです!」
「はいはい。イブさんの師匠賛美が始まったわね」
このパーティは、レヴィの提案によって結成されたものだった。
メアリとイブの2人だけでも戦力的にはダンジョンを攻略できるだろうとレヴィは言った。
だけど安全性とかその他諸々を考慮したレヴィは、できればブレアにこちらのパーティに加わって欲しいと打診してきたのだ。
その提案にブレアは頷いた。
ダンジョン攻略をやり直すのは面倒だったが、すでにダンジョンの第6階層の攻略へと踏み入っていたブレアはダンジョンの危険性をよくわかっていた。
いくら強いとはいえ、新入生の生徒がたった2人で挑戦するなんて危険だろう。
一度そう考えてしまえば、さすがに教師として見過ごせなかったのだ。
七竜伯であるレヴィに頼られたことも実は嬉しかったりする。
あと元のパーティに問題があって、とても苦労をしてきたので。
ぶっちゃけそれが理由としては1番大きく、これ幸いと一抜けした次第であった。
そんな経緯からブレアはこの2人とパーティを組むことになったのだ。
実際に組んでみると、2人はすでに他の個別指導組と比べても遜色ないくらい強かった。
生徒の引率的な立場だと思っていたブレアは、2人の強さによって良い意味で考えを裏切られたわけだ。
しかし、後悔がないわけではない。
「惜しむらくは、ね」
ブレアはさりげなく視線を滑らせ、メアリとイブのある一部分を鮮やかな手際――いや、目際で舐めるように観察する。
「うーん、小さいわ。32点と47点ってところかしら」
「先生?」
「ん、どうしたのだ?」
首をかしげる2人にブレアは「なんでもないわ」と答え、何事もなかったかのように食事を再開する。
イブは年齢的に将来性あり。
一方でメアリは貧よりの普といったところ。将来性はもうない。
ブレアの趣向とは違うが、あのくらいが良いのだとのたまう愛好家はいるだろう。否定する気はない。
2人の少女の一部分を冷静に分析し終えたブレアは、そっとため息を吐いた。
ふと脳内に浮かぶのは親友のターナ。
そして頭がおかしく体は小さいけど、ブレアが興味のある一部分だけがやたら大きいメルナ。
「120点と96点……それだけが、恋しいわ」
ブレアはそっと呟き、今夜ターナの部屋に押しかけてその120点を堪能してやるのだと決意した。
埋め合わせだ。
文字通り、埋まってやるのだ。顔からな。
「ブレア先生があたしたちのパーティに入ってくれてよかったのだ!」
「そうです。やっぱり、頼りになる大人の人がいるといろいろと助かることが多いです!」
「こんなに良いお店に連れてきてくれたしな! ありがとうなのだ、ブレア先生!」
「ゔあ゙」
――やばい、変な声が出た。
ブレアはあまりにも善良で純粋な若者のまっすぐな気持ちを前にして、痛む胸を押さえる。
そして、邪な己を激しく恥じた。
こんな良い子たちを相手に体のとある一部分へと点数付けをして、一丁前に評価する己を恥じた。
「じゅ、じゅうはってん……」
押さえつけた痛む胸があまりにも壁すぎて己を恥じた。
「ふ、2人とも、今日は私の奢りよ。成長期なんだから、お金には気にせずお腹いっぱいたくさん食べるのよ」
「おお! ブレア先生かっこいいのだ!」
「わぁ! それなら、私はこれとこれと、あとこれとそれを食べるです! 今日はたくさん戦ったので、お腹すいてていっぱい食べれるです!」
「良い子たちね。おかわりもいいのよ」
「「わーい!!」」
笑みの溢れる賑やかなお疲れさま会。
明日も続く厳しい鍛錬とダンジョン攻略に向けて、3人は存分に英気を養ったのであった。
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