順位戦決勝(新入生の部)
新入生の選抜が終わり、『ドレイク塾』に新入生たちが合流してからしばらくが経った。
その中でも目立っているのはイブとメアリの2人だ。
すでに魔法使いとしてかなりの領域に至っているイブと、継承型神器を持つメアリ。
この2人はすぐにでも個別指導組に合流させるべきだろう。
間違いなくダンジョンを攻略できる逸材だ。
というわけで今日は新入生だけを集めた順位戦を行うことになった。
上級生と分けているのはさすがに実力に差がありすぎるからで、イブやメアリを除けばすでに数ヶ月も『ドレイク塾』で鍛えている上級生には敵わないからな。
ジークたち個別指導組は別格だが、他の生徒たちも一番弱い人でB級魔物を討伐できるくらいには成長しているのだ。
身近に強者ばかりがいるから実感が薄れてしまうが、B級魔物を倒せるっていうのはこの世界においてめちゃくちゃ上澄みの実力者である。
そんなわけで開催された新入生だけの順位戦。
戦士と魔法使い混合、上位2人が個別指導組に合流という条件で開かれた順位戦はこれから決勝が行われる。
上がってきた2人は、イブとメアリ。
そう、初めからこの2人が上がってくると確信があった上で行われたマッチポンプである。
「やあやあ、あたしこそはキャプテン・メアリ! やがて七つの海を制覇して、はるかな世界の最果てを見届ける! 勇気と愛の大海賊、キャプテン・メアリなのだ!!」
向かい合うイブとメアリ。
神器である海賊旗を左手、反った片刃の湾曲剣を右手に。
先んじたメアリは得意気に名乗りを上げた。
久しぶりに聞いたなあの名乗り。
そんなメアリの名乗りに、負けじと声を張り上げるのはもちろんイブである。
「私は『白銀』レヴィ・ドレイクが一番弟子、イブ・リース! 世界で一番強くてかっこいい師匠の名に恥じず、誰が相手でも私は絶対に負けないです!」
「レヴィの弟子だと!? それならあたしは、レヴィの仲間で船長だ! こっちこそ負けないのだ!」
「たとえ相手が師匠のお仲間さんでも、勝たせてもらうです!」
両者が睨み合い、戦いが始まる。
「――『
「む!」
イブが『氷魔法』を放つと、メアリは手に持つ剣と旗を振るって迎撃する。
「こっちの番なのだ!」
「――『氷壁』です!」
メアリが接近しようと踏み出せば、イブは即座に氷の壁を作ることで行手を遮り距離を取った。
「なかなかやるのだ!」
「そっちこそ、思ったよりも強そうです!」
それぞれの手に旗と剣という不思議な組み合わせの武装で戦うメアリに対して、イブは手には何も持たず魔法のみで対峙している。
2人はお互いに一歩も引かず、一進一退の攻防を繰り広げていた。
「ど、どっちが勝ちますかね? 強いのはイブさんだと思うんですけど」
「どうだろうな。たしかに実力で言えばイブの方が上回ってると思うが、メアリだって弱くはないし意外とわからないかもしれないぞ」
隣に立つネロにそう答える。
七竜伯として俺の100倍くらい大活躍をしているネロだが、今日は休みにすると言って授業に顔を出していた。
どうやらメアリの戦いを見てみたかったらしい。
休みといっても、ネロの配下のアンデッドたちは今も王国中で活動しているけどな。
術者であるネロが逐一指示を出さずともアンデッドは消えたりしないし、ちゃんと活動してくれるのである。
例の奴隷商の一件を受けて大々的に動いた陛下の手腕によって、国内の違法行為をしていたり帝国と繋がっていたりした貴族が一斉に検挙された。
帝国との繋がりを持つということは、すなわち反七竜伯的な立場を持っていたということ。
そんな奴らが掃除されたわけだから、ネロのアンデッドは今まで以上に堂々と活動できるようになったらしい。
アンデッドらしさがあまりない可愛らしい見た目でありながら強く、自分たちを守ってくれるネクロラビットなんかは民衆に大人気である。
多分、今七竜伯の人気投票をしたらエレアとネロで人気を二分するだろうな。
まぁ、そんなことより今は2人の戦いか。
「イ、イブさんは杖を使わないんですね? レヴィさんと、おんなじです」
イブの戦いぶりを見て、ネロが首をかしげる。
大多数の魔法使いは魔法の補助具として杖を使うのだが、俺は今まで補助具を使わずに戦ってきた。
そんな俺の弟子であるイブも同じスタイルだ。
杖のような補助具には魔法の指向制御や術式の補正を行う役割があり、それらの工程を短縮できることから魔法の発動速度を早くする効果が見込める。
デメリットとしては、細かい制御や自由な術式構築を行う場合は逆に補正が邪魔になってしまうこと。
だけど動きが速い相手と戦うなら魔法の発動速度は速ければ速いほどいいし、魔法戦を行うにしても先手を打った早撃ちを行った方が優勢を取れる。
つまり、デメリットなんてあってないようなもの。
補助具である杖を使わないイブを見て、ネロが首をかしげるのも当然の話だ。
「俺が使わないからって、自分も使わないって言ってな」
「そ、そうなんですね。でも、杖は使った方がいいんじゃないですか? レヴィさんは、さすがに例外です」
「それに関しては問題ないさ。杖を持たない意味はちゃんとある。俺だって持たない方が自分に合ってると思ったから、杖を使ってないわけだからな」
杖を持つメリットは魔法の発動速度が早くなること。
だけど俺の場合は魔道具を使った鍛錬によって魔力操作と魔力制御という基礎技術を極限まで磨いたから、杖を持っても持たなくても魔法発動速度はそんなに変わらない。
だから補助具の杖は使う意味はない。
それに、杖を持たないことによる大きなメリットがあるのだ。
「補助具がない方が、
俺は突発的な思いつきで新しく魔法を作ったり、再編魔法で術式を好き勝手にこねくり回したりしているが、補助具があると逆にそんな自由なことはできない。
補助具を持たないゆえの自由度。
俺が杖を使わない理由は、その一点がすべてだ。
まぁ、闘気を使った近接戦をするにあたり杖が邪魔で、素手の方がやりやすいという面もあるけど。
でも一般的には補助具を使う魔法使いがほとんどかな。
別に補助具を使わないから優れているという話でもなく、実際に人類最強格の魔法使いであるネロやフロプトも杖を使う。
というか多分、俺みたいに戦闘中に魔法を開発するやつなんて他にあまりいないし。
術式に粗があっても魔力量のゴリ押しでなんとでもできる俺だから、そんな変なことをやってるだけだ。
再編魔法だって俺のオリジナルの技法で、魔法技術の一つとして周知されているわけではないからな。
となると、普通は補助具を使った方が良いという結論になるのだ。
そんな事情がある中で、イブは補助具の杖を使わない。
最初は俺の真似から始まったその戦闘スタイルだが、今となってはすでにそのスタイルを自分のものとしている。
つまり、イブには使えるのだ。
「
イブの魔力の高まりが、一進一退に続いていた攻防へと変化を投げかけた。
空中に浮かび上がる10の氷の槍が砕け散る。
すべての槍は塵となり、光を乱反射して輝く氷片へと。
イブの振るう手の動きに合わせてそれは動き出す。
その標的は目の前に立つメアリ。
小さく鋭い氷の刃が、大きく結集する群れとなり――そして一斉に襲いかかった。
「――『
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