新入生
帝国について、今の俺にできることはない。
いざ戦いとなって召集された際に魔族をぶっ飛ばしていけばいいだけで、それは今までと変わらないことだ。
なので俺は俺でやるべきことをやるのみ。
具体的に言うと、学園でジークたちを成長させるための指導である。
そんな毎日を続けていれば時は経つ。
気づけば、俺がこの学園にやってきて1年――新入生の入学の日を迎えることとなった。
「さすがに去年と比べると少ないな」
「あはは、あんなことがありましたし。しょうがないですよね……」
「復興は進んで、以前と変わらないくらい街は元通りになったんだがな。まぁ、人は減ったが」
入学式に教師の1人として列席する俺とメリーネ。
話題は当然、目の前の入学式のことだ。
見た感じ新入生の人数は、去年の俺たちの入学式と比べて半分近くにまで減っている。
これは間違いなく魔族の襲撃による影響だろう。
学園に入学するのが既定路線である王国の貴族でも、今年は拒否する家があったとか。
もともと少なかった平民の入学者だって当然減った。
でもこればっかりは仕方がないことだ。
学園側としては甘んじて受け入れるしかない。
「あ、レヴィさま! 首席入学者の新入生総代挨拶が始まるみたいですよ! 去年のレヴィさまがやったやつです!」
「今年はどんなやつが首席入学なんだろうな」
新入生の名簿などはとくに見ていないので、首席入学者については名前すら聞いたことはない。
ただ噂では、魔法使いとして相当な実力があるとか。
魔族との決戦が近づいてるのだから強いやつはどれだけいてもいいので、優秀なら俺の授業を受けてもらいたいところだ。
首席に限らずだけどな。
そんな風にメリーネと話している中、新入生総代となった生徒が壇上に上がる。
――俺はそれを見て、我が目を疑った。
「! レヴィさま、あの娘って!」
「…………これは予想外だったな。だけど、あいつが入学するなら首席くらいは取るか」
壇上に上がった生徒を見て驚くメリーネ。
俺もまた、その見覚えのある少女を見て驚いた。
桃色の長い髪と、同じ色の目。
学園に通うにはいささか幼い姿をした少女は、壇上に上がってからきょろきょろと会場の中を見渡す。
やがて俺と目が合うと、パッと表情を明るくして目をキラキラと輝かせた。
俺を見つけて気が済んだのか、少女は会場を見渡すのをやめて口を開いた。
「新入生総代、イブ・リース! 私たちは――」
新入生にとって初日となる今日は新入生以外の全生徒は休みとなっている。
なので俺とメリーネは授業をする必要はない。
俺の借りている寮へと帰ると、すぐにエルヴィンを使いに出してイブを呼んできてもらうことにした。
「師匠! 来ちゃいました!」
「来ちゃいましたって……軽いなあ」
開口一番、笑顔で元気よく言ってくるイブに苦笑する。
「学園に来るなら言ってくれよ」
「サプライズです! 驚きましたですか!」
「そりゃあな」
「やった! サプライズ成功です!」
それにしても、まさかイブが学園に来るとは。
年齢がまだ12歳と学園に入学するにしてはまだ幼いから来るとは思わなかった。
だけど学園に入学する際に年齢に関する規定はない。
一応、一般的に15歳で入学するものと王国内では捉えられているが、別にそれ以下でもそれ以上でも試験に合格することができるのなら問題なく入学できる。
実際、メリーネは17歳で入学したしな。
さすがにイブくらいだと幼すぎるが。
でも魔法使いとしての実力は間違いないし、頭も悪くないから勉強だってやればできる。
試験は問題なく合格して、主席まで獲得してきているんだからさすがであった。
「これからは、師匠とずっと一緒にいれるです! 結婚もします!」
「レヴィさま……?」
メリーネにジトっとした目で見られて、俺は冷や汗を流した。
イブはこう言っているが結婚する気はマジでないのだ。
俺が結婚するのはメリーネだけだから、本当に。
信じてほしい。
というか、イブもそろそろ諦めてくれ。
メリーネと婚約しているってことはちゃんと伝えてるし、子どもの言ってることだからそのうち言わなくなるだろうと考えているのだが。
「あ、私は側室でいいです! メリーネさんが正妻、私が側室! それで問題なくいけるはずです!」
「いや、問題しかないから」
俺はため息を吐いた。
「まぁ、何にせよだ。驚いたが、学園に来たことについてとやかく言うつもりはない。入学おめでとう。首席をとったのも、よくやったな」
「さすが、イブちゃんです! 個人的に言いたいことはすご〜くありますけど、入学おめでとうございますっ!」
「えへ、頑張りましたです!」
俺とメリーネが言うと、イブは嬉しそうに笑った。
「ところで、師匠の授業はいつから受けられるですか?」
「数日後、だな。新入生はこれから授業選択があるから、そこで俺の授業を選んでくれればいい。初日に選抜を行って、それに合格すれば授業を受けられるようになる」
「選抜、ですか?」
その言葉に不安そうにするイブだが、彼女なら余裕で選抜に合格するだろう。
試験で行うのは『魔力負荷』と『重量付加』の魔道具に耐えられるかというもの。
合否についての心配なんて、普段から3段階目の『魔力負荷』を使っていてすでに魔力圧縮までこなしているイブにとっては無用だ。
まあ、試験内容は言えないんだけどさ。
一応公平にね。
「イブなら問題なく合格できるさ」
「が、がんばるです……!」
胸の前で手をぐっと握ってやる気を見せるイブ。
そんな彼女を微笑ましく眺めていると、メリーネがぽつりと呟いた。
「やっぱり、レヴィさまはちっちゃい子にやたらと優しいんですよね。わたしも、何とかしてもっとちっちゃくなれたらいいんですけど。どうにか、女神さまに頼んでみたりすれば……レヴィさまも、その方がいいですよね?」
「メリーネ、俺が悪かったから。それはもうやめてくれ」
ちろっと舌を出して「冗談ですっ」といたずらっぽく笑うメリーネ。
俺はがくりと肩を落としてため息を吐いた。
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