竜王女様のカチコミな1日 前編
店の裏手から入り中を探索する。
「――え、誰?」
「悪いが少し寝てろ」
中に入ってすぐに1人の男と遭遇するが、距離が近かったこともあり俺はすぐに殴って気絶させた。
「こいつも人さらいか奴隷商の従業員か?」
「人相悪いし、そうじゃない? 一応表の店舗はまともみたいだけど、この顔でそっちで働くのは無理よ」
「ひどい言い草だ」
「あ、レヴィも悪そうな顔してるよね! 怖い系じゃなくて、かっこいい系だけど」
そりゃあ、こちとらゲームの悪役だし。
というかそんな話はいいんだ。
俺は気を取りなおしてあたりを見回す。
その部屋はどうやら倉庫になっているようだった。
怪しい物品などがあるわけではなく、表の店舗で売られているであろう商品が整頓されて置かれている。
一見すると普通の店にあるいたって普通の倉庫だ。
これはたしかに、見事なカモフラージュだな。
たしか、人さらいの男の話では地下があるという話だったが――
「地下へ続くような階段とかはとくに見当たらないな」
「そうね。隠し扉とかがあるのかなあ」
隠し扉か。
あらかた探索して、それでも見当たらないとなるとその可能性はそれなりにあるだろう。
そもそも人さらいの男が嘘を吐いた可能性もあるが、門番やさっき気絶させた悪い顔をした男の存在から、この店に何かあるというのは間違いない。
嘘の情報を教えられたわけではないと思うんだがな。
あいつの怯えきった様子からして、俺たちを騙す胆力なんてないだろうし。
「地下に行くのに条件があるなら最初から教えてくれればよかったのに。あの男、気が利かないのよ」
エレアが愚痴る。
まったくその通りであった。
「何か手掛かりとかあればいいがな」
「ここまで来て痛感したけど、私たちってこういうの本当に向いてないね。単純な戦いだったら話が早くて楽なのに」
「七竜伯といえど、潜入も調査もその道の専門家にはとうてい叶わないみたいだな。当然の話だけど」
さて、どうしたものか。
地下へと続く階段を見つけられるのならいいが、このまま探索を続けて見つからなかったら困る。
探索に時間がかかればかかるほど、俺たちの存在がバレてしまう可能性が上がるしな。
ゲームじゃないんだし、この店の中にヒントが隠されているなんて都合の良いこともありえない。
「エレア、一旦引くか? あの人さらいに地下への入り方を聞きに戻った方がいいだろ」
「だね。ここにいても何も解決しなさそうだし」
俺の提案にエレアは頷く。
そうと決まればさっさと戻ろうか。
俺たちが店を出て行こうとした――そのとき。
ズズ、という音が部屋に響く。
その音に反応してバッと振り返った俺の視界に飛び込んできたのは、何もなかったはずの壁が割れるように開いていく瞬間。
そしてその向こうに見える階段と1人の男。
「え?」
「は?」
目があって、同時に固まる
それからすぐ、ハッとした様子で口を開こうとする男に対して、俺は床を蹴った。
「て、敵し――ぐべら!?」
大声を出して騒ぎ立てようとした男を気絶させる。
「……危なかった」
「急に出てくるなんて予想外よね。完全に意識の外だったよ。レヴィはよく叫ばれる前に対応したわ。すごいのよ」
「たまたま間に合っただけだ」
エレアの言う通り本当に予想外だったけど、大騒ぎされる前にとっさに制圧できてよかった。
「まあでも、これで地下に行く隠し通路は見つかったな」
ずいぶんと都合が良いタイミングだったが、この場に留まっていればこういったことが起きるのも当然か。
……いや、むしろ都合は悪いのか。
男が騒ぐより早く気絶させるのが間に合ったから、結果的に良かっただけだ。
こんな偶発的な遭遇で存在がバレてしまっては、すべてが台無しになっていた可能性だって高かった。
「戻る必要もなくなったし、行くか」
「そうね!」
改めて気合を入れるエレアと共に階段を降りていく。
まず最初に着いたのは大きな部屋。
高級感のある絨毯が敷かれ、絵画や壺などの調度品が綺麗に飾られた部屋だった。
さながらエントランスといったところか。
貴族の屋敷を思わせるようなこの部屋から、奴隷商の儲かりようを察せられて嫌になるな。
「扉が2つか」
「ここまで来ればいつ気づかれてもおかしくないし、速さ重視で行くのはどう? バレても問題ないくらい、奴隷商を逃さず速攻で捕まえてやるのよ!」
「なら手分けするか。俺はあっちの扉に行こう」
「じゃあ、私はこっちね!」
というわけで、ここからは別行動だ。
捕まってる人がいれば助け、奴隷商やそれに関わる人間がいたら捕らえて、脱出用の抜け道に当たったなら何人も逃さないように陣取ってやればいい。
俺は2つある扉のうち、片方を開いた。
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