竜王女様の名案な1日
「ぐあああああああ!!!!!」
瞬間、絶叫が響く。
どうやら俺が即興で作り上げた魔法――『ソウルノック』は期待通りの効果を発揮し、肉体を傷つけることなく人さらいに苦痛を与えたらしい。
それを見たエレアが尋ねてくる。
「レヴィ、新しい魔法を作ったの?」
「ああ。前にネロが使っていた魔法が拷問に使えそうだと思ってな。原型の魔法があったから、それほど難しいことじゃないと思うけどな」
「そんなことないわ! 『死霊魔法』を他の魔法適性で再現するなんて、とっても難しいはずよ! さすがはレヴィね!」
そんなふうに呑気に話していると、『ソウルノック』を食らったのとは別のもう1人の人さらいが、真っ青な顔をして声を上げた。
「――お、おおおおい! な、なななな何を、何をしやがったんだ!? こいつがこれほど苦しむなんて、尋常じゃねえ!!!!」
「わざわざ聞かなくても、すぐにお前も体験できるぞ」
絶叫を上げて苦しむ仲間を見てもう1人の男が焦った様子で問いかけてくるが、俺は構わずに右手をその男へと向けてやる。
「ひ、ひいいいいいい!!!!!!」
ぶるぶると震えてもがく人さらいの男。
こんなに怯えられると、何だか俺が悪いことしたみたいで嫌だな。
でも根本的に悪いのはこいつらだし。
むしろ、肉体的にダメージを与えない『ソウルノック』を使って口を割らせようとしている俺は優しいはずだ。
痛いだけで死ぬことはないわけだし。
死なないのであればどれほど痛くても問題ないでしょ。
「さて、手っ取り早く済ませよう。『ソウルノ――」
「ま、待て待て待て待て待て!!! 話す、話すからやめてくれええええ!!!!」
「……まだ何もしてないのに」
「根性がないのね。話してくれるならそれで良いけど」
あまりにも簡単に口を割る男に俺たちは揃って呆れるが、話してくれるというのであればそれでいい。
俺とエレアは男から根掘り葉掘り聞き出すことにした。
「……違法奴隷か」
「お父さまのお膝元である王都で、そんなことをしている悪い人がいるのね。気分悪いなあ」
エレアが不機嫌そうにむっとする。
人さらいから話を聞いたところ、さらった人間を奴隷商に引き渡すことでこれまで金銭を得ていたそうだ。
人さらい、違法奴隷、人身売買。
そもそもエレイン王国では奴隷が禁止されているし、他の2つも当然許されることではない。
何もかも犯罪行為だ。
こんなことをよりにもよって国の中心である王都でやっているなんて、とんでもないことである。
「どうする?」
エレアに問いかけると、彼女は決然と言い放つ。
「もちろん、ぶっ潰すよ!」
「だよな。俺も行こう」
知った以上、放置なんてできない。
これ以上の被害者を増やさないためにも、さっさと根本から排除するべきだ。
「あ、あの。当然、俺のことは見逃してくれるんですよね……?」
と、そこで情報をペラペラと話してくれた人さらいの男が不安気に俺たちへと問いかける。
エレアは呆れたようにため息を吐いて答えた。
「現行犯なんだから見逃すわけないでしょ。情報提供者として少しは罪が軽減されるかもしれないけど、しっかりと罰は受けてもらうよ」
「そ、そんなあ」
がっくりとうなだれる男だが、無罪放免になんてなるわけがないだろうに。
自業自得だ。
俺とエレアは、人さらいから聞き出した奴隷商の拠点へとやってきていた。
それは商家などが立ち並ぶ街の一角にあった。
食材などを取り扱っている店でとくに不自然な点は見当たらない。
しかし人さらいの話ではこれはカモフラージュだという話だ。
店の裏手から入ると地下に繋がっており、そこでさらった人の受け渡しを行っているらしい。
ことが済むまで邪魔だから、ということで人さらいの2人をグルグルに縛って放置してきた俺たちは店の裏手に回る。
「人が立ってるな」
「武装しているようだし、きっと門番ね。あんなところに立っていたら何かあると言っているようなものだよ」
剣を腰に下げた門番の男。
鎧などは着ていないが、ガラの悪い人相と物々しい剣を持っていることから怪しさ満点である。
表の店舗側は見事にカモフラージュできていたのに、こっちはわりかし雑なんだな。
門番の近づきがたい出立ちからして普通の人は怖がるだろうから、これで良いのかもしれないけど。
「突っ込むか? あまり強そうには見えないし、問題なく制圧できるだろ」
「そうだね。というか、私たち2人で制圧できない相手なんていないのよ」
「そりゃそうか。だが、職務には忠実みたいだな」
俺とエレアは門番には声が聞こえないほどの距離にいるのだが、門番は用心深く俺たちへと視線を向けている。
こうなってくると、意外と難しい。
ここで門番を倒すのは簡単だが、ただ倒すだけではダメだからだ。
騒がれたら店の中にいる奴らに勘付かれるだろうし、逃げられるかもしれない。
そうでなくとも、店の中にいるであろう被害者たちを人質に取られたりしたら面倒だ。
気づかれないままに接近して、有無を言わせる間もなく気絶させるなりして無力化する必要がある。
「かなり警戒されてるみたいだし、真正面から行ったら確実に中に知らされるよな。どうする?」
「私に名案があるのよ!」
自信満々に胸を張るエレア。
何を考えているのかわからないが、明暗があるというならそれに乗っかるべきかな。
エレアが変なミスをするとは思えないし。
「よし。ならエレアの案で行くか。どんな案なんだ?」
「簡単だよ! レヴィ、ちゃんと合わせてね!」
そう言って、エレアは突然俺腕に抱きついてくる。
「お、おい、エレア?」
「合わせてって! 堂々としてるだけでいいから!」
「……わかった」
何が何やらだが、仕方がないので頷く。
俺の返答に満足気に笑うエレアは、俺の腕に自分の腕を組ませると店の方へと歩き出す。
「やだもー! ダーリンったら、私のこと好きすぎよ!」
「な、なんて?」
「……合わせてって言ったのよ」
「あ、うん」
急に茶番を始めたエレアに呆気に取られるが、小さな声で指摘されて我に返る。
これが名案なのかと疑問に思いながらも、始めてしまった以上は仕方ないのでとりあえず付き合うことにした。
「ま、まあ。好きか嫌いかで言ったら好きだぞ」
友人として。
「もー! 照れ屋さんなんだから! でも、そんなところがいいのよ!」
「て、照れ屋……?」
そんなふうに茶番をしながら店の裏手へ向かって歩いて行き、ついに門番へと近づいていく。
「ケッ、なんだよバカップルかよ。見せつけやがってうぜえな。破局しろや」
門番が、イラついたように言って唾を吐く。
え、それだけ?
さっきまでの警戒どこに行ったんだ。
まさか、本当に通りすがりのカップルで警戒する必要のないバカとでも思われているのだろうか。
……思われてるんだろうな。
門番としてそれなりに仕事ができるようだけど、そうは言っても所詮はゴロツキなのだろう。
俺たちを何の力もないただの一般人と判断すれば、呆気なく警戒をやめてしまったのだ。
そうして、状況はあっという間に進んでいく。
門番の目の前を通るその瞬間、エレアの手がふっとぶれた。
――どさり。
突然、崩れ落ちる門番の男。
それは、恐ろしく速い手刀であった。
エレアの手刀によって頭を揺らされた門番は、なすすべもなく一瞬のうちに意識を落としたのだ。
門番ではとても反応ができない速度であった。
俺もギリギリ見えただけ。危うく見逃してしまうところであった。
「これでよし!」
門番を気絶させたエレアは、組んでいた腕を外す。
「……今の茶番本当に必要だったのか?」
「細かいことは気にしなくていいのよ! さあ、突撃するよ!」
何はともあれ、門番は無事制圧できた。
俺たちは、奴隷商の拠点である店へと裏手から飛び込んだ。
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