まだまだ余裕じゃ!
「ほう。レヴィとメリーネはこれを使って鍛えることで、今の強さにまで至ったのじゃな」
「ああ。すでに強い七竜伯にどこまで効果があるかはわからないが」
「聞いていた感じ、過剰な負荷をかけることで成長を先取りするような代物じゃな」
俺は王都にある王城へとやってきていた。
目的は『魔力負荷』と『重量付加』の魔道具をエレアに届けるためだ。
ジークたちを鍛えるのが先決だが、七竜伯にも渡すことで少しでも強化ができればという算段である。
「人間の力には限界がある。魔力しかり、身体能力しかり。その限界点を突破して、人間の限界を超えたステージに至らせるのが女神様の授ける神器の役目というもの」
エレアの言葉に同意して頷く。
「その通りだな。だから、すでに限界近くまで鍛えられている七竜伯にどの程度効果があるかわからない」
俺は神器の効果によって人間の限界を超える魔力量を得るに至った。
現在は宮廷魔法使いの平均の4000倍くらいの魔力量でまだ伸びる感じがあるが、普通の魔法使いはどれだけ鍛えてもこの1割にも満たない魔力しか持てない。
そこが、人間の限界だからだ。
メリーネもそうだ。
あいつの身体能力は七竜伯と比較しても突出していて、それ以上となるとおそらく目の前にいるエレアだけ。
しかし、すでに身体能力の成長はかなり鈍化している。
まったく伸びないわけではないが、魔道具の重量を増やしても効果は微々たるものになってきていた。
まぁ、最近のメリーネは『
きっとまだまだ強くなるだろう。
わかりやすくゲーム的に例えると、限界というのは最大レベルや各能力の最大値。
レベル100、ステータス9999。
それが最大だとして、それを超えて強くなるには各種スキルや装備――神器の力が必要になる。
そういう考え方だ。
「まぁ、ないよりは良いじゃろ。まだ若いユーディとかはとくに伸び代があるしの」
「……エレアが言うと変な感じだな」
「ふふふ。わらわが一番若いから、まだまだ伸び代があるかもしれんの」
エレアは機嫌良さそうに笑う。
ゲームでもこの世界でも、人類最強の名を背負っているエレアがさらに強くなったらとんでもないことだ。
実際、年齢を考えれば伸び代はありそうだし。
だけど、年齢というのは強さにおいて重要な基準だ。
あたりまえの話として年齢を重ねれば重ねるほど鍛えた時間が増えるわけで、その分強くなれる。
俺やメリーネがここまで強くなれたのは、魔道具による鍛錬でその成長を先取りしたからだ。
七竜伯にしてもエレアと俺を除いて、若いと言える年頃なのはユーディとネロくらいなもの。
ユーディは24で、ネロも骨になったり女になったりと紆余曲折あるが実年齢は同じくらいだろう。
他はスターが30代後半。
比類無い剣の天才であるロータスですら、七竜伯に初めて就任したのは30とかだったはず。
フロプトは1000歳を超えている。
いなくなった七竜伯では聖女は60近く、マックスの就任時期はおそらく30代。
不滅は100年以上生きている。
総じて、七竜伯クラスの強さに至るのは才能ある者が30歳くらいまで必死に鍛えてやっとという感じか。
だからエレアは例外として、今の七竜伯でもっとも伸び代があるのはおそらくユーディだ。
あいつの神器を考えると『重量付加』の魔道具と相性が良さそうだし。かなり期待できそうである。
「せっかくじゃし、わらわが試してみてもよいか?」
「ああ。ほら、これだ」
エレアに『重量付加』の魔道具を渡す。
彼女は魔法使いではなく、闘気を使う戦士なのでこっちだ。
渡したのは最大強度が1トンのもの。
メリーネが最初に作ってもらって、先日ジークたちに渡したものと同じだ。
エレアは魔道具を装着すると、何の躊躇いもなく最大重量の1トンで起動した。
「お、おお?! なるほどの、こんな感じか!」
「余裕そうだな」
「まぁ、わらわは『竜王女』だからの!」
そう言って、エレアは円卓の間を動き回る。
ぴょんぴょんと飛び跳ねたり、腕立て伏せやスクワットをしてみたり。
その動きは軽快で重さをまるで感じさせない。
さすがは人類最強と言うべきか、1トンの重り程度では何の障害にもならないようだ。
「ふう。こんなものじゃな。なかなか新鮮な体験だったぞ!」
「……いきなり最大の1トンなんて、普通だったら血反吐を吐きそうなものなんだがな」
「まだまだ余裕じゃ!」
楽しげな様子のエレアから魔道具を返してもらう。
それから彼女は何を思ったのか、俺の腕を掴んでぐいっと引っ張った。
「エレア?」
「レヴィ、わらわは決めた! これから、この魔道具を作った職人に会いに行くのじゃ! それで10トンまで設定できる魔道具を作ってもらう!」
「は!? そんな急に城を出ていいのか!?」
「良いわけないじゃろ! わらわも一応は王女だし、王都の守りを任されているから外出には許可がいるのじゃ!」
「じゃあダメだろ!」
「案ずるな! 王都の守りは別に王城にいなくとも街中であれば問題なくできるし、外出したことは陛下にさえバレなければいいのじゃ!」
俺の腕をぐいぐいと引っ張っていたエレアは、くるりと振り返った。
その顔に浮かべるのはいつもの余裕や威厳を感じさせる表情ではなく、年齢相応の少女らしい満面の笑み。
「お忍びだよ! 行こ、レヴィ!」
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