1年後に備えて
「まぁ、こうなるよな」
「スラミィの勝ち〜!」
フェンリルに変身したスラミィの分身と戦ったジークたちは、全員がそろってボロ雑巾のようになって地面に転がっていた。
死屍累々である。
「こ、これがSS級魔物の強さなのね。騎士団にいた頃でもこれほど強い相手と戦ったことはなかったわ」
「……このレベルの魔物が出たら、七竜伯が出動するからね。というか、そもそも実際に出たなんて話今まで聞いたことないし」
ブレア先生とターナ先生が床に寝そべりながらそんな話をしている。
騎士団や宮廷魔法使いが相手するのはせいぜいA級魔物までで、超ごく稀にS級って感じだからな。
SS級魔物自体めちゃくちゃ希少なので、戦う場面はほぼありえない。
C級魔物で小さな村を滅ぼせるくらいの力なのだから、SS級魔物ともなると国家滅亡クラスの最悪のシナリオだ。
そんなのが頻繁に出てきたら人類はとっくの昔に滅んでいるわけで、表舞台に出てくることなんておそらく数百年に一度だろう。
「だが、みんなにはこれくらいの魔物を倒せるようになってほしい。8人いるから、4人ずつに別れてダンジョンを攻略してもらうつもりだ」
「4人がかりで倒せばいいのか。……僕らは8人でこのザマだけど」
「クライ、そう悲観するな。今はまだ勝てなくて当然だ。目標となるSS級魔物の強さを知り、自分たちの現状がどれほどなのかわかったのならば、あとは鍛えるだけだ」
「やることは変わらないってことだね! 今まで通りめちゃくちゃ頑張って、鍛えればいいってさ!」
ジークの言う通りだ。
今回戦ってもらったのは目標を正しく認識してもらうためであり、強くなるという指針が変わることではない。
「SS級魔物は魔族の強さに換算すると、伯爵級と同等だ。さらに上に侯爵級と公爵級がいるが、お前たちには侯爵級を倒せるくらいにはなってもらいたい」
「遠い道のりでげすなぁ……」
この8人の中で一番弱いのはドークだ。
彼にとっては本当に遠く険しい道のりに見えるだろう。だけど素質はあると思うから頑張ってほしい。
せっかく良い魔法使えるんだから。
「あと、ジークは今後2つの魔道具を同時に使って鍛えるようにしてくれ。魔法と体、お前は両方とも鍛えなきゃならないから効率的に行こう。もう慣れただろ?」
「え゙」
絶望した顔で、まるで潰れたカエルのような呻き声を漏らすジーク。
2つの魔道具で、体と魔力に同時に負荷がかかるのはさぞ辛かろう。
だけどジークなら乗り越えられるはずだ。
主人公だし。それで強くなって魔王を倒してくれ。
「い、いや待ってよレヴィ。さすがにちょっと、加減してほしいというか……」
「いいな、いいなぁ! メルナにも魔力があればなぁ! ジークくんが羨ましいなぁ! 痛くてつらくて苦しくて、とっても素敵だなぁ!」
「……元気だなこいつ」
地べたに寝そべりながらも、涎を垂らしながら熱のある目でジークを見つめるメルナ。
タンクのような役割を自らかって出て、フェンリルにおもちゃのようにズタボロにされたというのに一番元気だ。
ドMってすごい。本当に。
「さて、ダンジョンを攻略して神器を得るには、このレベルの魔物を倒せる力が必要になるわけだ。これで目標を達成するための壁は把握したな」
俺が言うと、全員が頷く。
「授業外になるこの個別指導では、ひとまずは全員がダンジョンを攻略するまで鍛えることとする。目安は半年ほどだ。それ以内に仕上げる」
「は、半年とは、短いでげすね……」
「短いかもしれんが、それでもだ」
ゲームで魔王との戦いが発生するのはまだ先の話だが、この世界でもそうとは限らない。
というかあまりゲームのシナリオは当てにならないだろう。
なにせゲームの知識を得た魔族であるオールヴァンスがいたんだ。
あいつ自体は討伐したが、魔王への助言や魔族全体の動きへの干渉などをしていないわけがない。
俺が仮にあいつの立場だったら魔族を強化して、人類との戦いに魔王が勝利するよう布石を事前に打っておく。
だから、今からそれを想定しておかなければならない。
向こうがどんな手を打ってくるかわからない以上、こっちからできることはやれるだけやらなければ負ける。
将来有力な戦力となるであろうこいつらを仕上げるのは、何よりも優先される事項だ。
現在、魔王が封印されているのには理由がある。
それを考えると、どんな細工をしたところで今すぐに復活というわけにはいかないはず。
だが復活する時期がゲームよりも早まる可能性は高い。
だから――1年後。
それが魔族との決戦の時期だと想定して人類の戦力を整える。
「まずは、魔法使い組は『並行詠唱』。戦士組は『闘気解放』。どちらもダンジョンを攻略するには必要な技術だから、この習得を目指す」
異なる魔法を同時に発動する『並行詠唱』と、普段は体内を巡る闘気を体外に鎧のようにまとう『闘気解放』。
どちらも超高度な技術。
でも俺とメリーネはダンジョン攻略の最終盤には使えていた技術だ。
これが使えれば一気に楽になる。
「やるぞ、お前ら」
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