張り切って逝ってくれ

「よく集まってくれたな」


 放課後になると、授業の中で成績上位8名となった者たちが授業で使っている演習場に集まった。


「まず、これを渡しておく」


 俺は『影収納』から魔道具を取り出す。

 彼らが使っている量産型のものではなく、俺とメリーネが最初にミストに作ってもらったものと同じ物だ。


 『魔力負荷』の魔道具は強度が弱から超強までの4段階。

 『重量付加』の魔道具は最大重量が1トン。

 どちらも量産型より性能が良いオリジナルと言える鍛錬用魔道具だ。

 このために人数分を新しくミストに作ってもらった。


「ど、どこから出したの。今のって『空間魔法』? でも、レヴィくんの魔法適性は違うし……」


「ターナ先生、レヴィさんの魔法については考えるだけ無駄ですわ。いちいち驚いていたら身が持ちませんもの」


 ひどい言い草である。

 まぁ、『影収納』について説明する必要も意味もないのでアネットの言う通りスルーして欲しい。

 見た目通りの魔法で、それ以外に言うことないし。


「これはみんなに渡している魔道具の強化版――というよりも、通常版だな。3段階の『魔力負荷』も最大500キロの『重量付加』も、効果を落とした量産型だ」


「え!? これよりもいいものがあったんですかぁ!? うへへへぇ! いったい、それはどれほどの重量に……じゅるり」


「『魔力負荷』は4段階目の超強、『重量付加』は1トンだ」


「――1トン!!! まだまだ楽しめるんだぁ! 最高だよぉ! もっともっと体をいじめて良いなんてぇ、うへへへへ! レヴィさんの鬼畜ぅ! 嬉しいなぁ!」


「……俺は別に鬼畜じゃないし」


 こいつやばいよ。

 いきなりエキサイトし始めたメルナから、全員が一歩距離を取った。


「なんでみんなメルナから離れるのぉ!? はっ! もしかして、そういうプレイ!? メルナ、精神的にいじめられるのも大好きだよぉ! みんな鬼畜で素敵!」


 おい、誰かこいつをなんとかしてくれ。

 頬を赤らめて「ハアハア」と興奮気味に息を漏らすメルナに、俺は頭を抱えた。


「……とりあえず、メルナは置いておく」


「――はぅあ!? 放置プレイ!? レヴィさんの鬼畜っぷりがとどまることを知らないよぉ! でも、好きぃ!」


「もういい。スラミィ、黙らせてくれ」


「りょうか〜い!」


 スラミィの手元に剣が出現し、それを振ると大きな鎖がいくつも出現してメルナを縛り上げた。

 この鎖はフェンリルの能力だな。


 全身を鎖でがんじがらめにされ、口にも鎖を咬まされたメルナはもう余計なことは喋れまい。

 ……鎖で拘束されたというのに、より興奮しているように見えるけどもう知らない。


 救い用のない変態が黙ったことで、この場の全員がほっと息を吐く中俺は説明を再開する。


「こほん。みんなには、これからこっちの魔道具で鍛錬を続けてもらおうと思う。こっちは量産型とは違って、前まで俺とメリーネが使っていたものと同じ効果だ。俺たちはこの魔道具で鍛えて、ダンジョンを攻略するほどの強さを手に入れた」


「ダンジョン攻略……!」


「じゃ、じゃあ。あっしもこの魔道具を使っていれば、いつかは兄貴みたいになれるでげすか!?」


「それは努力次第だ。あと、兄貴って呼ぶな」


 なぜか兄貴と呼んでくるドークだが、こいつはなんで俺を兄貴なんて呼ぼうとするのか。

 この世界はゲームとは違うし、俺こいつに兄貴とか呼ばれるようなことをした覚えないのに。


「ジーク、学園都市のダンジョンはどの階層まで攻略した?」


「この間、やっと第5階層を攻略したところだよ。魔道具の制限は解除しちゃったけどね」


 第5階層か。

 アルマダのダンジョンではボスとしてS級魔物であるラビット・グローが出現した階層だ。

 第5階層のボスは、ラビット・グローがそうであったようにS級魔物でも最強格の魔物が現れる。


 それを考えるとジークたちはもうかなり強いな。

 最初に会った頃は1番強いエミリーでA級魔物と互角くらいの強さだったことを考えるとかなり成長している。


 ジークたちがダンジョンを完全攻略するまで、後は第6階層を残すのみ。

 第6階層はS級魔物ラッシュで、SS級魔物がボスを務める超難関の階層。

 一筋縄とはいかないだろうが、おそらく半年以内には攻略できるだろう。


「良い調子だな。そのまま最後まで攻略してくれ――ダンジョンを攻略することで神器が手に入るからな」


「神器……?」


 俺の言葉にみんな揃って首をかしげる。

 神器の存在はおおやけにはされていないので、基本的に持ち主以外でその存在を知っている者はいない。


 神器を持つ本人以外で知っているのは、国の上層の一部かあるいは神気持ちの身内か。

 クライが知らなそうな様子なのは、ロータスが家族にも言っていないからだろうな。

 上昇志向の強い奴が神器の存在を知ったら無茶をしてダンジョンに突撃して死ぬだけだし、クライとか性格的にまさにそれだ。


 だけど俺はここにいる全員に神器の存在を周知する。

 魔族との決戦で戦力として期待しているこいつらには、絶対に獲得してほしい力だ。


 俺は右手に着けている手袋を外し、腕を捲ることで白銀の義腕をみんなに見せる。


「これが神器だ。俺のは義腕になっているが、神器の形は人それぞれで違う」


「わたしのは剣ですよっ!」


 メリーネが黄金の剣を出現させる。

 俺の神器よりもメリーネの神器の方がぱっと見で強そうだし、わかりやすいな。


「神器には強力な力が宿る。この世界に存在する人類の頂点――七竜伯はもれなく持ってる力だ。神器の有無で、人間の強さのステージは大きく変わる。高位の魔族に勝つには必須の力だと思ってくれ」


「その神器がレヴィたちの強さの理由……?」


「いや、神器持ちは神器がなくても強いぞ。神器を持っているから強いのではなく、強いから神器を持っている。順序が違う」


 疑問を浮かべるジークに首を振って答える。


「神器を手に入れる方法はただ一つ。ダンジョン――女神の試練を攻略し、女神との謁見を成功させること」


「ダンジョンが、女神様の試練なのですか? それに、女神様との謁見なんて……」


「女神と会えるなんて言われて、信じられないのも無理はない。だが、一つだけたしかなことはダンジョンを完全攻略することで、神器を手にできるという事実。これだけは信じてくれないと話にならない」


 きっぱりと言い放つ。

 まぁ疑う者はあまりいないと思う。実際に俺とメリーネが神器を見せてやったし。

 どっちかというと、疑問よりも七竜伯の強さに迫る興味の方が勝つのが普通だろう。


「ここにいる8人なら、ダンジョンを攻略し神器を手に入れることができると俺は考えている。だが、ダンジョン攻略は並大抵の話ではない。最終階層の最奥に待ち受けるのは、SS級魔物だからな」


「うーん。SS級魔物なんて、どれだけ強いか想像もつかないよ。S級魔物だってめちゃくちゃ強いんだから」


「エミリーの疑問はもっともだな。だから、今日は体験してもらおうと思って」


「た、体験?」


「ああ、スラミィ。頼んだ」


「はいは〜い!」


 新しい剣を作り出したスラミィが、それを一振りすると彼女の隣にもう1人のスラミィが現れる。


「ぶ、分身した」


「スラミィちゃんって、何者なんだろ……」


 みんな驚いている様子だが、本題はここからだ。

 分身体のスラミィの姿が青いゲル状に変化すると、みるみると大きくなりやがて――フェンリルへと姿を変えた。


『は?』


 突如として目の前に出現した神狼の威容に、そろってぽかんと口を開ける生徒たち。


「SS級魔物、フェンリルだ。今日はみんなに目標となるSS級魔物の強さを肌で感じ取ってもらう」


 俺はあぜんとする彼らに、にっこりと笑いかけた。


「――模擬戦だ。相手はフェンリル。9割くらい死んでもスラミィが助けてくれるから張り切って逝ってくれ」


『はああああああああああ!!!?!!?!?』


 8人分の絶叫が夕方の学園に響いた。

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