順位

「うへへへへへぇ!! もっと! もっとやろぉ!! クライくん! メルナのこと、たくさんいじめてぇ!!」


「はぁ、はぁ……! なんで倒れないんだ!? 頑丈すぎる!」


 なんだこれ。

 俺は目の前で繰り広げられる戦いに頭を抱える。


 逸材と呼ぶべき才能に溢れた生徒の1人――メルナは、まさにであった。

 ……別の意味でも。


 苦しげに呼吸を乱すほぼ無傷のクライ。

 一方で、ボロボロになりながらも満面の笑みを浮かべて何度でも立ち上がるメルナ。

 異常な光景であった。


「なるほどな。魔道具使った鍛錬が相性良いわけだよ」


「あはは……メルナちゃんはがんばってたというよりも、楽しんでたんですね」


 これには、メルナに期待を寄せていたメリーネも苦笑いである。


「まぁ、体質的に合っていたというのは間違いないな」


 メルナは実技最下位で学園に入学したという話だったが、『重量付加』の魔道具による鍛錬によって他の誰よりも早く成長していっている。

 なんでこんなに成長が早いのか。

 その真相はなんとも微妙なもので。


「痛みと苦しみが大好物なマゾヒストだったわけだ」


「でも、すごいことですよね。つらいばかりの魔道具を使った鍛錬ですけど、メルナちゃんにとっては楽しみながらできるのですから」


「あんな救い用のない被虐嗜好が他の誰よりも強くなれる素質になるなんて、世は理不尽だ」


 他の生徒たちが苦しみながらやっている中、メルナだけはその苦しみをすべて快楽に変換してしまうのだ。


 魔道具の効果を授業が始まってからただの一度も切ったことがないというのも、そりゃあそうだって話だよ。

 メルナにとっては使っているだけで常に気持ちよくなれるだけのお楽しみグッズだ。

 マジで救い用がねえわ。


 あいつこそ『二代目変態』に相応しい逸材だ。


「あ、クライさんとメルナちゃんの戦いが終わりそうですよ!」


「勝ったのはクライか。メルナが急成長しているとは言っても、さすがに地力が違うな」


「クライさんは学園襲撃のとき男爵級魔族を倒したみたいですからね! もともとかなり強いですよ!」


 授業の中で行っていた模擬試合。

 魔法使いと戦士に別れたトーナメント形式のもので、準決勝のカードの1つがこのメルナとクライの戦いだった。


 勝ったのはクライ。

 しかし、普通ならとっくに倒れているほどのダメージを受けても中々倒れないメルナの相手をしたせいで、クライは肩で息をするほど疲労困憊だ。


 ボロボロになっても戦いを続けられるのはメルナの強みの一つになりそうだな。

 ……ドMってすごい。


「もう一方の準決勝はエミリーちゃんが勝ちましたね!」


「ブレア先生とは互角くらいだったから、どっちが勝ってもおかしくなかったな」


 戦士の方の準決勝を勝ち抜いたのはクライとエミリー。

 この2人で決勝が行われるわけだが、実力で言ったらエミリーの方が上だ。


 そして、やはりというべきかエミリーが勝利。

 その後に行われた3位決定戦ではブレア先生がメルナに勝利して、1位から4位が決まった。


「魔法使いの方は1位がターナ先生、2位が魔法だけで戦ったジークで、3位にアネット、4位にドークか」


「こっちも実力通りって感じですね」


「ああ。ドークは他の3人よりも劣るが『音魔法』の強力さで勝ち上がったな」


 個人的にはジークが1位になって欲しかったが、あいつの真価は魔力と闘気を同時に使えること。

 魔法だけで2位なら十分か。


 1位を取ったターナ先生はさすがという一言に尽きる。

 元宮廷魔法使いの学園教師は伊達ではないのだ。


 3位になったアネットは、直接攻撃手段に乏しいという『空間魔法』の弱点が足を引っ張った結果か。

 この魔法は本来なら補助や防御に向いた魔法適性だ。

 魔法使いとしての技量や魔力量では上位2人を上回っているが、3位になってしまったのは仕方がない。


 この辺は後で『無魔法』を教えてやれば少しは改善するだろう。

 魔力消費が激しい『空間魔法』よりもなお消費する『無魔法』だが、魔力量がかなり増えた今のアネットなら使えるはずだ。


「これで全試合終わりです! わたしとレヴィさまの想定通りの8人が上位を独占しましたね!」


 メリーネの言葉に頷く。

 俺がこの催しを開催した理由は2つある。


 1つは明確な順位をつけて競争意識を持たせるため。

 2つめは優秀な者をより成長させるため。


 どっちかというと2番目の理由が重要で、俺はこの試合を開催するにあたり事前に生徒たちに『魔法使いと戦士、それぞれの上位4人に個別指導する』と宣言していた。

 要するにもともとジークたちにしていた個別指導。

 それを、他の逸材と言える人たちにも行うための理由付けとして行ったようなもの。


 クライとメルナにブレア先生、ターナ先生とドーク。

 ジークたちを除いた強くなる素質があるこの5人をより重点的に鍛えたかったのだが、見どころがあるとか言って急に特定の人だけを優遇し始めたら問題だからな。

 他の人には申し訳ないが出来レースみたいなものだ。


 まぁ、今回上位を取った8人以外が上位に食い込んだとしても、それはそれで喜ばしいことだから張り切って鍛えてやるというもの。

 チャンスは平等だ。


 俺は手を叩いて全員の注目を集める。


「これで試合はすべて終わった。約束通り、今後は魔法使い組と戦士組のそれぞれ上位4人に追加で個別指導を行う。断ってもいいが、強くなりたいなら参加してくれ」


 改めて宣言すると、上位をとった8人は安堵や喜びの表情を浮かべる。

 この様子ならみんな個別指導に参加してくれそうだな。


「順位決定戦はこれから1ヶ月ごとに行う予定だ。今回上位を取った人は足元を掬われないように、上位を取れなかった者は次は勝てるように。鍛錬を怠るなよ」


 上位を取れず悔しがっていた何人かが上を向く。

 俺の言葉を聞いた彼らの顔は諦めているようには見えないし、これなら上位8人以外にも期待できそうだな。


「話は以上。今日の授業は終了だ。上位8人は放課後にまたここに集まってくれ」

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