逸材(魔法使い)
俺は戦闘訓練をしている魔法使いをぐるりと見渡す。
やはりというか、真っ先に目に入るのは空間魔法を巧みに使ってスケルトンを手玉に取るアネットだ。
それと、魔法使いとして訓練に参加しているジーク。
まぁ、この2人はとりあえず今はいいか。
それ以外となると。
「ダンジョン攻略を成し遂げられそうなのは2人だな」
「アネットさんを抜いて、ですよね? 数を考えたら戦士よりも少なくなるのは仕方ないかあ……」
「まあな。もともと、魔力持ちは闘気持ちと比べると少ないし」
有望そうなのが2人いるだけありがたいくらいだ。
「それで、どなたでしょうか」
「1人はあそこにいるローブの女性だ」
「ターナ先生ですね!」
「ああ。ブレア先生と同じで、さすがって感じだよ」
ターナ先生は学園で魔法を教える教師だ。
経歴は元騎士団の隊長格だったブレア先生と似ていて、元宮廷魔法使いだとか。
2人は一緒にいることが多いので、揃って俺の授業に参加することを決めたのだろう。
魔法適性は『土魔法』だ。
ゴーレムを作って戦わせたり、土を飛ばして攻撃したり、物質的な干渉力があるため防御にも使える。
俺の『火魔法』と同じでよくある魔法適性だが、別に弱いなんてことはない。
使いやすい上に便利な魔法適性だ。
「…………ターナ先生、なんかへっぴり腰ですけどスケルトンを圧倒してますね」
「まぁ、普段からわりとオドオドしてるし」
ターナ先生は前世で言うところのドジっ子属性というか、そんな感じの人だな。
見た目からはあまりすごく見えないし、たまに転けてるし、生徒から舐められることもあるとかどうとか。
だけど、実力はどうやら本物だ。
魔道具で魔力に負荷をかけながらでも、しっかりと魔法を発動してC級魔物を圧倒しているのだから普通に強い。
そもそも、魔法使いの場合『魔力負荷』の魔道具を使いながら魔法を発動するだけでやっと、という感じの人がほとんどな状況だ。
どうにも戦士の『重量付加』よりも難易度が高いらしい。
負荷をかけながら万全に魔法が使えるのがごく少数で、その先の魔力圧縮ができるのは事前に魔道具トレーニングを始めていたアネットとジークだけ。
寝るときに魔道具を使うのも慣れてからでいいってことにした。
生徒全員から泣きつかれては仕方ない。
1ヶ月で強度を中に上げるつもりだったが、この様子だと一番優秀なターナ先生でもまだかかるな。
「レヴィさま、もう1人はどなたですか?」
「あそこにいる大柄な男子生徒だ。名前はドーク・モルドー。現状だと見ての通りまだまだだが、希少な魔法適性の『音魔法』持ちだ」
「希少魔法! ネロさんの『死霊魔法』とアネットさんの『空間魔法』に続いてですね!」
「あとは俺の『闇魔法』とイブの『氷魔法』、ジークの『光魔法』も希少だな。でもまぁ、ネロやアネットの魔法に比べたら持ってるやつは多いか」
希少魔法だからといって、必ずしも強いかというとそうではないけどな。
結局のところ使い手の力量による。
よくある『火魔法』や『水魔法』などでも使いこなせばかなり強い魔法が使えるようになるし、希少魔法だからといって鍛錬や研究を怠っていいことにはならない。
むしろ希少魔法だからこそ先駆者の資料が少なく、自力で力をつけていかなければいけない面もある。
だけど、極まった希少魔法の使い手は手に負えないオンリーワンの力を発揮する。
それはネロを見れば一目瞭然だ。
俺も『闇魔法』はとにかく便利な『影収納』やら、『黒炎魔法』の一部として大いに活用させてもらっている。
要するに、希少魔法は難易度が高いが極めれば強力な効果を発揮する大器晩成型の魔法。
「そんなわけで、ドークに関しては希少魔法がある分の期待ってところだな。実力で言えばターナ先生が一番だ」
ちなみに、ドーク・モルドーは『エレイン王国物語』のゲームに登場した人物だ。
しかもレヴィの取り巻きである。
三下みたいな言動で、実力者で爵位も高いレヴィに追従して挙げ句の果てに一緒に破滅する哀れな男である。
希少魔法はあれどまったく努力をしないので使いこなせず、大した脅威にもならないクソザコ。
いかにも強そうな『音魔法』使いなのにクソザコ。
要するにネタキャラである。
「ドークさんも熱心に取り組んでるみたいですし、きっと強くなってくれますね!」
「……まぁ、うん。そうだな」
「レヴィさま?」
「いや、ちょっと申し訳ない気持ちが……」
「?」
メリーネが不思議そうに首をかしげる。
ドークが真面目にやってるのを見て、ゲームではなんであんなに不真面目なクソザコだったのかと考える。
結論から言うと、多分レヴィの存在が原因だろう。
なにせ高位貴族で実力があり、一目置かれていたレヴィの側にいれば学園生活も貴族としても安泰だ。
きっと、取り巻きという立場に甘んじて努力をやめてしまったのだろう。
ただでさえ扱いの難しい希少魔法だし、人間は楽な方に流されるもの。
ドークはモルドー子爵家の次男。
貴族社会において、腕っぷしよりも重要な高位貴族との関係を見事に構築していたゲームでの彼には努力する意味も必要もなかったことだろう。
だから、ちょっと申し訳ない。
俺とゲームのレヴィ・ドレイクはまったくの別人ではあるんだけど。
ちょっとな。
「まあでも、あの調子なら平気か」
「なんだか、いきいきとしてますよね! 訓練でボロボロになってるのに目が輝いてますよ!」
「ん、よかったよ」
モチベーションはかなり高そうだ。
なんとなく良い効果があればと思って、この間「期待してるぞ」って声をかけたのが良かったかもしれん。
あの様子ならゲームのドークのようにはならないだろう。
「さて、有望なのは5人か」
「ブレア先生、クライさん、メルナちゃんの戦士組に、ターナ先生とドークさんの魔法使い組を合わせた5人ですね」
「それに加えて、ジークたち3人を合わせた8人。ダンジョン攻略を成し遂げて、七竜伯に準ずるかもしくは肩を並べる可能性がある逸材だ」
「えっと……これって多いですよね?」
「ああ。めちゃくちゃ多いよ」
さすがはジーク世代というべきか。
ジークたち3人とクライの才能は、ゲームに登場する主要人物なだけあって保証されているわけだ。
ドークはちょっとよくわからないけど、都合よく希少魔法を持っているんだから、これもゲームの登場人物としての特権と言ってもいいだろう。
ゲームの登場人物な5人を除けば、この大きな学園都市の中で見つかった逸材はたったの3人だからな。
しかもそのうちの2人は元々実力者であった教師。
もしかしたら本当の意味で『見つけた』と言えるのはメルナだけかもしれない。
めっちゃ貴重な才能だ。
というか、そう考えるとメリーネが転生直後から俺のそばにいてくれたことってマジで奇跡だな。
もちろん本人の努力ありきだけどさ。
俺がこの世界で生きてきた中で1番の幸運は、間違いなくメリーネに出会えたことだ。
ふと、隣に立つメリーネの頭を撫でてみると彼女は気持ちよさそうに微笑んだ。
「えへへ、急にどーしたんですか、レヴィさま」
「いや、いつもありがとうってことだよ」
俺はそれだけ言って、メリーネの頭から手を離した。
「さて、目標は全員がS級魔物を倒せるくらいの強さに。有望な8人については神器を獲得して、人類の最高戦力の1人になってもらうために。きっちりと育て上げるぞ」
「はい! わたしもがんばりますっ!」
胸の前でむんと拳を握ってやる気を示すメリーネ。
俺もまた、少しでもこの世界の未来を良いものにするためにと気合を入れ直した。
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