逸材(戦士)
俺が授業をするようになって1ヶ月ほどが経った。
授業内容は主に戦闘訓練や基礎鍛錬など。
俺が指導する魔法使い組は座学も必要なため、メリーネの担当する戦士組と別れての授業なんかもある。
今は演習場を使っての戦闘訓練だ。
生徒たちの相手をしているのは、ネロから借りてきたアンデッドである。
骨格模型のような姿をしたスケルトン系のC級魔物で、生徒の人数分用意してもらった。
C級は強さとしてはちょうど良い感じだな。
どこか懐かしい容貌のスケルトンたちが、カタカタと骨を打ち鳴らしながら生徒たちの相手をしている。
今はここにいないネロだが、弱い魔物から目標となるS級魔物まで幅広く用意してくれるのだから大活躍。
あいつ本当にすげえな。
「スラミィちゃん! お願いします!」
「ん、ちょっと待ってね!」
スラミィは主に回復係だ。
戦闘訓練で怪我をした人に手を触れれば、それだけでどんな怪我でも治っていく。
もちろんエリクサーを使っているのだが、見た目からだと魔法で癒しているように見えるだろう。
「傷がこんなに綺麗に! ありがとう!」
「にへへ、がんばってね」
「うっし、やるぞー!」
笑いかけて励ますスラミィに、気合の入った大きな声で元気よく答える男子生徒。
「なんというか、スラミィは人気だな」
「あはは、スラミィかわいいですから。見た目的にも、妹みたいに思われてるのかもしれませんよ?」
俺とメリーネは全体的に見ながら、何かがあったり注意する点があれば適宜指導していく。
人数が人数だから、基本的には一対一で教えることとかはできない。
例外はジークたちで、あいつらには授業のない日にも指導することがある。
鍛えてやるって約束したし、ジークたちには魔王と戦えるくらい強くなってもらわないと困るからな。
でも、根幹にあるのは魔道具の存在だ。
痛みや重りを我慢して、一日中起動させながらいつも通り普通に鍛えるだけでガンガン伸びていく。
正直、教師としてはそんなにやることはなかった。
だから、自然とこの1ヶ月で目的は変わってきている。
生徒たちをS級魔物を倒せるくらいに成長させるという目的と並行して、それを超えてさらに伸びる才能の持ち主を探すという目的へと。
「メリーネ、そっちには良い感じのやつはいたか?」
「はい! 3人ほどですが、強くなりそうな人を見つけましたよ!」
「重畳だな」
魔法使いではなく、剣や槍などの武器を持ってスケルトンと戦うやつらを見る。
ほとんどはスケルトンには手も足も出ずやられている。
魔道具による制限を受けたままC級魔物と戦うのだから、授業が始まって1ヶ月では歯が立たないのは仕方がない。
だけど、そんな中で3人の人物がスケルトンと互角以上の戦いを繰り広げているのが見えた。
1人はジークの仲間のエミリーだ。
「あの3人か?」
「そうです。エミリーちゃんは置いておいて、眼鏡をかけてる女性がブレア先生。生徒ではないですが、学園で剣術を教えている先生です。あと、もう1人が……クライ・リンスロットさんです」
「ブレア先生とクライか」
どっちも知ってる人物だな。
ブレア先生はたしか、学園にやってくる前は騎士団の隊長格をやっていたとかなんとかっていう実力者だ。
何度か話したこともあるな。
騎士の部隊を率いる隊長格というと、A級魔物を倒せるくらいの実力はあるはずだ。
150キロの重りを背負ってC級と互角――というか、余裕で圧倒しているな。さすがである。
クライはゲームにも登場した人物だ。
名前の通りリンスロット伯爵家の人間で現当主の息子、ロータスの孫にあたる。
年齢は俺の1つ上。
メリーネからだと1つ下の義理の甥ということになる。
何ともやりにくそうな関係だ。
クライはブレア先生のように圧倒しているわけではないが、スケルトンと互角に打ち合うことができている。
「もう1人は、あっちにいる女の子です」
「エミリーじゃないのか?」
「エミリーちゃんは強くなるってわかりきってますので、エミリーちゃん以外で3人です」
「ま、それはそうだな」
メリーネが強くなりそうな3人目として示したのは、バカでかい剣を振り回す小柄な少女だ。
どう考えても武器の大きさと本人の身長が合ってない。
スケルトンにもほとんど攻撃を当てることはできず、軽くあしらわれているように見えた。
「…………あれ、大丈夫か?」
「あはは。今はまだまだですけど、きっと強くなると思うんです」
俺が思わず訝しげに尋ねると、メリーネは苦笑して答えた。
「あの子は今年入学した1年生で、メルナちゃんって言うんですけど、実技試験で最下位だったみたいなんです」
「最下位?」
それはおかしくないかと俺は思った。
最下位の成績の生徒が、150キロの重りを背負った状態でC級魔物と戦っているということになる。
軽くあしらわれているとはいえ、一応戦いにはなっているのだ。
そもそもの話として、実技最下位の生徒が150キロを重りを背負った状態でまともに動けるとは思えなかった。
「メルナちゃんはがんばり屋さんなんです。いつも居残って剣を振ってるし、この授業を始めてからまだ一度も魔道具を切ったことがないみたいで」
「それはすごいな」
「そうなんですよ! 最初のうちは本当に目も当てられないくらいだったんですけど、この1ヶ月で他の誰よりも成長してるんです。剣の才能はまったくないのですが、重量付加鍛錬が体質的に合っているんだと思います!」
どんな体質だよって思うが、もしかしたらメリーネのそれに近いのか。
いつだかロータスが言っていた。
メリーネの剣士としての才能はあくまでも優秀止まりだが、厳しい鍛錬を続けられる忍耐力と意志の強さを持つ努力の天才だと。
彼女は血の滲む努力を繰り返して、その果てに『二代目剣聖』として相応しい力を持つに至った。
おそらく、メルナもそれに近い存在なのだろう。
重量付加という厳しい鍛錬を続けられる忍耐力を持つ努力の天才か、あるいは天性の頑丈な肉体があるのか。
「剣の才能は本当にないので、代わりに技術とか関係なさそうなあれを持たせたんですけど正解でした。メルナちゃんは闘気の出力に優れているので、重量付加と相性が良いことと合わせて力自慢のパワーファイターになりそうですね」
「それであんな身の丈にあってない大剣を使ってるのか」
それにしても話を聞いている限り、メリーネが一番期待しているのはメルナみたいだな。
ブレア先生やクライも良さそうだが、メルナのことを話すときはとくにイキイキしていた。
彼女はゲームに登場しない人物。
だけど、こんなところにメリーネの絶賛する才能が眠っていたなんて意外な収穫だった。
これだけで授業を始めた価値があるな。
「ふむ。ブレア先生、クライ、メルナ。それとエミリーを合わせた4人がとくに優秀な戦士って感じか」
「はい! きっと、鍛えればダンジョン攻略も達成できる逸材だと思いますよっ!」
「それは頼もしい限りだな」
ダンジョンを攻略して神器を獲得すれば、一気に人類の最高戦力の仲間入りだ。
この領域の戦力は何人いても良い。
七竜伯レベルとまではいかなくても、侯爵級魔族の相手を任せられるだけでこの先の戦いがグッと楽になる。
「じゃあ、今度はレヴィさまの番ですよ! 魔法使いの方には強くなりそうな人がいましたか?」
俺はメリーネの問いかけに頷いて、1人ずつメリーネに教えてやることにした。
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