ねこはいます
「レヴィさん、ご依頼の魔道具はこれで全部です〜!」
依頼していた魔道具がすべて完成したという報告をもらった俺は、メリーネと一緒にミストの魔道具店へと受け取りにやってきていた。
完成した量産型の『魔力負荷』と『重量付加』魔道具をすべて受け取って『影収納』に納める。
これで王都でやることは終わりだ。
ようやく明日にでも、学園に帰ることができる。
「こんな大量に依頼して悪かったな」
「いえいえ〜! 作るのは大変でしたけど、こんなにまとまったお金がいただけてすっごく嬉しいですよ〜!」
「ならいいんだが」
俺が代金として渡したお金の詰まった袋を抱えて、ニコニコと笑みを浮かべるミスト。
「これで久しぶりにちゃんとしたものが食べられます〜!」
「……ミストさん、腕は良いのに」
「可哀想なやつだ」
なかなか涙を誘うような言葉を言う。
メリーネの言う通り、ミストは魔道具師としての腕は本当に素晴らしいのだ。
だけど、儲かっていない。
旧市街の裏路地にあって、ボロボロな店の外観。
看板には『魔道具、あります』とだけ書かれていて、怪しく近寄りがたい雰囲気。
「……店の中はこれだしな」
それでも勇気を出して店の中に入ってみれば、そこに広がるのはゴミ屋敷もかくやという物だらけで汚い店内。
「これで客が入るわけないし、何度言ったらちゃんと片付けするようになるんだか」
来るたびに掃除をしてやっているが、毎回汚くしているのだから虚しくなってくる。
そりゃあ食うものに困るのも当然だ。
「えへへ〜……今日もお片付けしてくれたりしますか?」
「お前、さすがに良い加減にした方がいいと思うぞ。やるけど」
「あ、やるのですね。レヴィさま、優しい」
世話にはなってるし。
俺やメリーネが強くなれた理由の1つはミストに作ってもらった魔道具にあるわけだし。
感謝はしてもし足りないから掃除するけど。
「あは〜! さすがはレヴィさん! 優しくてかっこよくて、それでいて七竜伯だなんて! 器が違いますよ〜!」
「はいはい、早く掃除するぞ」
調子よく煽ててくるミストを急かして、さっさと店の中を掃除していく。
もう何度も掃除しているからか手慣れたもので、あっという間に掃除は終わった。
これで客が増えれば良いのだけどな。
ミストにはまともな食事くらいとってほしいし、客が少なすぎて廃業になんてなったら俺も困るのだ。
「ありがとうございます〜! 本当に、いつも助かっちゃってますよ〜!」
綺麗になった店の中でミストは嬉しそうに笑う。
「七竜伯を掃除なんて雑用で使ってるのはお前だけだぞ」
「えへ、私も随分とビッグになってしまいましたな〜!」
「まったく」
腰に手を当ててドヤ顔をするミストに呆れて、俺はため息を吐いた。
「と、そうでした! 実はレヴィさんにプレゼントがあるのですよ〜」
「プレゼント?」
俺は思わず聞き返した。
「はい! 七竜伯に就任したということで、日頃からお世話になっているお礼とお祝いのお気持ちです〜!」
なんと、ミストがそんなことを考えていたとは。
といっても日頃のお世話というと、来るたびに掃除をしていることくらい。
何か物をもらうほど大したことではない。
とはいえ贈り物をもらえるのなら素直に嬉しい。
「えっと〜、たしかこっちの方に……ありました〜!」
そう言ってミストが取り出したのは2つの木箱だった。
「こっちがレヴィさんで、こっちはメリーネさんの分ですよ〜」
「あれ、わたしにもですか?」
「はい〜、メリーネさんにもお掃除を手伝ってもらっていますし。たくさん感謝してるんですよ〜」
「そ、そうですか……ありがとうございます!」
どうやらミストからの贈り物は俺だけじゃなくて、メリーネにもあったらしい。
となると七竜伯への就任祝いってよりも、よく掃除を手伝ってやっていることに対するお礼な感じだな。
なんとなくそっちの方が気分的に受け取りやすい気がするので、俺としてはありがたかった。
「開けてみてください〜!」
ミストに促されて渡された木箱を開ける。
中に入っていたのは、黄色の石が繋がれたネックレスだった。
「これは……」
「そのネックレスは魔道具ですよ〜。余剰魔力を自動的に吸収して、貯め込んでおく効果の魔道具です〜!」
「おお……!」
「貯め込める量は、魔法使いの平均魔力量の1000倍といったところでしょうか〜。今のレヴィさんに必要かはわかりませんが、以前欲しがっていたこれの代わりにどうかと思いまして〜」
初めてこの店に来たときに買おうとした魔道具だ。
たしか体に埋め込んで使う魔道具で、魔法使いの平均魔力量の10000倍の魔力を貯め込める効果だったはず。
買おうとしたけど、メリーネに止められたやつだ。
「懐かしいな、それ」
「そのネックレスはこれの効果を落とした物なんです〜。体に埋め込まなくて良い分、貯め込める魔力量が減っちゃってるんですけどその分安全ですよ〜!」
「もともと、そっちも99.9パーセントの確率で安全って言ってたよな」
「あ〜、それなんですけど。実は、あの後ちゃんと改めて検証したら安全性は10パーセントくらいしかなかったって判明しちゃいまして〜」
「ええ……全然安全じゃないじゃん」
99.9パーセントが10パーセントになるって、どんな判断基準で安全って言い張っていたんだ。
ガバガバすぎる。
「ほら! レヴィさま、ほらあ!! やっぱりダメだったじゃないですか!! わたしの言った通りでしたねっ!」
メリーネがほら見たことかとドヤ顔を決める。
メリーネに止められなければ俺はこの魔道具を購入していただろうし、必死に止めてきた彼女が正しかったことが証明されたのだ。
「だな。助かったよ」
「えへへ」
お礼を言って頭を撫でてやると、メリーネは嬉しそうに笑った。
「メリーネさんも箱を開けてみてください〜。きっと、気に入りますよ〜」
「開けさせてもらいますね!」
ミストに促されたメリーネも木箱を開ける。
そこに入っていたのは、白く細長い物体であった。
「じゃ〜ん! しっぽです!」
「わあ!」
それは猫のしっぽの姿をした魔道具であった。
これにはメリーネも目をキラキラと輝かせて、喜びの声を上げる。
「レヴィさま! これでさらに猫に近づけますよ!」
もともと猫耳の魔道具を普段から肌身離さず着けている猫好きのメリーネだから、ミストからのこのプレゼントに対する喜びをかなりのものだろう。
「喜んでもらえてよかったです〜。このしっぽも魔道具で、本物みたいに動かせるんですよ〜!」
「それはすごいな。で、どんな効果なんだ?」
「本物みたいに動かせます〜!」
「……?」
「…………?」
あ、それだけなのか。
いやまあ、メリーネが喜んでるからいいんだけど。
「ミスト、ありがとう。大切に使わせてもらう」
「ありがとうございます! こんな素敵な魔道具をいただいてしまって、嬉しいです!」
「いえいえ〜! またお掃除お願いしますね〜!」
俺とメリーネが感謝すると、ニコニコとした顔で当然のように次の掃除を約束させようとするミスト。
こいつめ……もらう物もらった後だし断れねえ。
策士であった。
俺はため息を吐いて、仕方なく頷いた。
「はぁ、なるべく綺麗にしておけよ」
「あは〜! 善処しま〜す!」
本当にわかっているのか、いやわかってないよな。
どうせまためちゃくちゃ汚くなるんだろうな、と俺は半ば諦めながら店を出た。
次に来るときはどこまで汚くなっているのか不安だ。
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