決着
勝つとは言ったが、さてどうやって勝つか。
「やっぱり、厄介なんだよな」
ユーディを見て、ぽつりと呟く。
さっきの攻防でつけたはずの脇腹の傷は、あろうことかすでにふさがっていた。
神器の鎧も再生しており、ユーディにダメージは残っていない。
「
ユーディは自らをそう称した。
ゲーム知識で彼の能力を知っている俺は、その言葉の意味をよく知っている。
ユーディの神器の能力は、装備者の傷と体力と状態異常を治し続けるというものだ。
ゲーム風に言うなれば毎ターンのリジェネ効果か。
その上で単純に鎧としても優れているというおまけ付きの神器だ。
特徴的なのが体力を回復するということ。
体力というのはゲーム的な要素であるHPのことではなく、文字通りスタミナとか持久力といったものを指す。
さらには空腹や脱水は状態異常に含まれるらしく、彼が鎧を着ている間はそれらとも無縁。
傷を回復し、体力を回復し、状態異常を回復する。
それらの力が意味するのは、ユーディの圧倒的な継戦能力の高さだ。
スタミナ切れも補給の必要もないユーディは、三日三晩であろうがそれ以上であろうが戦い続けられる。
無敵ではなく、死なないわけではなく。
しかし、戦う意思さえあれば何度でも立ち上がる。
まさに、不屈。
それが『聖騎士』の強さだ。
「倒す方法としては、回復させる間もなく一気に倒してしまうことだが……」
これはあくまで試合だし。
殺してしまってはルール違反になるから、そんなことはできない。
というか、仮にできたとしても同じ人類で魔族と戦う仲間を殺すわけがない。
「となると、泥試合にしかならないんだよな」
底なしの魔力で魔力切れがない俺と、神器の力によって体力切れがないユーディ。
試合が中断されるまで何時間でも戦い続ける羽目になるな。
ちなみに、ユーディは気絶させるなりして行動不能にさせることもできない。
気絶も状態異常の範疇に含まれるから。
まじでどうやって倒せばいいのかわからんな。
倒し方を考えている間でも、ユーディは構わずに攻めてくる。
「地味だが、本当に厄介な能力だ」
「勝てればいいんですよ!」
迫り来るユーディと、迎撃する俺。
命中してもたいしたダメージにならない『劫火槍』は完全に無視され、『劫火炎槍』は徹底的に警戒され対処される。
この闘技場という環境も俺にとっては戦いづらい。
あまり強力な魔法は、余波で観客への被害を出してしまう可能性があるため使えない。
観客を傷付けないよう指定した黒炎魔法を使えば被害は及ばさなくて済むが、パニックは起きそうだ。
俺が『劫火槍』や『劫火炎槍』ばかり使っているのは、そういった理由があるからだった。
単純に使いやすくて強いのもあるけど。
ユーディが突っ込み、俺が魔法で迎撃し、接近を許せば無魔法で仕切り直す。
俺が倒し方を考えながら、そんな攻防を幾度か繰り返していればさすがに対応されてしまうようで――
「――『魔力波』」
「そう何度も同じ手は食わないさ!」
なんと、『魔力波』がユーディに受け流された。
どうやっているのかはわからないが、『魔力波』を正面からくらったはずのユーディは体を回転させその場にとどまる。
そして、回転の勢いのまま薙ぎ払われる槍!
「っ!」
瞬時に神器の力で魔力を闘気に変換、左手側から迫る槍をとっさにしゃがみ込むことで回避する。
頭上を通りすぎる槍。
魔法使いである俺に躱されたことで、驚愕の声を漏らすユーディ。
俺はしゃがみ込んだ体勢から、一気に距離を詰めてユーディの懐に飛び込んだ。
そして、その腹へと手を当て神器の力を再び使用する。
「魔力転換・斥力!!」
「がはっ!」
斥力は反発し合う力。
ユーディの腹を起点に出現した斥力は、『魔力波』よりもよっぽど強い力で彼を吹き飛ばした。
「っ、今の力は……」
反対側の壁まで吹き飛んだユーディ、即座に立ち上がって身構える。
「……そうか、これが君の神器か」
「できれば使いたくなかったけどな。さすがに七竜伯相手に使わないわけにはいかなかったか」
あまり奥の手である神器の力をこんな公衆の面前で堂々と使いたくはなかった。
民衆に『白銀』の力が知れ渡れば、それが巡り巡って魔族にも認知されるようになるかもしれない。
そうなれば、知られていない力というアドバンテージを失うから。
まあ、すでに魔族に知られている可能性はあるけど。
神器の力を見せた魔族は全員その場で殺してきたが、一度正体を明かしていないオールヴァンスとの模擬戦で披露してしまっていたからな。
今思えば、あれは威力偵察だったのだろう。
とはいっても隠しておく方がいいに決まってるから、使いたくはなかったのだ。
負けるくらいなら使うけどな。
「お前を倒す方法をずっと考えていたが、神器を使うのであればどうとでもなる」
「ナメられたものです」
「そっちだって奥の手があるだろ。お互い様だ」
どうあっても、この場ではお互いに全力を出した本気の戦いなんてできない。
結局のところルールがあって、制限があって、そうやって成り立っている観客ありきの興行だ。
これはその枠組みの中で、どっちがより力を発揮できるかというだけの試合。
まぁ、本気でやっても俺は負ける気なんてないけど。
「終わらせる。――『劫火槍』」
空を埋め尽くす炎の槍。
その数は、1万。
「数はすごいですが、この魔法では私は倒せませんよ!」
怒涛のように迫る炎の槍を前に、ユーディはどんっと地を蹴りかける。
降り注ぐ『劫火槍』を払い、躱し、掻い潜り。
縦横無尽に動き回り俺へと迫る全身鎧の騎士。
「ここです!」
1万の炎の槍を回避して、俺の目の前へとたどり着いたユーディは槍を構え――その肩へと『劫火炎槍』が突き刺さる。
「なっ!? いつの間に……!」
「『劫火槍』だからって油断しただろ。並列魔法くらいできる」
1万の『劫火槍』の中に、1つだけ紛れ込ませていた『劫火炎槍』だ。
すべてを『劫火炎槍』にすることもできたが、それではユーディはより徹底的に対処するだろう。
決定打にはならないと確信していた『劫火槍』だからこそ、雑な対処でも問題ないと思わせた。
たった1つだからこそ油断を誘えたのだ。
そして、肩を貫かれたユーディはその傷が治るまで槍を振る動きに支障が出る。
俺はその隙が欲しかった。
「魔力転換・重力」
「ぐあっ!? こ、れは……!」
ユーディは呻き声を漏らし、なすすべもなく膝を突く。
自動治癒と無限の体力を持ち、気絶させるという手段も効かない継戦能力特化のユーディを殺さずに倒す方法。
俺には結局、これしか思い浮かばなかった。
「お前にかかる重力を30倍にした。物理的に動けないなら、もう何もできないだろ」
「なる、ほど、これは、私にはかなり有効、ですね……」
まぁ本当のことを言うと、このままユーディが降参しないでいたらそのうち俺の魔力が尽きるんだけど。
神器で魔力を重力に変換するのは、強力な分やっぱり効率が悪すぎる。
降参してくれたらありがたい。してくれ、頼む。降参してくれないと俺の魔力が尽きて負ける。
なんて、俺のそんな杞憂は無用だったらしい。
「完敗、です。私の負けですね」
潔く敗北を宣言するユーディ。
俺はホッと息を吐いて、神器の力を解除した。
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