攻防

 まずは小手調べ。

 戦いが始まると同時、俺は先手を打って魔法を放つ。


「――『劫火槍』」


 なんか俺こればっかだな、とか思いつつも使いやすい『劫火槍』を発動する。


 その数は100。

 宙に現れた炎の槍は、ユーディめがけて殺到した。


「この程度」


 威力、物量ともに十分な魔法の標的にされたユーディだが、落ち着いたまま冷静に対処する。


 躱し、槍で払い、鎧で受け。

 ユーディは100の『劫火槍』を容易く捌き切った。


『おおおおお!!!! 目を疑うような『白銀』の魔法の連続発動! そしてそれを見事にしのいで見せる『聖騎士』!! いきなりものすごい攻防だあああ!!!』


 実況だか解説だかわからないが、魔道具によって大きくなった声が闘技場に響く。

 すると、観客たちがわっと歓声を上げた。


「まったく、やりにくいな」


 俺はため息を吐く。

 観客たちが盛り上がるのは勝手だが、こっちとしては気が散るというか集中に欠くというか。


 そんな俺とは違って、ユーディの方は逆に気を良くして調子を上げていそうなのが面倒だ。

 やっぱ俺がこういう場で戦うのはこれっきりだな。


「――『劫火槍』」


「! さっきよりも、はるかに多い!」


 今度は数を一気に増やして1000。

 空を埋め尽くす炎の槍が現れ、そのすべての矛先がたった1人に向けられる。


 驚愕の声を上げるユーディだが、その動きに動揺は現れない。

 次々と襲いくる魔法を捌いていく。


 だが、やはり数が数だ。

 捌ききれない炎の槍のいくつかが、ユーディへと命中していく。


「少しは効いたか?」


「……この威力の魔法を同時にこれほど放つなんて、さすがの魔力量ですね」


「これが取り柄だし」


 見た感じダメージはそこそこか。

 神器であるユーディの鎧には何の損傷もないが、まともに命中してその内部までがまったくの無傷ということはないだろう。


 今までアミュエッテとかアルムフリートとか、オールヴァンスとか『劫火槍』を意にも返さない敵が多かったが、ユーディには効くようだ。


 もっとも、威力を考えたら当然なんだけどな。

 S級魔物をワンパンできるような魔法で、同時に100とか1000とか打ち込んでるんだぞ。


 相性で無効化してきたアルムフリートはともかく、海上で超強化されたアミュエッテとオールヴァンスは本当に理不尽な敵だった。


「ですが、これくらいなら私は倒れない。決して折れず、倒れず、引き下がらない。それが、私の強さです」


「地味だな」


「ええ、その通りです。しかし、地味でいい。私はの『聖騎士』ですからね――」


 そう言って、ユーディは槍を構えた。


「――地味でも何でも、最後に立っているのは私だ!!」


 まっすぐに突っ込んでくるユーディ。

 当然、俺は迎撃の魔法を構えた。


「『劫火槍』!!」


「押し通る!」


 ユーディは炎の槍を正面から受けてなお、それでも足を止めずに駆ける。

 一切のダメージを無視した思い切った攻め。


 きっと俺の『劫火槍』で致命傷を負うことがないのであれば、多少のダメージを覚悟してでも接近戦に持ち込むべきという判断なのだろう。

 良い判断だ。


 魔法使いである俺と、接近戦専門の闘気持ちであるユーディが近距離で戦えば俺は完全に不利になる。

 神器によって闘気をまとえるとはいえ、接近戦ではさすがに分が悪い。

 俺が有利に戦えるのは、中距離から遠距離の魔法戦だからな。

 多少のダメージ覚悟でも突っ込む価値は大いにある。


 だけど、避ける気がないというなら好都合。

 もっと威力の高い魔法をぶち込んでやればいい。


「『劫火炎槍』!!」


「ぐっ!?」


 極限まで強化した炎の槍。

 SS級魔物ですら消し飛ばすほどの威力の魔法は、直撃したユーディの脇腹を鎧もろとも抉り取る。


 しかし、それでもなおユーディは止まらない。

 痛みなど気にしないとばかりに血を流しながら、なおも走り続ける。


「チッ、バーサーカーかよ!」


「うおおおおおおお!!!!!!」


 ついに目の前まで接近してきたユーディが、槍を振りかぶった。


 はっきり言ってユーディは力も速度もメリーネほど埒外の領域にはいない。

 だけど七竜伯として相応しい力がたしかにある。

 俺も神器のおかげである程度は接近戦ができるが、さすがにこいつと正面から接近戦なんてやろうとは思わん。


「付き合ってられるか――『魔力波』!!」

 

 膨大な魔力を圧縮し、解き放つ。

 術式の構築を要しないために出が早い無魔法は、近づく敵に強引に距離を取らせるのにちょうどいい。


「くっ!」


 俺の魔力によって吹っ飛んだユーディは驚愕の声を上げる。


「な、なんだこの魔法は! めちゃくちゃすぎる! 魔力量が多いと言ったって、こんな非効率的で無駄の極みの様な使い方をするとは……!!」


「消費する魔力のわりに威力は低いし、たしかに非効率で無駄だが、俺からしたら問題ない。魔力の消費に目をつむれば、手札の1つとして悪くないだろ」


 現にこうして危機を脱することができている。


「たしかにそうですが……レヴィ殿は本当に強いのですね。正直、少し侮っていたかもしれません」


「新参者なんでな。そう思うのも無理はない」


 実績があろうと『賢者』が認めていようと。

 実際の実力を自分の目で見るまでは心の底から信じることができないのは、当然のことではある。


 ユーディからしたら、俺はこの1年で突然現れたぽっと出の存在だ。

 強力な魔族を倒したとか言われてもそもそもその魔族の強さだってわからないし、目で見ていない俺の強さなんて知る機会なんてない。


 七竜伯としての自負もあっただろう。

 だから、侮るのは仕方ない。


 まあそれはそれとして、だ。


「俺を侮ったツケは敗北で払わせてやるよ」


「侮ったことは謝罪しましょう。ですが、勝つのは私です!」

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