解散
俺の案はネロの魔法でアンデッドを召喚し、各地に配置することで神出鬼没の魔族に対して事前に手を打つというものだ。
ネロの配下にあるSS級魔物ネクロラビット。
こいつは1体の魔物でありながら、同一の強さを持つ1000体へと分身する強力な魔物だ。
そしてネロの配下にはこの魔物が100体いる。
これを国内に解き放てば、10万体のSS級魔物がネロの指揮下で対魔族に動くことができるのだ。
実は『竜の剣』発足時にも考えた案ではあるが、人に害を及ぼさないとはいえSS級の強力なアンデッドを解き放つというのはさすがに……と思ってやらなかった。
だけど、手段を選ばず大々的に魔族への対策を打ち出すのであれば躊躇なくできる。
ネクロラビットで対処できるのはせいぜい伯爵級までかもしれないが、侯爵級以上の大物が出たときにこそ七竜伯が出ていけばそれで済む。
これ以上ないほど、完璧な作戦だと思うのだ。
――そんな感じで俺が説明すると、なぜか円卓の間には痛いほどの沈黙が落ちた。
なんか変なことを言っただろうか。
ちょっと不安になってきたところ、エレアが沈黙を破って口を開く。
「いや、めちゃくちゃだよ! そんなことできるなら今まで真面目に話してたのが全部無駄じゃん!! そんなの、ネロ1人で終わる話だもん!!!!」
「もん、て」
エレア、素が出てるぞ。
「ネ、ネロ嬢。ドレイク殿はこう言っているが、実際にできることなのでしょうか……?」
「え、えっと、大丈夫です、できます。な、なんなら少し時間をいただければ、50体くらいはまだ増やせるかと」
「増えちゃうのっ!?」
「す、すげえな。いや、本当にすごい。何なんだこれ」
3人が揃って驚愕……というかちょっと引いてる。
そんな中、ただ1人冷静に話を聞いていたロータスが口を挟んだ。
「殿下、落ち着きなされ」
「あ! う、うん。じゃない、うむ。あまりにも衝撃的な話で我を失ってしまったのじゃ。許してくれ」
すーはーと息を吸って吐いて、やっとのことで落ち着きを取り戻したエレアは居住まいを正す。
「少しやり過ぎな感はあるが、朗報じゃな。アンデッドを解き放てば混乱を招くじゃろうから、事前に民衆に周知せねばなるまい。しかし、それさえしてしまえば対魔族においてこれほど頼もしいものはない。ネロ、頼んでもよいか?」
「は、はい。任せてください!」
「うーん。可憐であり、そして恐らくもあり……ネロ嬢はやはり素晴らしい女性だな」
「うへへ、僕、がんばりますね。レヴィさん!」
どうやら俺の提案は受け入れてもらえたようだ。
俺の案とはいえ、実際に一番頑張ることになるのはネロだから俺もできる限り協力してやらなきゃな。
睨みつけてくるユーディはもう無視だ。
「さて、話はまとまったな。わらわはこれから陛下へとレヴィの案も含めて諸々の報告をしに行く。これが通れば七竜伯はネロのアンデッドによる魔族対策を前提に、それでも対処できない強力な魔族を倒す役となるじゃろう。各々それを想定しておくように。細かな指示は追って伝えよう。では、解散じゃ!」
エレアがそう締めると、話し合いは終了となった。
「あ、レヴィさまっ!」
円卓の間を出てメリーネたちと合流する。
どうやら叙任式が終わった後は城の中の一室で俺たちの話が終わるまで待機していたらしい。
ここまで案内してくれた使用人が教えてくれた。
その辺のことを、エレアはちゃんと考えてくれていたようだ。
「悪い、待たせたな」
「待ってる間はお菓子もいただけたので大丈夫ですよ!」
「お前はそればっかだな……」
最初の頃は食いしん坊な面を隠そうとしていたような気もするが、どうやらもう隠す気はさらさらないらしい。
「レヴィさまとネロさんは、七竜伯の方々とお話をしていたのですよね。どうでしたか?」
興味津々に目を輝かせるメリーネに、さっきのことを聞かせてやる。
今後の魔族への対応や、ネロがアンデッドを国中に展開して対処するということも話してしまった。
メリーネであれば話しても問題ないだろう。
しかし、メリーネがより興味を持ったのは七竜伯の人物についてであった。
「わあ、『山割』って本当に身長がすっごく高いのですね!」
「ああ、2メートルはあったな。見た目はなかなか威圧感あるが、話した感じは悪い人ではなかったよ」
俺たちを歓迎してやると言ってくれたり、マックスをダチと呼んで憤ったり。
人は見た目で判断しちゃいけないという良い例だ。
「それに『聖騎士』がネロさんにナンパを……なんかイメージと違います!」
「アレはなあ」
ユーディも悪いやつではない。
ただ、女を前にしたらすぐにナンパしてしまう変人ってだけだ。
……うん、やばいやつだな。
悪いやつではないけど、やばいやつだ。
だけどもしメリーネのことをナンパしたら殺すけど。
「ロータス様も元気そうだった」
「師匠にも久しぶりに会いたいなあ。今日、この後にある記念パーティで会えますでしょうか?」
「会えると思うぞ。向こうもメリーネに会いたがってた。この間の学園でのこと、褒めてやるってな」
そう言ってやるとメリーネは嬉しそうに笑う。
ロータスには本当に世話になったからな。
今のメリーネの強さも、俺が彼女と婚約できたのもロータスのおかげだ。
今夜、俺とネロが七竜伯に就任したことを祝う立食パーティが開かれる。
俺としては方々の貴族と話したりなど面倒くさいが、主賓が出ないわけにもいかない。
まぁ、メリーネが楽しみにしてるから良いかな。
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