提案
そも『魔王』とは何なのか。
この世界では一般的に伝承として語られる存在で、眉唾と思われながらも恐怖の象徴として認識されている。
神出鬼没である魔族の親玉で、人類の破滅を願う世界の敵。
言い伝えの中でだけ語られ、この世の誰もがその存在を見たこともない終末のシナリオ。
「へぇ、『魔王』か。だがよ、そいつは本当にいるのか? オレ様も『魔王』の伝承は知っているが、そんなのをまともに信じてるやつなんてほとんどいないぜ?」
「『魔王』はいるぞ」
魔族の実在は知られていても、歴史上にその姿を見せたことのない『魔王』の実在はあまり信じられていない。
だからこそだろう。
半信半疑といった様子のスターを見て、俺は思わず『魔王』の存在を肯定する言葉を発してしまった。
「ドレイク殿は『魔王』を信じているのですか?」
「……信じている、というか確信してる。知っての通り、俺は『竜の剣』として多くの魔族と戦ってきた。その中で『魔王』の名は魔族の口から何度も聞いてきたんだ」
ユーディの問いかけにそう答える。
本当はそんな曖昧な情報ではなく、ゲームの知識による確信なのだが。
これは、注意喚起するには良い機会だな。
七竜伯の実力は人類最高峰で、侯爵級以上の魔族が相手でも戦えるほどの強さの者しかいない。
しかし過去の魔族の出現頻度を考えると、七竜伯と言えどそれほど多く戦ったことのある人はいないはずだ。
だからここで警鐘を鳴らす。
この中の誰よりも魔族と戦ってきた俺だからこそ、言葉に説得力を持てる。
「魔族が『魔王』について言及することはさまざまだが、その中でもとくに気になる言葉がある。曰く、『魔王の復活は近い』と」
「!」
俺の言葉によって、円卓の間に緊張感が満ちる。
「そしてもう一つ、決定的なことがある。俺がこの力、神器を手に入れた時の話だ」
白銀色の右手を隠す手袋を外す。
「ここにいる人はみんな知ってる思うが、神器を授かる際に女神様と直接言葉を交わす機会がある。俺はその場で、1つの神命を受けたんだ。『魔王を倒し、世界の滅びを覆せ』と」
「……そうか」
俺の言葉を聞き終えたエレアは、背もたれへとグッと体を預けると力を抜くように息を吐く。
「王家に秘匿される禁書に『魔王』の記述は多くある。わらわが『魔王』による滅びのシナリオを信じているのは、それらの存在を知っているからだった」
「レヴィ殿の話と王家に秘匿される禁書。これだけの情報があれば、事実なのでしょうね」
「竜王女様よ。その禁書とかいうやつ、オレ様たちも見ることはできるか?」
「うむ。七竜伯であれば問題はなかろう。あとで陛下に掛け合ってみるのじゃ」
エレアたちが真剣な顔で話し合う。
これで上手いこと『魔王』の実在を信じてもらうことはできたかな。
七竜伯がこの事実を知っていることで、きっとこの先の運命が少しくらい良い方向に進んでくれるはずだ。
と、そんなとき。
ロータスが俺へと問いかける。
「レヴィよ。この中の誰よりも多くの魔族を屠ってきたお前に聞きたい。『魔王』の強さをどう見る?」
俺はその言葉に少し悩む。
ゲーム知識によって『魔王』の正体も強さも知っている俺は、この問いに正確に答えることができる。
だけどそれを言ってしまえば、いったいどこで知った知識なのかと追求されてしまう。
誤魔化すことはできるかもしれないが、よりにもよって七竜伯に怪しまれるのは困る。
前世の記憶なんて語ったところで、誰が信じるというのか。
「…………まず、前提として魔族の強さを。最下級の男爵級が、A級魔物と同等。それから爵位が上がるたびに強さも上昇し、伯爵級でSS級魔物相当。侯爵級で、七竜伯と戦えるほどの力を持ちます」
「ふむ、では公爵級は?」
「七竜伯と同等かそれ以上。学園に現れた個体――『変態』や『聖女』の力を行使する公爵級魔族オールヴァンスは、俺と『二代目剣聖』で協力して戦ってなんとかって感じでした」
結局、俺はゲームの知識を言うのはやめた。
代わりに実際にこの世界で経験し、体験してきたことを元に説明する。
ゲーム知識を使うよりも言えることは減るが、実体験を元にしているのだから情報の確度はこっちの方が高い。
これはこれで悪くないはずだ。
「レヴィ。『二代目剣聖』はどのくらいの強さなんだ?」
「七竜伯に並ぶほどの強さと思ってもらってもいい」
「おいおい。なら、公爵級で七竜伯2人分かよ」
スターが驚愕する。
実際は、オールヴァンスは公爵級魔族の中でも最強と言えるほどの強さだった。
だから公爵級魔族全員が七竜伯2人分の強さがあるかというと、全然そんなことはない。
七竜伯と同等、2人でかかればおおよそ勝てる。
公爵級魔族の強さの指標はそんな感じだ。
だけどわざわざ訂正する必要もない。
どうせ直接戦わなければ適切な戦力評価はできないのだから、過小評価するくらいなら過大評価した方がいい。
「そんなわけで、『魔王』の強さはそれ以上ではないかと予想しています。七竜伯級の戦力が、最低でも4人は必要になりそうですね」
「4人か。そう聞くと何とかなりそうではあるの」
エレアは俺の言葉に少しホッとした様子で言った。
4人というのはゲームでの主人公パーティの最大人数である。
それから導き出したおおよその目安。
ゲームでの決戦時には、ジークたちの強さも七竜伯と同等以上になるので戦力評価として的外れではないはず。
これはゲーム知識からの情報ではあるけど、公爵級の強さから推測できる範囲のことなので問題ないだろう。
「とはいえ、『魔王』と戦う際には周囲に他の魔族が何体もいるかもしない。オールヴァンスとの戦いでも、3体の侯爵級を含めた100以上の魔族がいたからな。その渦中で『魔王』相手に七竜伯4人を当てることができるかだ」
「なるほど、楽観はできないと。……レヴィ、貴重な情報を感謝するぞ」
これでとりあえず話せることは話せたかな。
「レヴィの話してくれたこと。魔族の出現数が激増していること。これらのことから『魔王』との戦いの時が近いと予想できる。わらわたち七竜伯はそれを未然に防ぎ、あるいはすぐに対処できるように動いていかねばならぬ」
「具体的にはどうすんだ?」
「出現する魔族の討伐、後進の育成や民衆への喚起、他国にも警鐘を鳴らしていく必要があるの。七竜伯の役目は、主に魔族の討伐じゃ。今後、みなには自由に動いてもらおうと思う」
「要するにドレイク殿たちが行っていた『竜の剣』と同じ活動を、我々も行うということでしょうか」
「うむ、そうじゃな。王都の守りを担うわらわと、学園にて後進の育成と保護を担うフロプト以外は全員で魔族を倒して回る」
大きく出たな。
だけど実害がすでに出た以上この動きは当然と言える。
きっと、七竜伯という特級戦力が飛び回ることに苦言を呈する危機感の足りない貴族などが出てくるだろう。
『竜の剣』が自由に動けたのは、俺たちの強さが知られていなかったからこそ。
同じことを七竜伯でやれば反対や不満が出る。
だが、陛下はそのすべてを無視して押し進めるつもりなのだ。
これは俺にとって朗報だ。
陛下のお墨付きでなりふり構わずやっていいというのであれば、一気に盤面をこちら側有利に動かす方法がある。
「それならエレア、俺からひとつ提案がある」
「ん、言ってくれ」
円卓の間の全員から注目が集まる中、俺はその提案を口にした。
「『冥黒』、ネロの力を使うんだ」
「!? ぼ、僕ですか!?」
俺へと集まっていた視線が、その隣のネロへと。
今まで黙って話を聞いていたネロだったが、突如注目を集めることになり目を白黒させた。
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