今後の方針

「まずは、みんな今日はよく集まってくれたのじゃ」


 スター、ユーディ、ロータス。

 やってきた3人が円卓に座り6つの席が埋まると、エレアが最初に口を開いた。


「新メンツの叙任式と顔合わせだぜ。んなもん、このオレ様が直々に歓迎してやんなきゃだろ」


「叙任式も見事なものでした。ドレイク殿は、さすがはかの侯爵家の跡取りといった堂々とした態度で……本当にムカつきますね」


「殿下のお呼びとあれば、ワシはいつでも馳せ参じましょう。特に、戦場であれば遠慮せず真っ先にワシを呼ぶようにお願いしますぞ」


 机に頬杖をつきながらという不真面目な態度だが、俺たちをちゃんと歓迎してくれるらしいスター。

 ぎりぎりと歯軋りしながら睨みつけてくるユーディと、戦闘狂の面を滲み出してくるロータス。


 この3人の中で一番まともなのが、見た目がめちゃくちゃ怖いスターというのがおかしな話である。


「うむ。今日集まってもらったのは、2人の顔合わせと今後の方針を決めるためじゃ。……まずは、レヴィとネロが七竜伯に加入した経緯から改めて話すとしようか――」


 そう前置きをしてエレアが語り出す。


 元七竜伯の『聖女』と『不滅』の失踪から始まり、『変態』を乗っ取っていたオールヴァンスの暗躍。

 魔族による学園への襲撃。

 俺たち『竜の剣』がそれを撃退し、被害を負いながらも学園を守りきったこと。


 聞いている限り、ほぼ事実のまま。

 あの日の詳細はフロプトにすべて語ったが、しっかりとエレアのところまで伝わっているようだ。


 俺たちとエレア以外の3人もすでにある程度聞いていた話のようだが、より詳細な情報ということで真剣な表情でエレアの話に耳を傾ける。


「――とまあ、そんな感じじゃな。結果として、『聖女』と『変態』は死亡。『不滅』は封印という話だが、捜索は続けるとして見つからないことにはどうしようもない。故に、新たに『白銀』と『冥黒』を召集し『剣聖』を呼び戻したという経緯じゃ」


「チッ、マックスの体を奪って好き勝手しやがって。アイツは変なやつだが悪いやつじゃなかった。オレ様のダチだったんだよ。クソが!」


「不甲斐ない話です。プロテーン殿が乗っ取られていることに気づかなかったのも、魔族の暗躍を許し多くの民が被害を被ったことも。本当に、我が身が不甲斐ない」


 スターがやり場のない怒りに吠え、ユーディは表情を暗くして己を恥じる。


「たしか、『竜の剣』は『賢者』――ルパンデュ様直下の対魔族部隊でしたか。ドレイク殿、ネロ嬢、不甲斐ない我らに代わって今回の事態を解決していただいたこと、感謝いたします」


「ユーディの言う通りだな。オレ様の手でダチと仲間の仇を取れねェのは残念だが、よくやってくれたぜ」


「七竜伯の3人を討った公爵級魔族を討伐するなぞ、お主らの力はもうワシを超えているかもしれんな。よくそこまで努力した。あとであの弟子も褒めてやらねば」


「うむ。レヴィたちのおかげで、学園都市の壊滅という最悪の事態は免れた。オールヴァンスを討ってくれなければ、今でもわらわたちは『変態』に化けた魔族の正体に気づかないまま暗躍を許していたかもしれぬ。何もかも、レヴィたちがいてくれたおかげじゃ。感謝する」


 4人から一斉に礼や称賛の言葉を告げられ、俺はなんとなく居心地が悪い思いをしながら返す。


「できることをしたまでです。結果的に街を救うことができて、よかった」


「素晴らしいですね。その謙虚な姿勢、騎士の模範にもなれるような姿です……それはそれとして、ネロ嬢のような可憐な女性と親しいのは度し難いですが」


 賞賛したかと思えば急に俺を睨みつけてくるユーディ。

 情緒不安定かよ。


 だが、彼はこういうやつだから仕方ない。

 貴公子然としたイケメンでありながら無類の女好きで、美女がいれば即ナンパするような浮ついた性格。

 しかしなぜか今まで女性と上手くいったことが一度もなく、モテる男を見れば嫉妬せずにはいられない困ったちゃん。


 根は真面目で責任感のある心優しい男であり、『聖騎士』の名をいただく七竜伯の強者。

 しかし、残念なイケメン。


 ゲームのユーディ・ルノワードはそんな感じのキャラで、レヴィと同じネタキャラとしてファンに愛されていた男である。


「ネロ、可憐な女性だそうだぞ」


「え、えーと、そうなんでしょうか? レヴィさんは、どう思いますか?」


「まぁ、見た目は良いんじゃないか?」


「! う、うへへ……やったあ」


 見た目はね、見た目は。

 だって中身は男だし……いや、本当に男なのか?

 最近なんか怪しく思ってきている俺がいる。


「う、羨ましすぎるぞレヴィ・ドレイクぅ……!!! きーーーーっ!!」


「うわ、めっちゃ睨んでくる」


 ハンカチを噛んで『きーっ!』なんて言うやつ、初めて見たよ。


「こほん。ユーディはその辺にしておいてくれ。次に、これからの七竜伯の方針を話すのじゃ」


 エレアが言うと、ユーディは俺を睨みつけるのをひとまずやめて彼女の方へと向き直る。


「まず、今回の事態を受けて七竜伯はこれから積極的に動くこととなった」


「積極的に、ですか。今までは立場上なかなか動きが取りづらかったのですが、魔族による学園都市の襲撃を受けてその制限は外れたと。そういうことでしょうか」


 ユーディの言葉にエレアは頷く。


「その通りじゃ。七竜伯が派手に動けば、国内の貴族や他国など多方を刺激することになる。故に、基本的に騎士団や宮廷魔法使いが対応できないような魔族や強力な魔物の出現時のみ動く存在となっていた。だが、もうそんなものを気にする状況じゃなくなったのじゃ」


 七竜伯は人類最高峰の七人の強者。

 きっと圧倒的な力を持つがために、かえってヘタに動くことができない不自由さがあるのだろう。

 端的に言うと、七竜伯は抑止力のようなものなのだ。


 国王陛下が七竜伯という力を所持していることで、王国内の貴族が反乱したり違法行為を行ったりといったことをする可能性が激減する。

 他国がエレイン王国へと攻め入ることも少なくなる。


 結果として、七竜伯はただそこにあるだけで国内の治世を安定化させ周辺国家の平和へと多大に寄与する。

 七竜伯とは、そういう存在。


「抑止力は行使されないからこそ価値がある。だが人類にとって絶対の敵である魔族が活発に動いている今、最高戦力たるわらわたちもまた動かなくてはならぬのじゃ」


 エレアはさらに続ける。


「それに……何かがある。本来は魔族なんて、大陸で数年に一度出現するかどうかといった存在じゃ。それが、この1年であまりにも多く現れている。どう考えてもおかしいじゃろう」


 俺たちが『竜の剣』の任務として今まで狩ってきた魔族の数は、少なくとも200はある。

 学園襲撃の際だけでも100を超えていた。


 魔族についての情報をあまり知らない一般人はともかくエレアのような立場のある人間は、これに違和感を覚えないわけがないよな。


 ゆえにこそ、導き出される答えは――


「まず間違いなく、伝承に語られる終末論――魔族の親玉たる『魔王』による滅びの時が近い」


「――!」


 エレアの言葉に、一同が息を呑んだ。

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