七竜伯集結!(6人)
「おお……」
俺は少し感動していた。
ゲームでこの円卓の間に入るのはまさに魔族との戦いの最終局面。
終盤も終盤。
エンディングへ向かって、ここを拠点として作戦を立てていくのだ。
新しく『エレイン王国物語』を周回するたびに、この部屋が出てくると気が引き締まるというか何というか。
そんな、終盤の象徴となるような場所がここなのだ。
「な、なんだか。いよいよ僕たちも七竜伯になったんだなって、実感が出てきますね……?」
「だな」
ネロの言葉に頷く。
と、そんなことを考えながら部屋の入り口で突っ立っていると、すでに円卓に着席していたエレアが手を振った。
「いつまでそこにいるのじゃ! 早よ座れ!」
「あ、うん」
言われた通りに座る。
かなり質の良い椅子で、ふかふかである。
「……なんでそんな遠くに座るのじゃ」
「え、だって新人だし」
不満気にこちらを睨むエレア。
最奥にエレアが座り、俺とネロは部屋の入り口にもっとも近い席へと座った。
席順はこれで良いはずである。
しかし、エレアはお気に召さないらしい。
「新人とかなんとか関係ない! 七竜伯はみな対等だ。一応わらわが代表ではあるが、身分的にも役職的にもそこに上下の差はない。だからわらわの隣に座るのじゃ! 避けられてるみたいでなんか嫌じゃ!」
それはそうであるが。
というのも、七竜伯は役職であると同時に国内最高位の爵位でもあるのだ。
エレイン王国において王の次に来るのは、王太子でも他の王族でもなく七竜伯。
七竜伯は王の王権――力の根拠であり、王以外には仕えることのない王直族の臣下とされる。
そして王とはすなわち国家そのもの。
つまり七竜伯は、他の王族や貴族には決してなびくことはない国家にのみ忠誠を誓う真なる貴族なのである。
……とまあ、実際のところはそこまで厳しくはない。
そんなことを言い出したら、ドレイク侯爵家の次期当主である俺なんて七竜伯になることはできないからな。
あくまで、そういうことになっているという話。
エレアが言いたいのは、王族も貴族も平民も同じ七竜伯であればそこには一切の上下がないということだろう。
「エレアがいいっていうなら、こっちとしてはどこに座ってもいいけど」
「ほれ!」
エレアが自分の隣の席をバシバシと叩いて主張する。
まあ上座とか下座とか面倒くさいから、その辺が緩いのであれば俺としても楽でいい。
俺は苦笑して、言われるがままに彼女の隣に座った。
「まったく。それで良いのじゃ」
「はいはい」
不満気に頬を膨らませるエレア。
その頭をなんとなく撫でてみると、彼女は特に抵抗することはなく受け入れた。
相変わらずのふくれっ面だが、少し口元が緩んでいるからもう機嫌は治ったかな。
普段は威厳ある姿を見せるし、七竜伯としての役割を見事にこなすエレアだがそれでも13歳の少女。
こういうところは年相応な子どもだな。
ゲームでエレアの複雑な人となりを知っているからか、なんとなく妹のように甘やかしたくなってしまう。
「あ、あのレヴィさん。僕も」
「ええ……」
俺がエレアの頭を撫でるのを羨ましそうに見て、自分もと言ってくるネロに困惑していると部屋のドアが開く。
「よお、来たぜ」
「お待たせいたしました、殿下」
「ほほ、ここに来るのも久しぶりじゃのう」
部屋へと入ってきたのは3人の男だった。
禿頭、顔の大きな傷痕に四白眼の凶悪な人相。
ラフな恰好をした2メートル超えの巨漢――『山割』。
三つ編みにした長い金髪、鋭い碧眼。
騎士服を着た貴公子――『聖騎士』。
そして、俺も良く知る老剣士――『剣聖』。
「お、来たな。フロプトのやつは今日は来ないからこれで全員集まったの」
おお、圧巻だ。
ここに案内されたということは、彼らも来ることは何となくわかっていたがこうして揃うと感動だな。
っと、黙っていてはダメだな。
俺は立ち上がって、3人へと声をかける。
「初めまして。ロータス様はお久しぶりです。本日付で陛下より七竜伯へと任ぜられました。『白銀』レヴィ・ドレイクです。よろしくお願いいたします」
続いて、ネロもハッとした様子で立ち上がる。
「ぼ、僕はネロ・クローマです! へ、陛下からは『冥黒』と名付けられて……あの、そのえっと……よ、よろしくお願いします!!!」
俺たちが名乗ると、やってきた3人も名乗り返す。
「おう、よろしくな。オレ様はスター・グランデ。二つ名は『山割』だ。ま、せいぜい仲良くやろうぜ?」
「お二人とも、ご丁寧にありがとうございます。私はユーディ・ルノワード。陛下より『聖騎士』の名を拝命しております。以後、お見知り置きを」
「ワシの自己紹介は今更いらんじゃろ。レヴィ、ネロ。久しぶりじゃな。実力は十分だと思っておったが、存外ここに来るのが早かったのう」
自己紹介は順調に済んだかな。
――なんて、思った矢先のことであった。
高速で俺たち、というかネロの前へと滑り込むように飛び込む1人の影。
その男――ユーディは見た目通りの優雅な所作で颯爽と跪き、ネロへと手を差し伸べる。
「ああ、麗しい君よ。君の漆黒はこの世のどんな宝石よりも輝かしく、どんな花よりも気高く美しい。素敵なカフェを知っていてね。ネロ嬢、どうか私とこの後――」
「え、や、えっと嫌ですけど。別に、お腹そんなに空いてませんし……」
「おっと、そうだったか。私としたことが失礼したね。それならば、劇場はどうだろうか。最近、素敵な恋物語の演目が流行っていてね。ぜひ、君と――」
「げ、劇場ですか? うーん、レヴィさんが一緒なら。うへへ、レヴィさんと一緒に恋物語……」
「っ!?」
初対面でいきなりネロをナンパするユーディ。
自身がナンパされたなんて意識なんてなく、眼中にないような態度で普段の調子で答えるネロ。
そして、なぜか鬼のような形相でユーディに睨まれる俺。
「うーん、カオス」
俺はひっそりとため息を吐いた。
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