決定

「さて、本題に入ろうかの」


 俺たちの対面へと座ったエレアが切り出す。


「単刀直入に言おう。わらわはお主たちの中から2人を新たな七竜伯として迎えようと思っておる」


「ほ、本当にわたしたちが七竜伯になれるのですね」


 メリーネがきらきらと目を輝かせる。

 英雄に憧れていた彼女自身が、誰もが認める英雄である七竜伯になる。

 きっと、これほど嬉しいことはないのだろう。


「2人か。欠けたのは3人だが」


「ああ、1人はすでに見つけている。多分、お主らも知っている人物じゃよ」


「わたしたちが知ってる……もしかして、師匠ですか?」


「そうじゃ。あやつは全盛期より衰えたとはいえ、未だ健在。長く七竜伯の座に座っていた『剣聖』の復帰は民も喜ぶじゃろう」


 納得の人選だな。

 俺たちから七竜伯を募るにしても、存命の元七竜伯がいるのだからまずはそっちをあたるのが普通だ。


 ロータスとはたまに連絡を取っているが、今もアルマダでドレイク家の食客として滞在しているようだ。

 手紙には毎度のように俺の妹たちがかわいくて仕方ないと書かれていて、隠居生活を満喫している様子が伝わってくる。


 ロータスが七竜伯復帰にどう思うのかはわからないが、召集されればまあ普通に復帰するよな。

 今は子どもを可愛がる優しい爺さんだけど、根っこは変わらず戦闘狂だろうし。


「ふ、2人となると……レヴィさんは当然として。あともう1人はどうしますか?」


 俺は当然なのか。

 まあ別に否やはないけど。


「メリーネ、やるか?」


「え、わたしですか!?」


「そんなに驚くほどのことじゃないだろ」


 俺の言葉にびっくりした様子を見せるメリーネ。

 英雄に憧れているメリーネだし、やりたいと思ったのだが違うのだろうか。


「わ、わたしが……七竜伯に……」


 なぜか即決せず、メリーネはうんうんと考え込む。

 急かす必要もないから、俺たちは彼女の考えがまとまるのを待った。


 しばらくしてメリーネが顔を上げる。

 どうやら考えはまとまったようで、その目には迷いなどはなく晴々としていた。


「せっかくですけど、わたしは辞退します!」


「いいのか? 英雄に憧れてたんだろ」


「いいんです! たしかに英雄への憧れはありますけど、それは今は置いておきますっ!」


 まあメリーネの実力があれば、七竜伯にならずともいずれ英雄と呼ばれるようになるかもしれないか。

 というか『二代目剣聖』でもすでに相当な勇名だ。


「やっぱり、わたしの居場所はレヴィさまの隣ですから! 七竜伯になるより、いつまでもレヴィさまのおそばで力になりたいです!」


 メリーネの堂々とした宣言。


 たしかに七竜伯になれば別々の任務で離れて活動することもあるだろう。

 それを考えての言葉。

 あくまでも俺の護衛をまっとうしようという意思表示。


 憧れた英雄になるチャンスを捨ててまでこれほどのことを言ってくれるのは、俺としてもかなり嬉しかった。


「では、後はネロとスラミィじゃな。どちらが七竜伯になる?」


「あれ、スラミィでもいいの?」


「ん? 別にダメな理由はないじゃろ。フロプトからはお主らの誰が七竜伯になっても、実力的に十分と太鼓判を押されておるぞ。『竜の剣』の実績で考えても問題はあるまい」


「だって、スラミィはま――んぐっ」


「……ま?」


 口走ろうとしたスラミィの口をとっさに塞ぐ。

 スラミィが魔物だという事実は、エレアにはいずれ伝えるつもりだが今はダメだって。

 周りに人が多すぎる。


 俺は訝し気な目を向けてくるエレアに言う。


「スラミィが七竜伯になるのは少し問題があるかもしれないんだ。理由は後で話す」


「ふむ、よくわからぬがわかったのじゃ」


 エレアはとりあえず納得してくれるようなので、ひとまずはこれでいいかな。

 ちなみに言葉遣いとかは普段通りでいくことにした。


 本人がそれでいいって言うし、フランクにしてくれっていう要望通りにしてやる。

 俺のことを『二代目変態』扱いしたことは許さん。


「となると……」


 エレアが呟き、視線を変える。

 その先にいるのはネロだ。


「ネロ、お主がもう1人の七竜伯で決定じゃな」


「ぼ、僕なんかが七竜伯……そんな大役に」


「メリーネは辞退。スラミィはなんぞ理由があって七竜伯にはなれない。となれば、後の候補はお主しかいないのじゃ」


「た、たしかにそうですけど」


 ネロがカタカタと震える。

 プレッシャーに感じているだろうけど、それは俺も同じ気持ちだ。

 俺だって、まさか自分が七竜伯になるなんて今まで想像もしていなかった。


 だけど、ネロは適任だ。

 今の七竜伯の中にネロのようなタイプはいないから、きっと七竜伯として多大な貢献ができるはず。


「ネロ、一緒に頑張ろう」


「! うへへ、レヴィさんと一緒……がんばります!」


 あれ?

 プレッシャーに潰れないかと思って声かけたのだが、一瞬で立ち直ってしまった。

 むしろ笑みを浮かべて嬉しそうですらある。


 まぁ、本人がいいならいいんだけど。

 よくわからん。


「よし、決まったな! 新たな七竜伯には、レヴィとネロに就任してもらうのじゃ! 後で陛下より正式な叙任式があるゆえ、追って連絡しよう」


 エレアのその言葉を最後に話し合いは終わった。

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