俺が反抗期になったらこの家消し飛ぶからな

「まさかレヴィが七竜伯になるとはなあ。天才だとはわかっていたが、ここまでとは」


「俺もびっくりしてます」


「なんだその口ぶりは。……冗談で言ってるのか本気なのかわからんな」


 エレアとの話し合いの後、俺たちは学園に戻らずに王都にあるドレイク邸へと帰ることにした。

 七竜伯への叙任式が終わるまで、しばらくの間は王都に滞在する予定だ。

 学園に戻ってもどうせまた来ないといけないから手間だし。


「だが、お前の活躍は陛下からよく聞いていた。たしか『竜の剣』だったか? 陛下もたいそうお喜びだぞ」


「父上は、国王陛下と親しいのですか?」


「ああ、学園の同期でな。今はさすがに頻繁には会えないが、たまに酒を飲んだりする仲だ」


 これは意外なところの繋がりだ。

 ゲームではレヴィの父親のことなんて語られなかったから知らなかったが、まさか友人関係だったとは。


 たしかに歳は同じだが。

 びっくりである。


「学園にいた頃は身分差を考えずあいつとバカをやったものだ。お前も、学園で作った仲間は大切にしろよ」


「学園の仲間……」


 そんなこと言われても全然思いつかない。

 そもそも俺はすでに入学初日に学園を卒業した身で、ひたすら魔族を狩りまくる日々だった。


 かろうじてジークたちだろうか。

 学園らしいことって全然やってないし、あの場で知り合った同年代はあいつらくらいだけだ。


 楽し気に昔を語る父上だが、俺は共感できなさそう。

 まぁ俺にはメリーネたちがいるし。

 いいし。別に。


「っと、話が逸れたな。昔話は今はいい。叙任式の日にちはまだ決まってないんだよな」


「はい。エレアからは追って伝えるとだけ」


「そうか。ところで、殿下のことを呼び捨てなのだな。仲良くなれたか?」


「まあ多分、それなりには。まだ初対面ですのでなんとも言えませんが」


「……これを俺が言うのは不敬かもしれんが、殿下はあの見た目通り子どもだ。王家の竜の力を継承した者として相応しく立派な方ではあるが、それはそれとして悩みや苦労もあるだろう。同じ七竜伯という立場で、歳も近いお前がよく支えて差し上げろ」


 父上の言葉に頷く。


 冷静になって考えれば、13歳の少女が人類最強の名を背負ってるなんてあまりにも異常。

 エレアは王族だが、それと同時に父上にとっては友人の娘でもあるのだ。

 彼女の立場や境遇を心配しているのだろう。


 言われずとも、こうして知り合った以上はエレアのことをできる限り支えてやりたいと思う。

 ゲームでの彼女を知っているのだから尚更だ。


 エレアはからな。


「それと、まだ先の話になるがレヴィは侯爵家の家督をどうするつもりだ。七竜伯のまま侯爵位も継ぐのか?」


「いえ。俺が家督を継ぐのは少なくとも10年は先ですよね。であれば、そのときには俺は七竜伯をやめてると思います。なので家督について心配することはないですよ」


「え、やめるのか?」


 父上が目を丸くする。


 いずれ七竜伯をやめる。

 これに関しては決定事項だ。というか10年後と言わず、5年もしないうちにやめるつもりでいる。


 七竜伯の立場があってはメアリとの約束が果たせないし、5年後にはおそらく魔族との戦いは終わっている。


 その頃にはジークたちも強くなっているだろうし、後は彼らにバトンタッチしてしまえばいいのだ。

 ジークは原作でもルートによって七竜伯になるのだから、俺なんかよりよほど相応しいだろう。


 世界を救うため魔族とは戦う。

 女神から与えられた役目だし、大切な家族や仲間たちを守るためにも俺はやり切る。

 だけどその後は、せっかくの大好きな世界に転生したのだから冒険の旅とかを自由に満喫したいのが本音。


 わがままかもしれないが、それくらいのご褒美はもらってもバチは当たらないはずだ。


 魔族との戦いに勝って、仲間たちと世界を冒険して、やがて王国に戻ったらドレイク家を継ぐ。

 それが俺の今のところの人生設計だから。


「やめます。なので、そのあたりのことは気にしなくても大丈夫ですよ」


「そうか……もったいないとは思うが、レヴィが決めたというのなら何も言わん」


「侯爵家の権勢を考えれば、七竜伯のままであった方が箔が付くので少し悪い気がしますが」


「そこに関してはどうでもいい。元七竜伯というだけでも十分な箔になる。そもそも、ドレイク侯爵家は王国有数の貴族家だ。元より箔など掃いて捨てるほどある。お前が侯爵家の方に専念してくれるというのなら、そっちの方がありがたいくらいだ」


「それは……まあ血族が少ないですからね」


「まったく、それに尽きる。ロベルトの病気がお前のおかげで完治したからかなり楽になったが、それでもまだ手が足りん」


 父上は、叔父上の病気がエリクサーによって完治していることを知っている。

 スラミィがエリクサーを量産できることを最初は隠しておこうかとも思ったが、さすがに父上には知らせておくことにしたのだ。


 というか、学園での魔族襲撃でエリクサーを使いまくったからもう隠す意味もあまりなくなってしまったけど。

 

「だから、レヴィは側室をとってもいいんだぞ」


「……またそれですか」


 父上がにやにやと笑みを浮かべて言ってくるので、俺はこれ見よがしにため息を吐いてやった。


「何度も言ってますが、俺はメリーネ以外と結婚するつもりはありません」


「たしかに、何度も聞いてるな。だがお前がそのつもりでも、そのつもりじゃないやつがいるだろ?」


 やたらと好意を示してくるイブやネロの姿が脳裏に浮かぶ。

 だけどやっぱり、俺はあいつらを側室になんて気にはなれない。


 俺が結婚するのはメリーネだけでいい。


 血族が少ないドレイク家を安泰にさせるために言っているのはわかるが、だったら父上が側室を作ればいいのに。

 これも親心なのだろうか。

 親心からのおせっかいをうっとうしく思うのは、どこの世界でも同じだな。


「もういいでしょう。話は終わりです。とにかく、そんなわけで俺たちはしばらくここに滞在するつもりですので、そのようにお願いします」


「なんだ、素っ気ないな。フッ、もしかしてこれが反抗期というやつか?」


「なんで楽しそうなんですか……ただ呆れてるだけですよ。俺は部屋に戻ります」


「父は悲しいぞ」


 ダル絡みしてきやがって、マジで反抗期になってやろうか。

 俺が反抗期になったらこの家消し飛ぶからな。


 ため息を吐いて部屋へと戻った。

 久しぶりの家で過ごしたその日は、とてもよく眠れた。

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