最強の魔族

「ぶっ飛べ!!!!!」


 今までで最大威力の『魔力砲』を放つ。


「っ!」


 驚愕の表情を浮かべるオールヴァンスが、ジークにトドメをさすよりも一瞬早く。

 俺の放った『魔力砲』によってオールヴァンスとジークが吹き飛んだ。


「メリーネ!!」


「はいっ!!」


 メリーネの名前を呼ぶ。

 それだけで明確な命令もないまま俺の意思を汲み取ったメリーネが、元気な返事とともに吹き飛んだオールヴァンスへと斬りかかっていく。


 いかにメリーネといえどオールヴァンスを1人で倒すことは難しいだろう。

 だけど少しだけ時間を稼いでくれればそれでいい。

 その少しの時間が、未来を救うことに繋がる。


 オールヴァンスの足止めをメリーネに任せ、俺は急いで吹き飛んだジークの下へ。


「ジーク……」


 ジークの姿は悲惨の一言。

 オールヴァンスに貫かれた胸には大穴が空いていて、呼吸が止まっている。

 というか、心臓が無いようだ。


 刺された位置は心臓とは違っていたが、俺の魔法で吹き飛ばされる直前にオールヴァンスが奪ったのか。


 加えて俺の『魔力砲』によって全身の骨がめちゃくちゃに砕けているようだし、右脚と右腕が吹き飛んでる。


「間に合ってくれ」


 俺は『影収納』からエリクサーを取り出す。

 これほどの怪我でも、心臓が奪われていたとしても。


 まだ死んでさえいなければ、エリクサーですべて回復することができるはず。


 望みは薄い。

 だが、俺は一縷の望みに賭けてジークへとエリクサーを使用した。


「! 間に合ったか!」


 ジークの体はみるみる回復していく。

 失われた右脚と右腕が再生し、胸の大穴が塞がり、全身の砕けた骨が元に戻る。


 おそるおそるジークの胸へと手を当てると、そこになかったはずの鼓動がたしかに動きだしていた。


「本当に、よかった」


 俺は安心してホッと一息つく。


「レヴィさん、ジークは!!」


 青い顔をしたアネットとエミリーがやってくる。


「生きてる。何とか治癒が間に合った。今は気絶しているようだが、そのうち目覚めるはずだ」


「よ、よかった〜!」


「あ、焦りましたわ。何から何まで、レヴィさんには感謝しかありません。きっと高価な魔法薬を使ってくださったのですよね? お礼はいずれ必ずします」


「礼はいらない。ジークが生きているなら十分だ」


 こいつが生きていれば、それだけでエリクサーなんて比較にならないほどの価値がある。


 そもそも今回の学園襲撃で、ネロとスラミィがすでに湯水の如くエリクサーを使っているだろうから今更だ。


「それより、2人はジークを連れて離れていてくれ」


「レヴィさんは、戦うのですね」


「ああ。あいつは危険だ。何としてもここで倒す」


 ゲーム知識を持った公爵級魔族。

 そんな爆弾みたいなやつの存在は絶対に許せない。


「……何もできなくて情けない限りですが、ご武運を」


「がんばって、レヴィくん!」


「ああ、勝ってくる」


 短く言葉を交わし、ジークを連れて離れていくアネットとエミリーを見送る。


 そして俺はメリーネとオールヴァンスが戦う戦場へと向かった。


「レヴィさま! ジークさんはご無事でしたか?!」


「ああ、間に合った。メリーネの足止めのおかげだ」


「えへへ、がんばりました!」


 オールヴァンスの足止めを任していたメリーネ。

 見たところ大きな怪我はないが、多少のダメージはありそうだ。


 今のメリーネは『二代目剣聖』の名に恥じない強さを持つ。

 そんな彼女にダメージを与えられるのであれば、オールヴァンスの強さは相当なものだろう。


 俺は油断せず目の前の敵を睨む。


「あーあ、殺せなかったか。やっぱり、君に妨害されるんだよね。どれもこれも、ことごとく。本当に困るな」


「……まったく困ってるようには見えないがな」


 オールヴァンスは口では困るなんて言っているが、その顔にはニヤニヤとした笑みを浮かべている。


 ジークを殺し損なったのに、随分と余裕な態度だ。


 ふいに、オールヴァンスは手に握っていた何かを口の中へと放り込む。

 あれは……もしかしてジークの心臓か?


「んぐ、んぐ……まあね、今までいろいろ暗躍してきたよ。どれもこれも全部今日のためだった。だけど君のせいで全部失敗して、本当はもう少し潜伏していたかったのに表に引っ張り出されることになって」


 ジークの心臓を呑み込んだオールヴァンスは続ける。


「ぐだぐだになっちゃったけど、最初からこれでよかったかもね。だって、レヴィもメリーネもジークも『賢者』も他の七竜伯も、今の僕より弱いから。それならもう直接殺せばいいだけだ」


「やけになってるのか?」


「スマートじゃないよね。力押しなんて、僕の本来のやり方とは程遠い。でも、手っ取り早くはある。どうせ『変態』の正体がバレてこれ以上の暗躍ができなくなったんだから、それならいっそ好きなだけ暴れることにしようか」


 もともとは七竜伯という社会的信用のある立場を利用して、存分に暗躍することで俺たち人類の力を削ぐために動いていたオールヴァンス。


 だが俺たちの存在によって表に出て来ざるを得なくなり、であればいっそ暗躍をやめて力ですべてを解決しようということか。


「僕の権能は人間の体を奪い、魂を吸収することでその能力や記憶を得る力。この体――マックス・プロテーンの神器は以前言ったよね?」


「『絆の魔器』……だったか」


「そう。従属させた魔物の力を自身に加算する神器だ。だけど、僕が体を奪ったことでその力は変質した」


 オールヴァンスは自慢のおもちゃを見せびらかすように両手を広げ、楽しげに笑う。


「変質したマックスの神器――『魂の螺旋』とでも名付けようか。その能力は、僕が今まで体を奪い魂を吸収した人間の力を僕の魂の奥底から引き出す能力」


「過去の体の、力だと……?」


「僕の権能は、本来なら現在の体の力しか自由に使えない。だけど『魂の螺旋』はその制限を取り払う。僕にぴったりで、素晴らしい力だと思わない?」


 つ、と冷や汗が流れる。


 オールヴァンスの言葉が本当であれば、洒落にならない恐ろしい力だ。


 オールヴァンスはゲームでは暗躍タイプで、戦闘力に関しては奪った体に依存しそれほど強力な敵ではなかった。

 公爵級の中でも、最下位争いができる戦闘力。


 しかしその前提が、覆る。


「何人だ、今まで……何人の人間を」


 オールヴァンスは俺の言葉にニヤリと笑い返す。


「12066人」


「っ!」


「七竜伯『変態』を含めた、12066人分の人間の力が今の僕にはある」


 めちゃくちゃだ。

 本当にめちゃくちゃな数。これだけの人間の力を束ねたら、いったいどれほどの力になるというのか。


「今の僕は、間違いなく魔族の中で一番強い。単純な力でなら、魔王様にすら勝ってるだろうね」


 ――だから。

 そう言ってオールヴァンスは魔力を解放する。


 その魔力はあまりにも圧倒的で。

 俺と同等かそれ以上の、膨大で途方もない魔力量。


「――君たちも、ジークも、七竜伯も、『竜王女』も、この街も、あの城も、人類の未来も。すべて僕がこの手で壊してしまおうか」

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