急転
「メリーネの方も終わったか」
俺がアルムフリートを倒したのとほぼ同時にメリーネを閉じ込めていた結界が崩壊した。
中から出てくるのは当然メリーネだけだ。
あいつが今更侯爵級魔族に負けるとは思っていなかったが、1対2でも勝ち切るのだから頼りになる。
「レヴィさまっ! ご無事でしたか!」
「ああ。約束通り生きてるぞ。そっちも問題なく勝てたようで何よりだ」
「えへへ、わたしはレヴィさまの騎士ですから! 魔族に負けたりなんかしませんよっ!」
侯爵級魔族と2体1で戦ったメリーネだが、見た感じ目立った怪我をしている様子もない。
余裕を持って勝つことができたのだろう。
本当に強くなったものである。
「これで魔族は全滅ですよね。今回の魔族の襲撃は、これでひとまず解決でしょうか?」
「おそらく、な」
たしかに魔族はすべて排除した。
だが、どうにもこの事件の裏側で糸を引いている何者かの存在がチラつく。
七竜伯の2人の行方不明から始まり、俺たち『竜の剣』を遠ざけ、ガラ空きになった学園への魔族の襲撃。
さらに俺が間に合ったときへの対処として、天敵とも言える権能を持つアルムフリートをよこしてきた。
これで背後に誰もいないと考える方がおかしい。
アルムフリートも誰かに入れ知恵をされていた様子だったし、魔族を全滅させたとはいえまだまだ気が抜けない。
「レヴィさまは、まだ何かあると思ってるのですね」
「杞憂だと良いんだがな……まぁ、警戒したところでどうにもならない。怪我人も殺された人もいる。街はこんな状況だし、今はできることをしよう」
「……そうですね」
俺の言葉にメリーネは表情を曇らせて頷く。
ネロとスラミィの救出が間に合えば、死んでさえいなければどんな怪我でも治せる。
だけど死んでしまってはどうにもならない。
きっと、俺たちが間に合うよりも前に魔族に殺されて死んでしまった人も多いはずだ。
さらに、この街の現状。
かつての栄えた学園都市の面影はなく、魔族によって破壊し尽くされた街は悲惨のひと言。
残っているのは学園として利用されている先史時代の城――ウォーデン城くらいだ。
あの城はそのものが特殊なオーパーツ。
破壊しようと思って破壊することはできないのだ。
「ジーナとエルヴィンさんは無事でしょうか」
「きっと大丈夫だ」
根拠はない。
だが、最悪の想像なんてしたくもない。
襲撃の中を上手く隠れていてくれたか、もしくはネロとスラミィが救出してくれていることを祈ろう。
「レヴィ! メリーネさん!」
「ジークか」
侯爵級との魔族の戦いに巻き込まれないよう離れていたジークたちがやってくる。
その顔は興奮を抑えられない様子で、目を輝かせて俺とメリーネを見ていた。
「すごい! 本当にすごいよ! 遠くからだけど、2人の戦いを見てたんだ! あんなに強い魔族を歯牙にもかけないで倒しちゃうなんて!!」
「ジークの言う通りだよ〜! 次元の違う強さって感じ! 憧れるな〜!」
「レヴィさん、メリーネさん、本当に感謝しますわ! あなたたちに救援を求めてよかった! おかげでたくさんの人が救われました!!」
大げさに言う3人の姿に苦笑する。
「そんな大したものじゃない。お前らだって、鍛えればいつか同じことができるようになる」
「レヴィさんは謙虚ですのね。強さだけでなく、心までも本当に素晴らしい人ですわ。これで私と同じ歳だなんて……きっと、その謙虚さが強さの秘訣なのですわ」
謙虚というか、世界の広さを知ってるかどうかの違いだと思うけど。
俺は魔族という理不尽な存在を知っていて、そいつらと近い未来に戦うことになることを知っていた。
加えて俺自身が死亡フラグにまみれた悪役だと気づいた。
誰だって強くならなきゃ死ぬと言われれば、死ぬ気で強くなるために努力する。
結局のところ俺は強くならざるを得なかったから強くなっただけ。
やはりアネットの言葉は大げさである。
そんなふうに話していると、ふと何かの前兆のような――空気が変わる感覚を感じ取る。
「! 気をつけろ! 何か――」
何か来る。
その言葉を最後まで言うまでもなかった。
突如として空中に現れた亀裂。
まるで割れたガラスのような亀裂から――魔物が現れたのだ。
ハーピィ、ナーガ、セイレーン、アルラウネ。
強力な力を感じる様々な魔物が、一斉に俺とメリーネを狙って殺到してくる。
「っ! なんだ、こいつら!」
「わたしとレヴィさまだけを狙ってきますね!?」
「とにかく、さっさと殲滅するぞ!!」
「はいっ!」
なんだかよくわからないが、俺とメリーネだけを狙ってくるのであれば好都合。
他のやつらを狙われるより倒しやすい。
鍛えられているのか本来の等級を超えSS級に匹敵する力を発揮する魔物たちだが、SS級程度であれば今更俺たちの敵ではなく。
10体ほどの魔物の群れだが、俺とメリーネは次々と魔物を討伐していく。
――っと、そのとき。
エミリーの悲痛な声が周囲に響く。
「ジーク!!!!!!」
尋常ではない様子の声だ。
俺は殺到する周囲の魔物を蹴散らし、バッとジークたちのいる方へと視線を向ける。
そこにいたのは、武器を構えるエミリーに魔力をみなぎらせた臨戦態勢のアネット。
そして――
――背後から何者かに貫かれ、血まみれの腕を胸から生やしたジーク。
「……なん、だそれ?」
俺はそれを見て呆然と呟いた。
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