救援
一瞬、思考が停止する。
しかし思考停止してる場合じゃないと、すぐに持ち直して俺はアネットに確認を取った。
「落ち着け、アネット。詳しく状況を教えてくれ」
「も、申し訳ありませんわ。私としたことが気が動転してしまって」
アネットは深呼吸をしてなんとか落ち着きを取り戻すと、俺たちに学園の状況を説明し始める。
「状況ですわね。……数時間前、突然魔族が学園都市に現れましたの。数が多く、おそらくは100を超えるほどですわ」
「多いな」
沈痛な面持ちでアネットは語る。
100を超えるほどの徒党を組む魔族なんて、魔王の復活が果たされていないはずの現状では異様だ。
「学園都市を襲う魔族に対して戦える研究者や生徒が応戦しているのですが、正直どうにもならなくて」
「魔族は最低でもA級魔物くらいはあるからね〜……スラミィたちにとっては弱くても、ほとんどの人間からしたらとっても強いよね?」
「つ、強いなんてものじゃないですよ。た、単純に100以上のA級魔物が街を襲うってだけで、絶望的です」
俺たちからしたらA級魔物や男爵級魔族なんて、たいした敵ではない。
だけど実際のところはC級魔物程度の強さでも小さな村なら滅ぼせる強さだ。
A級ともなれば当然それ以上の災害。
それが100体も1つの街を襲うなんて地獄のような状況だ。
しかも、これは最低限の戦力予測。
A級相当の男爵級だけが学園都市を攻めているとは思えないし、100以上の魔族を指揮できるような上級魔族がいる可能性が高い。
「あの、そちらの方々は?」
「ああ、アネットたちは会うのが初めてか。俺の仲間のネロとスラミィだ。2人とも、こっちはアネット。学園の生徒で知り合いだ」
「仲間ですか……もしかして、お2人もレヴィさんと同じくらい強かったりしますの?」
アネットが期待するような目で俺たちを見る。
俺はそんな彼女の言葉に首を縦に振った。
「メリーネも含めて、ここにいる3人は俺と同格だ。侯爵級魔族相手でも勝てる――って言ってもわからないか」
魔族の強さを示す爵位や、見た目で強さを判断できるというのは一般的には知られていない情報だ。
アネットに言っても伝わらないか。
「そうだな……SS級魔物程度なら、瞬殺だ」
「! ほ、本当ですの!?」
目を見開き驚愕するアネットの言葉に頷いて答える。
すると彼女は暗かった表情を少し明るくさせて、俺たちへと頭を下げた。
「お願いします! 学園都市を救ってください! 今こうしている間にも、たくさんの人が傷つきながら戦っていますの、だからどうか!」
頭を下げながら必死に言葉を重ねるアネット。
そんな彼女の頭を、メリーネが優しく撫でた。
「アネットさん、大丈夫ですよ。わたしたちが魔族なんてすぐに全部やっつけちゃいます――ですよね、レヴィさまっ!」
自信満々に宣言して俺へと笑いかけてくるメリーネに、俺も笑みを返して答える。
「当然だ。アネットに頼まれずとも見過ごす気はない」
「メリーネさん、レヴィさん! ありがとうございますわ! これで、ジークやエミリーもきっと助かる……」
アネットは安心した様子で息を吐いた。
「学園都市にすぐにでも向かおう。アネット、さっきのは空間転移だよな。学園まで俺たちを転移させることはできるか?」
「レヴィさんにいただいた魔道具のおかげで魔力量が増えていますので。……なんとかギリギリ、後一回だけ空間転移できそうですわ」
「そうか。アネットがいなければ、どれだけ急いで学園都市まで戻ろうとしてもきっと間に合わなかった」
ここから学園まで最速で戻っても数時間はかかる。
それだけの時間があれば、学園都市は魔族に滅ぼされてしまう可能性が高い。
まさか、アネットに渡した魔力負荷の魔道具がこんなにも早く活かされることになるとは。
アネットがいなかったら間に合わなかったし、そもそも学園が魔族に襲われていることに気づくことすらなかっただろう。
何も知らないまま戻ったら瓦礫の山である。最悪だ。
「ここって学園都市からそれほど遠いのでしょうか? レヴィさんの魔力をたどって転移したので、どこなのかわかってなくて」
「国境沿いの廃鉱山だ。……王国の中央部にある学園都市からは考えうる限りもっとも遠いな」
「な、なぜそんなところに……?」
アネットは困惑したように首をかしげた。
俺自身も、なんで自分がこんなところにいるのかちょっとわからなくなってきたところである。
どれだけ探し回っても標的の魔族はいないし。
かれこれ数時間も無駄な時間を過ごす羽目になった。
しかし、ふと思った。
「……まさか。仕組まれてる?」
俺たちが魔族の討伐のために学園都市からもっとも離れた国境沿いへと派遣され。
あまり学園都市から離れることのないはずのフロプトが、緊急事態ゆえに王都へと召集され。
学園都市の戦力がごっそりと抜けたところで、タイミング良く襲撃に現れる大規模な魔族の集団。
探し回っても見つからない侯爵級魔族は、そもそも本当にいるのかと怪しくなってるし。
これってあまりにも、魔族に都合が良すぎないか?
仕組まれているとして、いったい誰が――
「いや、考えるのは後回しか」
今はそれよりも、学園都市の魔族を倒すことが先決だ。
考えるのはすべて解決させた後でいい。
学園にはジーナやエルヴィンだっているのだ。
早く助けに行きたい。
「アネット、すぐに学園に戻りたい。いけるか?」
「もちろんですわ! ――『空間接続』」
アネットが魔法を発動させると、空間に渦のような歪みが現れる。
「はぁ、はぁ、はぁ……この先が、学園ですわ。もう魔力がほとんど残っていないので、消えてしまう前にみなさん行ってくださいな」
相当な量の魔力を消費する『空間接続』。
それを発動させたアネットは、急激な魔力の消費に息を切らしながらもなんとか役目を果たしてみせた。
学園を救うため救援要請を届けに俺を呼びに来た。
仲間が強大な敵に相対する中で、あえて戦場から離れるという判断はきっと大変なことだっただろう。
だけどアネットはこの危機的な現状で見事にベストな選択をしてみせた。
であれば、次は俺たちの番だ。
渦巻く空間の歪みへと、躊躇なく足を踏み入れる。
「……」
崩れ落ち、火に包まれる建物。
怪我をして倒れる人、ボロボロになりながら懸命に戦う人。
悲鳴に嗚咽、嘆きの声。
そして心底楽しそうに笑みを浮かべて、空から街を見下ろす何体もの魔族。
まるで地獄のような光景だ。
「――やるぞお前ら。人間は全員助けて魔族は皆殺しだ」
「はい、レヴィさま! お供しますっ!」
「が、学園のみんなは良い人ばかりですから。みんなのために、僕も全力で戦います……!」
「スラミィもがんばるよ〜!!」
仲間たちの頼もしい声。
それを背に受けて、俺は暴虐を降りまく魔族を睨んだ。
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