捜索
フロプトから聞いた情報を頼りに、侯爵級魔族が現れたという場所にやってきた。
そこは学園都市からかなり離れた国境沿いにある廃鉱山だ。
ここまで来るのに空路でも数時間かかった。
「ここに魔族がいるらしいが」
「な〜んにも、ないね?」
「だな」
首をかしげるスラミィに同意して頷く。
この廃鉱山には人間は1人もいない。
あたりには壊れたトロッコや打ち捨てられたツルハシなどが転がっているだけで、生活感などは一切感じない。
廃坑になって相当の時間が経っているのだろう。
マジで何もない。
「は、本当に魔族がいるのでしょうか?」
「校長先生が言うには、たしかにいるはずだが」
「ですが、生物の気配がまったくないですよ。人間も魔物も、魔族の気配も」
「どうなってんだ?」
全員揃って首をかしげる。
「坑道は封鎖されていて強引に破られたような様子はない。何かの生物がいた痕跡もないし、お手上げだな」
「もう逃げちゃったり? 近くから探して回る?」
最初はマックスが侯爵級魔族の情報を掴んだこと。
しかし七竜伯は『聖女』と『不滅』の失踪事件にかかりきりで、マックスが魔族を倒しにくる時間がなかった。
その結果、情報がフロプトへと渡され最終的に俺たちに魔族討伐の仕事として舞い込んできた。
この間にどれだけの時間が経ったかによるが、マックスが情報を掴んでから1日2日しか経っていないということは考えにくい。
数日もあれば魔族が拠点を変えている可能性はある。
「……仕方ないか。時間はかかるかもしれないが、侯爵級は放置できない。スラミィの言う通り地道に探していくぞ」
「そ、それなら僕が!」
俺の言葉にネロがぴっと手を上げる。
「しらみつぶしにやるなら、ネロの得意分野だな。任せた」
「は、はい! レヴィさんのお役に立って見せます!」
俺がネロに頼むと、やる気に満ちた声が返ってくる。
無数のアンデッドを呼び出して使役できるネロなら、人海戦術はお手のものだ。
安心して任せられるな。
ネロは杖を取り出すと、気合いが入った様子でそれをぶんぶんとその場で振り回す。
すると、彼女の背後の空間からアンデッドたちが続々と現れる。
「と、とりあえず100体です。行ってください」
『オオオオオオオオオ』
ネロの指示によって、アンデッドたちはおどろおどろしいうめき声を上げながら周囲に散っていった。
「こ、これで見つかればいいんですけど」
「これなら、ネロのおかげで探す手間はかなり省けそうだ。助かった」
「う、うへへ。レヴィさんのため、ですから! ……僕はレヴィさんのためなら、なんでもやりますからね」
「そ、そうか」
なんとなく背筋にうすら寒いものを感じ、俺はネロから少し距離をとった。
それからしばらく、俺たちは適当にだべりながらアンデッドたちが魔族を見つけるのを待った。
しかし、一向に魔族発見の知らせが来ない。
「……ぼ、僕役立たずですね。すみません、レヴィさん。こんな、役立たずのダメなやつで」
「いや、お前のせいじゃない。これだけ探しているのに見つからないのなら、何か理由があるはずだ」
落ち込むネロを慰める。
ネロは定期的に新しいアンデッドを送り出し、その数はすでに1000を超えている。
だけど、それでもまだ魔族は見つからない。
こうなってくると、普通にやって見つけることはできないのではないかと思ってくる。
権能の能力で俺たちから隠れているとか、そもそももう遠くまで離れていってしまっているとか。
少なくともベストを尽くしているネロの責任ではない。
「レヴィさま、どうしましょう。このままだと見つかりそうにないですし、一度近く町か村に行って聞き込みをするとかしますか?」
「現状だと、それが一番か」
メリーネが町や村での聞き込みを提案した。
このままここにいても時間の無駄だし、それならこの廃鉱山の近くに住む人に話を聞く方がいい。
実際に手がかりが掴めるかはわからないが、何もしないよりは間違いなくいいはずだ。
「ネロ、アンデッドの捜索は続けさせても問題ないか?」
「は、はい! し、死霊魔法はアンデッドを召喚するときに、魔力を使用するだけです。なので、召喚した後はとくに消耗はないので、いくらでも続けさせられますよ!」
「よし、なら引き続き頼む。捜索はネロのアンデッドに任せて、俺たちは近くの人里を目指そう」
3人に方針を示してさっさと撤収を始める。
と、そのときである。
――空間に歪みが発生した。
「レヴィさま!」
メリーネが剣を抜きつつ、空間の歪みから俺を守るように立つ。
まさか、魔族か?
俺もメリーネに少し遅れていつでも戦えるように臨戦態勢にうつる。
ネロとスラミィも、空間の歪みを経過していつでも戦えるように身構えた。
やがて空間の歪みから何かが出てくる。
それは長い金髪の髪に、整った顔をした1人の少女――
「ん?」
俺は、その少女に見覚えがあった。
というか普通に知り合いだ。
ずっと昔、それこそ前世の頃から一方的に知っている相手で、最近この世界で知り合った少女。
「なんで、アネットが?」
そう、その少女はジークの仲間である1人。
アネット・エンデその人だったのだ。
空間の歪みから出てきたアネットは、息も切らした様子で周囲をキョロキョロと見回しやがて俺と目が合う。
すると、焦燥感を抱いたような真っ青な顔で叫んだ。
「レ、レヴィさん! 助けてください!! ――魔族が学園に攻めてきましたわ!!!!」
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