異常事態
魔力負荷の6段階目――めちゃ強。
その強度に慣れて、めちゃ強状態での魔力圧縮の平常化ができるようになるまで2ヶ月かかった。
だけどその甲斐あって魔力は日々増えていく。
2ヶ月の間で、およそ1.2倍くらいか。
一見それだけかと思うが、元の魔力量を考えると相当な上昇量である。
初めて確認したときのジークの魔力量は、宮廷魔法使いの平均くらいの魔力。
そしてその3600倍が今の俺の魔力量である。
ちなみに、せっかくだからとメリーネの重量付加魔道具も更新してもらった。
今までは最大1トンの上限だったところを、最大5トンまで強化したのだ。
もはや身体能力が極まりすぎて1トンの重量でもケロッとしていたメリーネだが、久しぶりにひいこら言っている姿を見ることができた。
古くなった魔道具はジークにあげたのでこれでさらに強くなってくれればいい。
そうして自己研鑽を続けつつ、『竜の剣』として魔族を倒して回る日々。
気づけば学園都市に来てから半年以上。
そんなある日、学園都市に戻っていた俺たちは学園都市校長であるフロプトから呼び出された。
「――来たか、ドレイク」
校長室に入るとフロプトが俺たちを出迎えた。
部屋の中にはローブや帽子などが散乱していて、そんな中をフロプトは忙しなく動き回っている。
「騒がしくてすまんな。これから用事があって、急ぎ王都に行かねばならんのだ。悪いが、許してくれ」
「用事って?」
スラミィが首をかしげる。
それに対し、フロプトは深刻な顔をして答えた。
「お前たちには言ってもいいか。……実はな、『不滅』と『聖女』が行方不明になった」
「――は!?」
俺は思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。
七竜伯の『不滅』と『聖女』が行方不明なんて意味がわからない。
ゲームで言えばまだ序盤である今のこの時期に七竜伯が欠けるなんて、そんな話はゲームではなかった。
たしかに俺やマックスの存在によってすでにこの世界の未来は変わっている。
だから、ゲームではなかった出来事が起きるのは当然。
しかしそれにしたって七竜伯が2人も急に行方不明になるなんて、異常事態にも程があるぞ。
「正直、状況がまったくわかっていない。あの2人が遅れを取る相手など、同格の七竜伯か最上級魔族しかありえない。魔族の襲撃を受けたと考えるしかないが、いったいどこで襲撃され今どこにいるのか。そもそも……」
――生きているのか。
そんな疑問を抱いた様子でフロプトは眉間に皺を寄せる。
「レ、レヴィさま。これって、かなりまずいですよね?」
メリーネが青い顔をする。
「……『聖女』は大陸でもっとも優れた回復魔法使い。サポート特化ゆえに戦闘力は他の七竜伯に劣るが、回復魔法で自己回復できる以上戦闘不能になどなるとは思えない。『不滅』に至っては、そもそも殺されること自体がありえない。――ですよね?」
「ああ。ドレイクの言う通りだ。『聖女』は神器まで含めれば、古今東西でおそらく唯一の死者蘇生すら為す奇跡の魔法使い。『不滅』は不死身だから何をどうしようが絶対に死なない」
フロプトの言う通りだ。
ゲームでもこの2人が戦闘不能になることは滅多になかった。
とくに『不滅』など神器の能力で戦闘不能を回避する能力を持っていたので、システム的に戦闘不能に陥ることはありえないのだ。
ここがゲームではなく現実とはいえ。
フロプトの口ぶりからして、あの2人の能力が大きく違うとも思えない。
「よ、よかったです。それなら、死んではいないってことですよね?」
「そうだの」
ほっと息を吐くネロに、フロプトは頷く。
「だが、であればどこにいるのかという話だ。行方不明になった2人を早急に見つけ出さねばならない」
「それで、王都に?」
「ああ。竜王女殿下から七竜伯全員に召集がかかった。これは極めて危機的な状況だ。今はまだ2人の失踪を知る者は数少ないが、大衆に知られる前に事態を解決する必要がある。でなければ、国が揺れる。マジでやばい」
フロプトの言葉は決して大げさではない。
七竜伯とは、王国――ひいては人類の柱とも呼べる人類最強の存在。
そのうち2人が同時に欠けるなど、未曾有のこと。
間違いなく民衆は恐慌に陥る。
「俺たちを呼んだのは、行方不明になった七竜伯の手がかりを集めさせるためですか?」
「いや、違う」
もしやと思った俺の言葉は、フロプトに否定される。
「ドレイクたちには今まで通り『竜の剣』としての仕事を任せる」
「今まで通りの、魔族狩りですか?」
「うむ。『変態』が強力な魔族の居場所を掴んだらしくてな。おそらく侯爵級だという」
マックスが?
普段何をしているのかは知らないが、もしかして俺たちと同じような活動をしていたのだろうか。
もともと『竜の剣』の発案者は彼らしいし。
マックスは今回侯爵級の居場所を掴んだが、七竜伯は今それどころではないので代わりに俺たちにという話だろうか。
「もしかして、今回の失踪の手掛かりになったりするのでしょうか?」
メリーネが首をかしげる。
「関係はないだろうと我は思っている。侯爵級風情が、あの2人を害するなど考えにくい。今回の件では、公爵級魔族が動いていると見るのが自然だな」
「公爵級か〜、どんな感じなんだろ」
「さ、さすがに、戦ったことはないですね。どのくらい、強いのでしょうか……」
スラミィとネロの言う通り俺たちはまだ公爵級とは戦ったことがない。
今までは侯爵級が最高で、それも3体だけ。
アミュエッテとの遭遇が最後だ。
公爵級魔族――その実力を俺たちはまだ知らない。
といっても、あの時戦ったアミュエッテは海という環境の影響で公爵級と同等の実力だったけど。
とにかく、七竜伯を害すには公爵級や条件が整ったアミュエッテのようなレベルの力がいる。
ただの侯爵級に、七竜伯をどうこうできるわけがないというフロプトの考えは俺も正しいと思う。
「だが、侯爵級を放置することもできん」
「それで俺たちですね」
「ま、そんな感じだ。我はすぐに学園を発って王都に向かう。ドレイクたちも、すぐに魔族の討伐に向かってくれ」
「わかりました」
フロプトの言葉に頷く。
『聖女』と『不滅』についてはかなり気になるが、七竜伯が動くというなら俺にできることはまだなさそうだ。
だったら、今も人を苦しめているかもしれない居場所が知れている魔族を叩くのが先決。
その後、俺たちはすぐに学園都市を発ち魔族の討伐へと向かった。
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