主人公
ジークたちと知り合った日から1日経って。
俺は彼らとともに学園の演習場の1つへとやってきていた。
「どこからでもかかってきていいぞ」
演習場の中心に立った俺は、目の前に並ぶジークたち3人へと言った。
エミリーから申し込まれた手合わせのお願い。
彼らの今の実力を知る良い機会だと思い、それを受けた俺はジークたち3人と模擬戦を行うことになったのだ。
「ほ、本当に3対1でいいの?」
「ああ、問題ない」
「レヴィ君、あたしたち結構強いよ?」
「だろうな」
この3人が強いことは当然、知っている。
というかこいつら自身よりも、俺の方がその強さをよく知っているだろう。
なにせ、いずれ世界を救う主人公とその仲間。
その強さはゲームで散々知っている。
だけど、今は間違いなく俺の方が強い。
「レヴィさんが強いことは重々承知しておりますが、少し私たちを甘く見過ぎですわ」
そう言って、アネットが睨みつけてくる。
「そうそう! ジークはともかくだけど、アネットはたくさんの実戦経験がある武闘派貴族で、あたしは1級探索者だよ?」
「と、ともかくって……でも、2人の言う通りだよ。メリーネさんも呼んで、せめて3体2にした方が良いんじゃない?」
アネットほどではないが不満気な様子のエミリー。
ジークの方は単純に俺を心配しているかのような感じだ。
何と言うか、こいつらこそ俺をナメている。
だけど、今のこの3人は魔族の強さも神器の存在も知らないだろうし仕方ないか。
「3人まとめてで良い。文句があるなら俺を倒してから言ってくれ」
今の彼らはメリーネの持つ『二代目剣聖』という肩書きの重みに実感を持てないし、俺が魔族を倒したという噂を知っていても理解までは及ばない。
この模擬戦は本当に良い機会だったな。
俺はこの世界の未来を救う役目を持つこの3人の現状を知ることができて、こいつらは――世界の広さを知れる。
「魔力と闘気の両持ち、帝国との最前線を戦う辺境伯の娘、ダンジョン第3階層を踏破した1級探索者――ハッキリ言って足りないな」
俺は隠蔽していた魔力を解放する。
「!? な、こんな……!?」
「な、なんて魔力――!? こんなの、ありえませんわ!!!」
「や〜、ちょっとこれは想定外すぎるかな〜」
ゴオッと唸りをあげて吹き荒れる魔力。
それは物理的な影響すら周囲に与え、砂埃が舞い圧力のようなものが空気を重くする。
「俺も一応研究者、教師だからな」
俺は主人公の前に立ちはだかり、悪役らしくにやりと笑ってやる。
「――教えてやるよ。世界の広さってやつをな」
言い放つと3人の目の色が変わる。
さっきまで俺を見ていたイマイチ乗り気じゃない目ではなく、覚悟を決めた戦いに身を置くものの目。
怖気付かないあたり、やはり有望だな。
「どうやらナメてたのはオレたちの方だったみたいだね。……行くよ、2人とも! 遠慮も躊躇もいらないみたいだ!」
先手必勝と言わんばかりに、ジークが剣を手に本気で斬りかかってくる。
「魔法使いは距離を詰められたら剣士には勝てない!」
「その通りだ。俺は違うが」
「っ!」
振り下ろされる剣を体をずらすことで避ける。
闘気は使っていない。
格下との模擬戦で神器まで使うのはどうかと思ったから。
だから、これは単純に俺の技術。
闘気を纏わずとも、身につけた技術は変わらず使える。
メリーネに教わった剣士としての動きだ。
「――『火炎球』」
「ぐあっ!?」
俺に剣を避けられ、驚愕の表情のまま隙をさらすジークのガラ空きの腹へと魔法を撃ち込む。
火魔法の初歩の初歩である『火炎球』。
ただ火の玉をぶつけるというだけのもので、威力があり使い勝手もいい『劫火槍』の下位互換でしかない魔法だ。
あまり使ったことはなかったが、手加減するにはちょうど良い。
吹き飛ばされたジークだが、威力はかなり抑えたので大した怪我にはならないだろう。
「次はあたし!」
エミリーが槍の穂先に鉤爪の付いた長柄武器、ハルバードで攻撃してくる。
その攻撃は鋭く速く重い。
「さすがは、1級探索者か」
1級探索者と認められるのはダンジョンの第3階層を攻略することが条件。
しかも、エミリーの場合は単独での攻略だ。
第3階層といえばC級の魔物がうじゃうじゃと出てきて、ボスに関してはA級の魔物が出てくる。
A級の魔物――すなわち、男爵級魔族と互角の魔物だ。
間違いなく困難な階層で、単独で攻略できる強さは並外れたものではない。
「これは、なかなかだな」
「闘気もないのに全部躱してくるやつに言われても微妙なんだけど!?」
「ギリギリだから」
「まったくそうは見えないよ!!!!」
いや、でも本当にギリギリ。
エミリーは魔法使いが闘気なしで接近戦していい強さじゃないな。
接近戦の強さではジークよりも数段上。
メリーネに教わった戦闘技術と、『二代目剣聖』という最高峰の剣士との数えきれないほどの戦闘経験がなければどうしようもなかった。
と、そこで。
俺をめがけて魔法が飛んできた。
「――『瞬光槍』!!!」
超高速で飛来する光の槍。
ジークの持つ光魔法の特徴は、何と言ってもその速度。
だけど対応できないほどではない。
光の名の通り本当に光速であれば対処不可能だが、超高速程度であれば本気のメリーネの方が速い。
俺は冷静に魔法で対処しようとして――
「ここですわ! ――『
ぐっ、と俺の体が後ろへと引っ張られる。
「これは、空間魔法か」
アネットの持つ超希少な魔法適性。
その魔法の1つである『
空間に開いた穴は即座に自己修復しようと周囲の空間を引き寄せる。
そしてそれによって生じる引力が俺の体を崩したのだ。
「ナイスだよ、アネット!!!!」
その隙を見逃すエミリーではない。
バランスを崩した俺へと振り下ろされる遠慮も躊躇もないハルバードによる一撃。
さらに、迫り来るジークの魔法。
息のあった見事な連携だ。
さすがは主人公チームといったところか。
「ふっ、お前らはこうじゃなきゃな――」
アネットのハルバード、ジークの光の槍。
強力な攻撃が迫る中、俺は自然と笑みを浮かべていた。
これでこそだ。
俺の愛した『エレイン王国物語』の主人公は――
「かと言って、負けてやる気もないけどな」
勝ちを確信した様子のジーク、好戦的に笑うエミリー、油断せず次なる魔法を組み上げようとするアネット。
そんな3人に対して俺はただ、
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