メリーネ、とんでもない辱めを受ける
「あ、もしかしてドレイクとリンスロット?」
メリーネと学園都市を歩いていると、ふとそんな声が耳に入る。
声の方へと振り返る。
するとそこにいたのは金髪の男と2人の少女。
まさか、こんなところで会うとは。
まあ同じ街に暮らして、同じ学園を拠点にしていればこんなこともあるか。
「ジーク・ロンドか」
「え、ドレイクってオレのこと知ってたの? 入学初日しか会ってないし、自己紹介したこともないよね」
「……ああ。でも、有名だろお前」
俺が知っているのは、ゲームの知識があるから。
だけどこの男――『エレイン王国物語』の主人公であるジーク・ロンドは、それがなくともすでに学園で有名になっていた。
なにせ、魔力と闘気の両持ちという史上類を見ない有望な新入生だ。
平民での入学ということもあるし話題には事欠かない。
「いやあ、それほどでも」
ジークは照れた様子で頬をかく。
「別に褒められてはないですわよ」
「ドレイク君とリンスロットさんの方が有名だしね〜」
そう言ってツッコミを入れるのは、金髪碧眼の貴族然とした少女――アネット・エンデ。
そして、活発的な印象を抱かせる2つ結びの赤髪少女――エミリー・ミューリン。
「2人とも手厳しいなあ……あっと、知ってるみたいだけど改めて! オレはジーク・ロンド! ジークって呼んでよ!」
「では、せっかくなので私も。アネット・エンデ。ドレイク様とは社交でお会いしたこともありますが、改めてお見知りおきを」
「あたしはエミリー! ドレイク君とリンスロットさんってすっごく強いんだよね? 今度手合わせしよ!」
快活な表情で名乗るジーク。
社交で会ったことあるらしいけどおそらく前世の記憶が戻る前だったから、まったく記憶にないアネット。
いきなり手合わせを申し込んでくるエミリー。
なかなか賑やかな連中だ。
「俺はレヴィ・ドレイクだ。貴族だが、正式な場でない限りとくに礼儀は求めていない。レヴィでいい」
「わたしはメリーネです! わたしも一応貴族らしいですけど、慣れていないので普通にメリーネでお願いしますっ!」
俺たちも名乗り返すと、ジークは嬉しそうに笑う。
「うん! よろしく、レヴィ、メリーネさん!」
「あ、では私のこともアネットで。お2人ともよろしくお願いしますわ」
「よっろしく〜!」
ふと、思う。
この3人が俗に言う主人公チームか、と。
ゲームでもよく仲間として連れ回したアネットとエミリーに、自キャラとして操作したジーク。
なんだかこうして会話してると不思議な気分になるな。
「それにしても、有名な人と知り合いになっちゃったね〜」
「だね! いつか2人とは友達になりたいと思ってたから、こうして偶然でも知り合えて嬉しいよ」
「有名、ですか?」
エミリーとジークが楽し気に話すと、その言葉に引っかかりを覚えたらしいメリーネが首をかしげた。
「レヴィさんとメリーネさんはとっても有名ですわよ」
「首席のレヴィは神童と呼ばれる魔法の天才で、嘘か真か魔族を倒したって噂も! 一方でメリーネさんは次席で、何と言ってもかの剣聖の後継者『二代目剣聖』!」
ジークが興奮した様子で語る。
「それに、2人とも入学初日に卒業して研究者になっちゃったんだよね? 史上最速だって、自分よりすごい生徒に教えられることなんて何もないから助かったって先生が言ってたよ」
「あはは、なんか恥ずかしいですね」
「そんな噂になってるのか」
全部事実ではあるけど。
自分のことをこんなふうに言われると、なんだか変な感じだな。
「そういえば、オレたちはこれからダンジョンに行くところだったんだけど。2人は何してたの?」
「デートだ」
「わ、わあ! デ、デートですの!」
ジークの問いに簡潔に答えると、アネットがきらきらした目で俺たちを見る。
ゲームではアネットは普段は澄ました感じだけど、色恋沙汰とか恋物語に興味津々な乙女チックな性格という設定だった。
メインヒロインとも言える立場でかなりの人気キャラだ。
そんなアネットが饒舌に語り出す。
「お2人は婚約者でしたわね! 私、知っていますわ! 高位貴族の主人へと恋をしてしまった少女騎士が、叶わない恋を遂げるために剣聖へと弟子入りして養子になることを認められて――身分差を克服した2人はついに恋人に!」
「な、なんですかそれ!?」
「何って、二代目剣聖の恋物語だよ。突如として現れた剣聖の後継者にみんな興味津々で、最近は王国中で吟遊詩人が語ってるらしいよ〜」
「な、な――!?」
メリーネが顔を真っ赤にして驚愕する。
いやあ、これはさすがに恥ずかしい。
一応俺も登場人物らしいが、主題がメリーネらしいので彼女と比べて軽傷ではある。
でも、まあ仕方ない話であるか。
剣聖は王国を長年守ってきた民衆に大人気の七竜伯だ。
そんな彼の後継者が、どんな人間でどんな経緯で剣聖を継ぐことになったのか。
気にならない国民はいないよな。
メリーネには災難な話だが。
というか、この話を最初に吟遊詩人だかに話して広まるきっかけを作ったやつは誰だよ。
捏造じゃなくて普通に事実だからもしかして身内か?
「うわーん!! これじゃわたしもう外歩けないですよレヴィさまぁ!!!!!」
あまりの羞恥によってメリーネの涙腺は決壊し、彼女は大きな涙を流す。
俺はそっと、優しくメリーネの肩を叩いてやった。
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