またな

「レヴィ、メリーネ、ネロ、スラミィ! しばらくお別れだ! あたしのことを絶っっっ対に忘れるなよ!!」


「忘れないよ」


「本当の本当に忘れるなよ!!」


「念を押すなあ。ちゃんと冒険の約束しただろ。忘れるわけないって」


 ロイズから少し離れた街の外。

 俺たちはロイズを出る直前にメアリから見送りを受けていた。


「メアリちゃん。わたし、楽しみにしてるね! 世界の海を大冒険なんて、今からすっごく楽しみだよっ!」


「うむ! 世界中にはきっといろんな美味しいものがあるのだ! メリーネを飽きさせることはないはずだ!」


「た、楽しみって美味しいもののことじゃないよ!? 船での冒険自体が楽しみで、えっと他の国の文化とか景色とか! そういうのが楽しみなのっ!」


「でも、他の国の美食も楽しみだろ?」


「も、もー! レヴィさままでからかわないでください!! 楽しみですけどっ!!!」


 ぷんすかと怒るメリーネ。

 やっぱり楽しみなんじゃないかと俺は思った。


「ぼ、僕も。船酔いはしなくなってきたので、絶対に連れてってください!」


「もちろんなのだ! ネロは最低限『黒髭伝説』は予習しておくようにな!」


「よ、読んでおきます!」


 メアリとネロが言葉を交わす。

 わざわざ言わなくても、いつかの冒険にネロだけ置いていくことなんてありえないのに。

 変にネガティヴなところがこいつらしい。


「メアリ、またねー! スラミィもまた船に乗るの楽しみにしてるよ! あと、これあげるね!」


「ん、これは?」


「お薬だよ! どんな怪我でも病気でも一瞬で治るやつだからいざってときに使ってね!」


「おお! それはすごいのだ! 何かあったときに遠慮なく使わせてもらうぞ!」


 スラミィがエリクサーをメアリに渡す。

 それにしてもとんでもないものを気楽に渡している。


 俺たちからしたら、エリクサーはちょっとの擦り傷でもガブガブ飲めるくらい気安いものだから感覚が麻痺してるけど本来は相当な代物だ。


 まぁ、俺たちの知らないうちにメアリが大怪我とかしてたら嫌だし。

 むしろダース単位で渡してやりたいくらいである。


「じゃあ、そろそろ俺たちは行くぞ」


「お別れだな」


「楽しかったよ。また、お前と冒険に出る日を楽しみにしてる」


「うむ。それまでに航海技術と神器の扱いを鍛えておくのだ。だからお前たちも頑張るのだぞ」


「そっちも頑張れ」


「またな」


「ああ、また」


 メアリと手短に言葉を交わす。

 一生の別れではないのだから湿っぽい感じにはしない。


 またの再会を約束して、俺たちはロイズを発った。


「少し寂しいですね、レヴィさま」


「だな」


 スラミィが変身したグリフォンに乗り空を飛ぶ中、後ろに同乗しているメリーネがぽつりと言った。


 メアリと知り合ってから一緒にいた期間は短い。

 だけど、その短い時間の中で俺たちは今までにないような冒険をした。


 期間も時間も関係ない。

 メアリはすでに俺たちの親友で、大切な仲間だ。


「さっさと、魔族との戦いを終わらせるぞ」


「えへへ、そうですね! 楽しい大冒険が待ってると思えば、よりやる気が出るってものですっ!」


 気合いに満ちたメリーネの声。


「で、でもレヴィさんって、旅する時間とかあるんでしょうか? ドレイク侯爵家のこともありますし……」


「問題ない。父上はまだまだ壮健だし、たった数年で代替わりなんてことにはならないさ」


 不安そうに聞いてくるネロに答える。


 俺が家を継ぐのは少なくとも10年は先になるだろう。もしかしたら20年後かもしれない。


 魔族との戦いがいつ終わるのか、ゲームのシナリオとは変わり始めているこの世界だから予想はできなくなっている。

 だけどまあ、せいぜい5年といったところだろう。


 その後からでも、時間は十分すぎるほどにある。


「ところでレヴィさま。この後は、どうするのですか?」


「一度、学園に戻る。校長先生に報告して少し休んでからまた次の任務って感じだな」


「なるほど。それなら少し学園らしいことしたいなあ」


「何か授業受けてみるか?」


「えっと、それもいいんですけど。レヴィさまと学園都市を巡ったりとかしたくて」


 恥ずかし気な感じで呟くメリーネ。

 俺はその言葉を聞いて、合点がいった。


「ああ、学園に行ってからあまり見て回るような時間なかったからな」


「そ、そうなんです! だから、レヴィさまとデ――」


「学園都市には美味いものが多いらしいし、いろいろ食べて回るのもいいか。まったく食いしん坊め。付き合うぞ、メリーネ」


「……」


「え、メリーネ?」


 メリーネが急に黙り込む。

 かと思えば、後ろから俺の体に手を回して抱きついてきた。


「お、おい? どうした――っ!? い、痛い! 待て、メリーネ痛い! 痛いから! お前の力でそんな強く抱きつかれたら潰れるから!!!!」


「……」


「い、いててててててて!!?!? 潰れる、潰れる! 口から中身が出てくるって!!」


「レヴィさま、わたしってたしかに食いしん坊かもですけど。それ以前に、女の子なんですよ?」


「い、いや! そんなことわかってるが!?」


 何をあたりまえのことを言っているのか。

 というか、そんなことよりも腕の力を緩めてくれ!


「わかってない! レヴィさまはまったくわかってないですよっ! デートしたいって言ってるんです!」


「デ、デート? そんなの、初めからそう言えば……」


「言おうとしました! でも、その前に早とちりしたのレヴィさまじゃないですか! レヴィさまだから察してくれないのは仕方ないですけど、それにしたってこっちが言おうとしたら勝手に早とちりして食いしん坊扱いなんて――」


「!? わ、わかった俺が悪かった! する! デートするから力を緩めてくれ!!」


「もー! 反省してくださいレヴィさま!!」


「ぎゃあああああああああああああああ!!!!」


 俺の絶叫が、空に響く。


 その後すぐに解放してもらった。

 絶妙な力加減で怪我なんかには繋がらなかったが、ただひたすらに痛かった。


 だけど今回はさすがに俺が悪かったと自覚しているので、学園都市でのデートではメリーネを存分に楽しませてやらなければならない。


 とりあえず、貴族の間でも美味いことで評判な高級レストランとか予約しておけばいいかな?

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