さあ行こう!
「よくやったのだ、レヴィ、スラミィ! さすがはあたしの仲間だな!」
俺がアミュエッテを倒し、スラミィはSS級の魔物たちを倒した。
ひと息ついたところで、メアリが嬉しそうに笑う。
「アミュエッテを倒せたのはメアリのおかげだ。そっちもお手柄だったな」
「ふっふっふ! よくわからないけど、なんか急に力が目覚めたのだ! さすがは未来の大海賊なのだ!」
腕を組んでふんぞり返り。
ドヤッという音が聞こえてくるかのような顔で自画自賛。
メアリらしい姿で結構である。
「ところで、レヴィ。この海賊旗は結局何なのだ? レヴィは知ってるのか?」
「それは神器って言うんだが……まぁ、あとで話すよ」
首をかしげるメアリにそう答えて、俺はスラミィを呼び寄せる。
「スラミィ、すぐに街に向かおう。こっちが終わった以上、メリーネとネロに加勢するぞ。悪いがメアリは少し待っててくれ」
「ん、そうだな。ティーチの小島は目の前だが、財宝よりも仲間の方がずっと大事なのだ。って、待っててってどうしてなのだ? 船で行くんじゃないのか?」
「船で行くよりも早く着く手段があってな」
言うまでもなく、グリフォンに変身したスラミィに乗せてもらっての空路だ。
海路より空路の方が当然速い。
できるだけ早く加勢したいから、ここは空路一択だ。
「そうか、わかったのだ。仲間を信じて待つのもキャプテンの仕事! 手伝えないのは残念だけど、この海賊旗の力もまだ使いこなせる気がしないし大人しく待ってるのだ!」
「悪いな。向こうが片付いたらすぐに戻る」
さて、さっさとメリーネたちに加勢して向こうの魔族を倒さないとな。
まぁ正直、あの2人なら問題なく勝てるとは思うけど。
「よし、スラミィ行くぞ。……スラミィ?」
「う〜ん。ご主人様、ちょっと待ってね」
スラミィが、何やらうんうんと唸っている。
加勢に行こうにもスラミィの力が必要なので、彼女に待てと言われたらそれはもう待つしかない。
言われた通り少し待つと、スラミィは突然ぴょんぴょんと飛び跳ねて嬉しそうに笑いだした。
「やった! ご主人様、向こうも勝ったみたいだよっ!」
「え、何でわかるのだ?」
メアリが困惑したように首をかしげる。
「お姉ちゃんたちの方に分身送ってたんだ〜! 分身とは離れてても繋がってるから、わかるよ!」
「ぶ、分身? それも神器とかいうやつなのか?」
「分身は分身だよ〜」
ますます首をかしげるメアリ。
スラミィの分身能力について説明するとなると、まずスラミィが人間ではなく魔物だということから話すことになる。
メアリには別に明かしてもいいだろうが、後で神器のことも併せてまとめて説明すればいいか。
それよりも、今は街の状況を知りたい。
「スラミィ、向こうはどんな状況だ?」
「街の被害はあんまりないかな〜。死んじゃうような怪我してる人は数人いたけど、スラミィがこっそり治しておいたよ! あとは軽い怪我の人ばっか!」
「そうか、よくやった。戦いの方はどうだった?」
「1000万の魔物はネロが全滅させたし、魔族はお姉ちゃんが倒したよ!」
スラミィの言葉を聞いてホッとする。
見立て通りではあるが、やはり1000万の魔物とか侯爵級の魔物とか言われると少し不安ではあった。
だけど、2人はしっかりとそれぞれの役割をこなしてくれたらしい。
街の被害も軽微で、怪我人はいても死人はなし。
最高の結果だ。
これは街を守りきった2人を褒めてやらないとな。
「スラミィ、メリーネとネロはこっちに戻ってこれそうか?」
「えっと、今デイブおじさんに説明してて時間かかりそうな感じかな」
「そうか。まぁ、仕方ないか」
街に明らかにやばい数の魔物が攻めてきて、さらに魔族もやってきて。
かと思えばネロのアンデッドが魔物を全滅させ、メリーネが魔族を倒した。
この一連の出来事を、解決したとはいえ説明もなしで放置してしまうことはできないよな。
街はパニックになるかもしれないし、デイブも困り果ててしまう。
「なら、メリーネたちにはこっちも片付いたこと。それと、よくやったって言っておいてくれ」
「ん、わかった!」
ひとまず、これで今回のあれこれは解決か。
漁獲量減少の原因は、魚を改造して魔物にする魔族がいたからだ。
海から魚が1000万も消えれば、当然ながら漁獲量は減るだろう。
幽霊船は幻影を作る魔族の存在によるもの。
理由は聞いていないが、1000万の魔物の準備ができるまで人を追い払うために作っていたってところか。
そしてそもそも、ロイズが狙われたのは未覚醒の神器を持つメアリの存在を何らかの手段で魔族が知ったからだ。
しかし個人の特定まではできず、だったら街ごと滅ぼせばいいという判断からだろうか。
おそらく、こんなところか。
「メアリ、どうやら俺は向こうに行かなくてもよくなったらしい」
「うむ! メリーネとネロもよくやったのだ! あの街は父さんとの思い出がいっぱいあるし、知ってる人がたくさんいるから本当によかった。あとで船長のあたしが直々に褒めてやるのだ!」
「たくさん褒めてやってくれ。あいつらも喜ぶ」
「もちろん!」
メアリは嬉しそうに笑う。
「さて、メアリ。あいつらには悪いが、メリーネとネロはしばらくはこっちに戻ってこれないみたいだから俺たちだけでティーチの小島に行くぞ」
「そうだな。ティーチの小島は今日を逃せば、次に浮上するのは1ヶ月後……レヴィたちは、1ヶ月も待てないよな」
メアリが悲しそうな顔をする。
彼女が海を導く神器を使いこなすことができれば、ティーチの小島が浮上する条件を無視できるだろう。
だけど、一朝一夕で使いこなせるほど神器は甘くない。
どちらにせよ多くの時間がかかる。
そして、俺たちは他にもロイズのような魔族に狙われた街を救う役目がある。
メアリの言う通り1ヶ月もロイズに滞在することはできない。
「なんだか、複雑な気分なのだ。黒髭の財宝を手に入れるのは、あたしの目標だった。だけど、その目標の達成が目前でこんなに寂しい気持ちになるなんて。……レヴィたちとの冒険が終わっちゃうだな」
しゅんとするメアリの背中を、俺はバシッと叩く。
「何言ってるんだ、お前らしくないぞ。しっかりしてくれキャプテン」
「……レヴィ」
「こんなところでそんな気持ちになるなんて、もったいない。だって、目の前に財宝があるんだ。散々苦労して金銀財宝にたどり着く。そんなの、冒険で1番アガるゴールだろ?」
メアリの気持ちは俺だってわかる。
この一夜の冒険は本当に楽しかった。ワクワクした。
そんな冒険の終わりが近づいてくると、どうしても冒険の終わりを思って感傷的になってしまうのも無理はない。
だけど、まだ財宝にたどり着いてすらいないのだ。
今から弱気になるなんて馬鹿馬鹿しい。
だったら、財宝を前にはしゃぎにはしゃいで空回りするくらい馬鹿馬鹿しい方がちょうどいい。
「そうだろ、キャプテン?」
俺がにやりと笑って問いかける。
すると、じんわりと目を赤くさせたメアリも応えるように笑みを浮かべる。
「ぐすっ……そうだな! あたしらしくなかったのだ!」
メアリは赤い目を擦ってから、いつもの調子で声を張り上げる。
「お前たち! 黒髭の残した財宝は目の前だ! 苦難にまみれた冒険の終わりは近い――さあ行くぞ!」
「ヨーソロー!」
いつも通りなメアリの大げさな言葉に、俺とスラミィは揃って笑いながら答えた。
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