魂の海賊旗
「よ、よくわかんないけど! がんばれ! がんばるのだー!!!!」
「何やってるんだあいつ」
なんか、メアリが急に騒ぎ出したかと思ったら突然海賊旗が出てきた。
かと思えば、今度はそれをぶんぶんと振り回しながら応援を始めた。
「でも、なんか力が湧いてくるような?」
メアリが海賊旗を振り回してから体の調子が良い気がする。
アミュエッテとの激しい戦闘で少し疲れていたのだが、その疲れがなくなった。
それどころか爽快な寝起きのような元気が出てくる。
「多分、あの海賊旗の影響だよな」
一生懸命応援してくれているメアリには申し訳ないが、ただの応援で疲れが吹っ飛ぶようなことはありえない。
前後の出来事からして、あの海賊旗が何か関わっていそうなのは間違いないだろう。
「な〜んか、あの旗があると気分悪いな〜」
眉根を寄せて、アミュエッテが機嫌悪そうに唸る。
「殺しちゃえばいいや」
そう言って、アミュエッテが水の槍を撃ち出す。
標的は船で海賊旗をブンブンと回しているメアリだ。
「うぎゃあ! こっち狙ってるのだ!? レ、レヴィ! なんとかしてくれー!!!」
「まったく」
アミュエッテの水槍を、俺の魔法で相殺する。
「お前の相手は俺だろ」
「邪魔しないでよ! うぐ〜! やっぱりあの旗嫌な感じする〜!!」
メアリへと攻撃を続けるアミュエッテ。
その攻撃をひたすら打ち消しながら、俺は疑問に思う。
なんでアミュエッテはこんなに苦しんで、メアリを敵視しているのか。
「あの海賊旗が原因なのは間違いなさそうだが」
そもそも、あの海賊旗は何なのかという話だ。
あれをメアリが振り回すようになってから、俺の体から疲れが吹き飛び力がみなぎり。
逆にアミュエッテは苦しみ出した。
スラミィの方を見てみると、スラミィは俺と同じように元気がより一層増した様子。
アミュエッテが出してきた魔物は、とくに良くも悪くも影響は出ていなさそうだ。
「味方へのバフと、なぜかアミュエッテにだけ効果のあるデバフ。だが、メアリは魔法を使えないしな――まさか」
ふと、思い出す。
さっき、アミュエッテが言っていた未覚醒の神器という言葉。
意味がよくわからず聞き流してしまったが、もしかしてそれはメアリのこれのことを言っていたのか?
なにせ、魔法以外でこんなことができるのは神器くらいだ。
「いやでも、神器に未覚醒とか覚醒とかそんな概念あるわけ……?」
あるわけない。
なんて思いそうになって、記憶に引っかかりを覚えた。
そういえば、ゲームでそんな感じのこと言ってるやつがいたかもしれない。
「たしか、『建国王の竜の力が覚醒したから妾が竜王女なのじゃ』だったか?」
それは七竜伯最強の称号を持つ少女――竜王女の言葉。
彼女がなぜ最強なのかと言うと、それは至極シンプルな理由。
竜王女は人類で唯一神器を2つ持っているからだ。
1つは彼女自身がダンジョンで得た神器。
そしてもう1つが、エレイン王国の王家に代々継承される初代王の神器――継承型の神器。
1つあるだけで超強力な神器を2つ持つから最強。
それが七竜伯最強の竜王女だった。
「まさか、メアリも?」
継承型の神器がメアリに今、この瞬間覚醒した。
そう考えれば、あの不思議な効果を撒き散らす海賊旗にも説明がつく。
だけど継承型の神器なんて、ゲームの中ではエレイン王国初代王の竜の神器しか登場しなかった。
それくらい、オンリーワンで特別な力だ。
メアリになぜ、そんなものが――
「黒髭、か」
心当たりなんて、簡単に思いついた。
黒髭だ。
世界の海を制覇した大海賊にして大英雄たる黒髭。
そんな男が、神器を持っていなかっただなんて考えられない。
というか、絶対持ってた。
それがまさかの継承型の神器で、メアリに受け継がれていた。
本当に彼女が黒髭の子孫であるならば、決してありえない話では決してない。
「海の声を聞く能力も、並外れた航海技術も……鍛えてないにしては卓越していた身体能力も。眠っていた神器に影響されたものだとしたら、全部説明がつくな」
まったく、予想外にも程がある。
もし、あの海賊旗が神器であるならば。
その能力は仲間を鼓舞し、アミュエッテを苦しめるだけのものであるはずはない。
その真価は――
「レ、レヴィ! なんかこれ、すごいかもしれないのだ! 海が、あたしに力を貸してくれるって言ってる!」
メアリは海賊旗を高々と掲げる。
そうして、彼女は大きな声を上げて宣言するように謳う。
「――海よ! あたしに従うのだ! この『
ざああ、ざああ、と
メアリの声に応えるように、海が穏やかに流れ出す。
「な、なんで!? う、海が、水が私を拒んでる!? あ、操れない……! か、体が痛い苦しい……こんなの――」
アミュエッテが頭を抱えて苦しむ。
顔を青くして、ガタガタと体を震えさせていた。
「メアリの神器が、海をアミュエッテの支配から解放したのか?」
海の声を聞き、海を導く。
それがメアリの神器。
であれば、水を支配する権能を持つアミュエッテとは海の支配権を奪い合う同質の力。
より対象の範囲が広いのはアミュエッテの権能だが、ここは海。
海に限った話であれば、その力の優位性はメアリの神器が上回る。
おそらく、そういうことだ。
だからこそアミュエッテはああして苦しんでいる。
「俺の魔法で木っ端微塵に吹き飛ばされたあいつの体を今構成しているのは、海水だ」
メアリの神器の影響力が海水で構成されたアミュエッテの体にまで及ぶのなら。
それはもはや、アミュエッテにとってどうしようもない絶望的な状況。
体の主導権を奪われかけ、周囲にある海に拒絶され権能を満足に行使することもできない。
今のアミュエッテは無力だ。
もう一度その体を吹き飛ばされれば、2度と再生することなどできないだろう。
「最悪、『
あの技は、肉体ではなく魂に直接ダメージを与える技。
あれを使えばアミュエッテであっても倒せただろうが、その後魔力枯渇で気絶することになるのだからあまり使いたくはなかった。
メアリが継承型の神器を持っていて、しかもそれがアミュエッテを倒すジョーカーのような能力だとは。
まったく想定外にも程がある。
だけど、この好機を逃す気もない。
「メアリ、よくやった。お前は最高のキャプテンだ」
俺は、もう一度魔法を発動させる。
圧縮され、凝縮され、炎の剣は破滅をもたらす黒槍へと。
俺の手元に現れたそれを見て、アミュエッテは青ざめながら声を振るわせる。
「ま、待って! 今はダメ! や、やめて、やめてやめてやめてやめてやめて!!! し、死んじゃう!! そんなの今食らったら、死んじゃうから!!!!」
「魔族の命乞いなんて聞くわけないだろ」
再び完成した黒槍。
俺はそれを、ためらいの1つもなく命乞いするアミュエッテへと投げつけた。
「爆ぜろ――『
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