レーヴァテイン
「そら!」
「わ〜、危な〜い」
レーヴァテインの剣身を伸ばすことで、空中に浮かぶアミュエッテへと届かせ斬りつける。
それに対して、アミュエッテは水を操り簡単に防ぐ。
「危ないなんて、冗談言うなよ」
「ふふ〜」
笑みを浮かべたアミュエッテが腕を振る。
すると海上に広がる氷が割れ、その下から大量の海水が宙に浮かび上がる。
「これは、どうするの〜?」
「っ!」
アミュエッテの操る水が無数に分割される。
それぞれが槍のような形をとり、穂先の向かう先はすべて俺へと。
「そ〜れ!」
まるで雨のように空から降り注ぐ無数の水槍。
それぞれひとつひとつが人を簡単に殺せるような威力を持つ上に、その数はおそらく万を超える。
海という枯れることのない力の源泉と、それを自由自在に操るアミュエッテの権能。
殺意が高すぎる。
「『黒炎波』」
上空へと放つ、漆黒の炎。
シーバードに放ったときよりも威力、範囲ともに極限まで強化したそれが水の槍を迎え撃つ。
水と炎は相殺され、お互いに消え去ることで俺はアミュエッテの攻撃をしのぎ切る。
「ふう。……これくらいなら――!?」
ふいに、視界の外から飛び込んでくる複数の水の槍。
直前で気付いた俺はとっさに身を捩る。
それは俺の心臓を狙っていたようだが、すんでのところで急所を外すことができた。
しかし、代わりに俺の左肩へと1本の水槍が突き立つ。
「あは〜! やったと思ったのにな〜!」
「……下か」
俺の魔法によって氷河と化した海だったが、見ると足元に複数の穴が空いていた。
さっきの水槍は氷の下で形成され、氷河を突破して俺を狙ってきていたのだろう。
「上空で派手な攻撃を行なって意識を上に引きつけ、その実本命は下ということか」
「せいか〜い! よく躱したね。やっぱり君はすごいな〜」
基本力押しの魔族のクセに考えたことしてくる。
俺は肩に突き立つ水槍を黒炎で蒸発させると、袖口に発動させた『影収納』からエリクサーを取り出して傷口を回復させる。
「『黒炎装衣』」
黒炎魔法を用いて、氷を溶かさないようにした改造版の『流炎装衣』を展開する。
ひとまず、これである程度の防御力得られるか。
どこまで防げるかわからないが、ないよりはマシだ。
「お返しだ――『劫火槍』」
アミュエッテへ向けて無数の炎の槍を放つ。
万へと届くかのような槍の群れによる攻撃。それは、ついさっきの状況とまったく同じだ。
違うのは、攻守が逆になったこと。
「――水よ」
アミュエッテが膨大な水を操り、炎の槍に対する盾とする。
「あは〜。すごいけど、このままどれだけやっても無駄だよ〜」
「まぁ、だよな」
俺の『劫火槍』はS級魔物すら一撃で葬る威力だ。
しかし、アミュエッテの水の盾を破ることは叶わない。
そもそもの防御力がある上に、変幻自在の水。
炎の槍によって水の盾が破損したところで瞬く間に修復され、その素材となる水はこの場には無限と言って良いほどある。
「どうするの〜? 私は権能をいくら使っても消耗はないから、ずっと続けられるけど。君は違うよね?」
アミュエッテが楽し気な笑みを浮かべる。
「すっごい魔力だよね。私が今まで見てきた中で、間違いなくダントツの1番。他のどの魔族よりも――それこそ、魔王様よりも君の魔力は多いかな〜」
――だけど。
そう言って、アミュエッテは続ける。
「いくら魔力が多いからって、限界はあるよね〜。私はこのまま何日でも続けられるけど、君の魔力はそのうち切れちゃうよ?」
このまま続けていてもアミュエッテの言う通りだ。
まったくの無意味。
アミュエッテは権能を使ったところでまったく消耗しない上に、操る対象の水が無限にある環境。
対して俺の魔力は有限。
一方的に魔力を消費するだけだ。
まあ、そんなことわざわざ言われなくとも最初からわかってるけど。
「再編――」
右手に握るレーヴァテインを変化させていく。
強く、鋭く、凡ゆるものを穿つ、槍の顕現。
鋭く、鋭く、鋭く、鋭く。
圧縮し凝縮されたレーヴァテインは、やがて黒く細長い1つの槍へとその姿を変える。
この魔法は俺のオリジナルの魔法。
ただひたすらに威力のみを求めた単純な術式構造は、基本魔法である『劫火槍』にも匹敵する拡張性を持つ。
これなるは、変幻自在にして旭日昇天。
世界を焼き尽くし神々に終焉をもたらす破滅の炎。
それは剣であり、枝であり、矢であり、杖であり、あるいは槍である。
その名は、すなわち――
「――『
ゴオッ――と空気を引き裂き飛翔する黒槍。
それは、同時詠唱によって絶えず放たれる『劫火槍』を防ぐために展開された水の盾へと到達し――
「!?」
――凝縮された熱の余波が一瞬で水を蒸発させ、一切妨げられることなくその後ろのアミュエッテへとの体へと突き刺さる。
「こ、れは予想外だよ……」
黒槍に貫かれたアミュエッテは、呆気に取られたように呟く。
だが、これで終わりではない。
標的へと到達した黒槍は、その小さな槍身に凝縮された熱を解放する。
そのエネルギーはまさしく、世界を滅ぼす火。
終焉の力だ。
「――爆ぜろ」
まるでそれは、太陽のようであった。
衝撃に世界を揺らし、夜空に昼間のような光を差し。
轟音は、やがて一転した静寂をもたらし。
終焉の名に等しい爆発は、上空のすべてを吹き飛ばした。
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