小手調べ
「私と戦うつもりなんて、人間のくせに生意気〜」
最初に動いたのは、アミュエッテだった。
彼女が気だるげに手を振ると、俺たちの方へと水竜がその体を伸ばして突撃してくる。
俺は魔法を発動し、迎撃する。
「『炎竜爆破』」
炎の竜が現れ、水竜へと喰らいつく。
上空で組み合った2匹の竜は、やがて爆発し同時に霧散する。
「へ〜、似た技だね。ちょっと親近感」
「そうかよ。ならもっとくれてやる――『炎竜爆破』」
再度、魔法を放つ。
さっきとは違い今度は同時に7匹の炎竜が出現し、アミュエッテへと殺到していく。
しかし、アミュエッテに焦りなどはない。
「え〜い」
眠そうな目をこすりながら、気の抜けるかけ声とともに腕を振る。
すると、海がまるで壁のように迫り上がった。
水壁は俺とアミュエッテの間を遮り、7匹の炎竜を見事に受け止める。
「お返し〜」
水壁が、落ちていく。
上空にいるアミュエッテにも届くほどの水壁が、倒れ込むように俺たちの方へと迫る。
アミュエッテが海を操った影響で船が揺れ、まともに立つのが難しい。
そんな中に襲いかかってるまるで津波のような水の壁。
「レ、レヴィ! このままだと飲み込まれるのだ!」
「っ!」
やっぱり、水を操る相手と海上で戦うなんて無茶ってレベルじゃないな。
相手はやりたい放題で、こっちは船を壊されるだけでも負けに直結する。
割に合わないにも程がある話だ。
「だけど、なんとかするしかないよな……!」
水の壁が迫るなか高速で術式を組み立てる。
初めて作る術式――即興の魔法だが、今重視するべきはとにかく速度だ。
わずかな時間の中で水壁による津波を防ぐ魔法を作る。
そのために術式の構成は荒削りなまま、足りない部分は有り余る魔力を注ぎ込むことでゴリ押し。
そうしてゼロから即興で組み立てた魔法を行使する。
「――『ニヴルヘイム』!」
俺を中心に全方向へと放たれた黒炎。
しかし、それによって現れる影響はあまりにも非現実的なもの。
広がる黒炎の通り道は、その一切すべてが燃えることはなく。
むしろその逆。
黒炎の通り過ぎた場所にあった水が、ことごとく凍りついたのだ。
「……性質を変化させる黒炎とはいえ、限度があるな。真逆の性質を与えるのは、さすがに魔力の消費が激しいか」
性質を変化させる特質を持つ闇魔法。
それを組み合わせることによって、自由に性質を変化させる火である黒炎魔法。
即興で作り出した黒炎魔法『ニヴルヘイム』は、あらゆる物を瞬時に凍らす超超極低温の炎を周囲に撒き散らす魔法だ。
水壁による攻撃を防ぐためとはいえ、かなりの力技。
術式の構成を気にせず、有り余る魔力によるゴリ押しによって完成された魔法。
スラミィやメアリ、俺たちの船へと影響を与えないよう調節もしたので魔力の消費量は相当なものだ。
感覚だが、総魔力の1パーセントは減った。
……少なく感じるが、俺の魔力は1パーセントでも宮廷魔法使いの平均の30倍はある。
こんな欠陥魔法、俺以外の誰も使えないだろうな。
「わあ〜! すごい魔法だ〜! 見て、ディールエドールが凍っちゃったよ!」
「レヴィがせっかくめちゃくちゃすごい魔法使ったのに、余裕な感じが腹立つのだ!」
「ご主人様、どんどんすごくなるね」
周囲の海をたちまち氷海へと変えた俺の魔法だったが、アミュエッテはのん気にぱちぱちと手を叩く。
それに対してなぜかメアリがぷんすかと怒っている。
というかこの規模の戦いにわりと一般人でありながら巻き込まれて、すでに適応し始めているメアリに驚く。
彼女こそ、さっきまでまったく余裕がなかったのに。
さすが、大物である。
「凍りついた仲間を助けなくていいのか?」
「べっつに〜。弱っちいディールエドールなんかいても、たいして役に立たないし」
「薄情だな」
「ん〜ん、私はとっても情熱的だよ? 見たこともない大魔法を使ってみせたあなたのこと、私今すっごく気になるもの! もっと見せてよ!」
さっきまでの気だるげだった様子とは一転。
楽しげに目を輝かせて、アミュエッテは両手を広げる。
彼女の背後の空間がガラスのように砕け、割れる。
そこから現れるのは3体の魔物。
見上げるほどの超巨大なタコのような魔物――クラーケン。
鷲に似た漆黒の巨長――フレスヴェルグ。
大きく翼を広げた赤黒の龍――ニーズヘッグ。
そのすべてが、SS級の魔物。
「魔族のくせに人間のふりしてる変な奴に押し付けられたんだけど〜。ちょうどいいから使っちゃお〜」
「そんな気楽な感じで出されても困る戦力だぞ」
今の俺にとっては、SS級の魔物なんてたいして苦戦するような相手じゃない。
だけど、それが同時に3体。
さらに侯爵級魔族まで相手にした状態で戦うのは厄介だな。
「スラミィ、船の護衛と魔物の方は任せるぞ」
「わかった! スラミィもがんばるよ!」
スラミィの頼もしい返事を聞いた俺は、船から飛び降りて凍りついた海上へと降りる。
「アミュエッテ。お前の望み通り好きなだけ魔法を見せてやるよ」
「ふふ〜、素敵。何かお礼してあげたいくらいだよ」
「代価はお前の命でいいよ」
「あなたも、すっごく情熱的なのね〜!」
レーヴァテインを発動し、右手に構え。
上空で楽しげな笑みを浮かべるアミュエッテを見やる。
侯爵級魔族の中でも、特に危険な存在。
ゲームでは条件次第で並の公爵級魔族を上回る強敵となったアミュエッテ。
「――お前はここで、絶対に倒す」
「――楽しい夜を過ごそうね?」
俺たちは、同時に動いた。
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