『変態』

 学園の敷地内にある演習場。

 その中で、俺はマックスと向かい合っていた。


「ドレイクよ。『竜の剣』の話に続き、またも我の要望を聞いてくれたこと感謝するぞ」


 少し離れた位置からフロプトが俺に言う。

 今この場には俺とマックス、そしてメリーネとネロにフロプト、スラミィの6人が集まっていた。


 この集まりはフロプトが呼びかけて実現したものだ。

 その内容は――俺とマックスの模擬戦。


 新たな神器保有者であり、部下という立場になる俺の実力を確認しておきたいというフロプトの要望。

 それに対して実現した模擬戦だ。


 相手として立候補したのが、たまたま入学式の来賓として来ていたマックス。

 そもそも『竜の剣』のような即応部隊の必要性を提案したのが彼だという話だし、俺を試すのであれば納得の人選だ。


「俺にとっても良い機会でしたので。感謝は必要ありませんよ」


 俺としても同じ転生者であり、本来の物語には出てこないイレギュラーであるマックスの能力や実力を知れることには価値がある。


 なので今回の模擬戦は願ったり叶ったりだ。


 俺が言うと、フロプトは満足げに頷いた。


「謙虚なのだな。ドレイクくらいの若者は強大な力を得れば、ほとんどの者が傲慢になるものだ。しかしお前にはそれがない」


「慢心しても死ぬだけなので。俺は傲慢になんてとてもなれません」


「神器を得ておいて、それを言えるのだから大物だ。やはりドレイクはやばいの」


 まぁ、俺も転生先がレヴィ・ドレイクでなければ少しは傲慢になっていたかもしれないけど。

 死亡ルートしかない悪役にとって慢心や油断はすなわち即、死である。


 別に謙虚に生きようなどという殊勝な考えではない。

 俺の立場では自然とそうなってしまうだけだ。


「レヴィさまー! がんばってくださーいっ!!」


 メリーネがぴょんぴょんと跳ねながら元気の良い声で俺を応援する。

 彼女の隣にいるネロとスラミィも、一緒になって応援してくれているようだった。


「さて、マックス。準備はいいか?」


「レヴィ氏こそ、心構えはできましたかな? 貴殿の目の前にいるのは、七竜伯ですぞ」


 俺の問いかけに対してマックスは常に浮かべている微笑みはそのまま、にやりと口角を上げた。


「なら、手加減は必要ないな」


 開始の合図などはない。

 俺たちは、示し合わせたかのようにほぼ同時に動き出した。


「『劫火槍』」


 炎の槍の連続射出。その数は100を上回る。

 俺は小手調べとして、膨大な魔力量に任せた圧倒的な飽和攻撃を放った。


 しかし相手は『変態』の名を冠す七竜伯。

 どうやら、ただ者ではないようだ。


「――マジか!」


 目の前の光景に俺は驚愕する。

 マックスはあろうことか『劫火槍』の飽和攻撃の中をまっすぐ突っ切ってきたのだ。


 当然その体には次々と炎の槍が殺到する。


「ぬはははははははは! ぬるいですぞッ!!」


 しかし、無傷。

 1つ1つが過重魔法によって極限まで威力を高められた『劫火槍』だ。

 オリジナルなどではなく、火属性の汎用的な魔法とはいえその威力はS級魔物ですら一撃で消し飛ばすだろう。


 その飽和攻撃をまともに浴びて無傷。

 鍛え抜かれた筋肉には傷1つ与えられない。


 はっきり言って、異常だ。


「なら、これはどうだ――『劫火炎槍』!」


 再編魔法によって術式の強度を引き上げ、過重魔法による強化の許容量をさらに引き上げる。


 魔力の消費はとんでもないが、それでも俺にとっては微々たるもの。

 どこまでも単純な魔力量のゴリ押しだ。

 だが、威力という面で見ればおそらくフェンリルすら一撃で倒せるほどの威力。


「ぬっ!? おおおおおおおおお!!」


 これはさすがのマックスも無防備に受けることはできないらしい。

 丸太のような両腕を交差させ、炎の槍を受け止めた。


「いやはや! 素晴らしい魔法ですぞ、レヴィ氏!!」


「……たいしたダメージになっていないみたいだが」


 マックスの腕に多少の火傷ができたくらいで、あまり効いたようには見えない。


 まったくもって、呆れた耐久力である。


「ふむ、術式を即興で改編したのか? プロテーンにダメージを与えるなど、明らかに『劫火槍』の威力を逸脱しているな。試験で見せた合成魔法に続いて、これも前代未聞の技術。これは、やばいの」


 後ろでフロプトが何やらぶつぶつと言っている。


「マックス。お前の強みは、その耐久力なのか?」


「さて、どうですかな。1つアドバイスを送るのであれば、拙者は戦士ではなく魔法使いということですぞ」


 そんなことを言いながら、マックスは地面を蹴る。

 その速度は、闘気を持たない人間にはとうてい出せないようなもの。


 俺の魔法を受け止めることも、闘気持ちの戦士ならともかく普通の魔法使いにできるとは思えない。


 言ってることとやってることが違いすぎる。


「嘘つけ!」


「ぬはははははは! 嘘ではありませんぞ!!」


 だがまあ、嘘つきは俺もだけどな。


 目の前に迫るマックスに対して、俺は神器の能力を行使する。

 ――魔力転換・闘気。


「!?」


 マックスの攻撃を、闘気を得たことで上がった身体能力により機敏に動くことで躱す。

 そして俺は、あぜんとするマックスへと不意打ち気味の反撃をした。


「そら!」


「ぬおっ!?」


 俺は驚愕するマックスの隙を逃さず、カウンターの拳を彼の顔面にぶち込み殴り飛ばした。


「1つアドバイスをしてやろう。俺は魔法使いじゃなくて戦士かもな」


「ぬはは! 嘘つきですな!」


 吹き飛んだマックスは立ち上がると、楽しげに笑った。

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